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●科学技術ニュース●NIMS、高分子のモノマー配列を質量分析とAIで決定する解析手法を開発

2023-07-27 09:33:21 |    化学
 物質・材料研究機構 (NIMS) は、質量分析にAIを取り入れることで、高分子のモノマー配列を決定する手法を開発した。

 同研究は 、JST 戦略的創造研究推進事業 CREST「実験と理論・計算・データ科学を融合した材料開発の革新」の一環として、物質・材料研究機構 高分子・バイオ材料研究センター 内藤昌信分野長、日比裕理NIMSポスドク研究員らの研究チームによって行われた。

 同解析手法は、高分子材料の基本構造の詳細な理解を可能とし、新たな素材開発やプラスチックのリサイクル問題の解決に向けた切り札として期待される。

 高分子 (ポリマー) は、原料である小さな分子 (モノマー) が百~数十万個も鎖状につなぎ合わさってできた巨大分子。中でも、我々の身の回りにあふれる高分子材料 (プラスチックや樹脂) の多くは、いくつかのモノマーを組み合わせたコポリマーという高分子を設計することで、望みの材料性能を発揮させている。この時、複数種類のモノマーが特徴的な並び方をした部分配列 (短い鎖) を構成し、それがランダムに繋がってコポリマーを形作っている。

 例えば、同じ種類のモノマーが連続する割合が高い・低いといった配列の分布は、材料の性能や劣化挙動などに大きな影響を与えると考えられている。

 この様な関係性に基づいて最適な高分子材料を分子設計するためには、配列分布を定量的に決定できる「ポリマーシークエンサー」の開発が望まれていたが、実験的に配列を決定できる汎用的な解析手法はこれまでなかった。

 今回、同研究チームは、質量分析データをAIによって解析することで配列分布を定量的に決定する、世界初の実用的なポリマーシークエンサーを開発した。

 具体的には、プラスチック材料を室温から徐々に加熱すると、鎖状の高分子は切れやすい部分から連続的に分解する。この高分子の断片を質量分析すると、元々の高分子に含まれていた部分配列の種類とその個数を反映した質量分析データが得られる。

 この実測された質量分析データをAI解析し、元々の高分子を、部分配列ごとに並んだ仮想的な高分子として並び替えることで、高分子の中での配列を定量化した。

 ポリマーシークエンサーによる配列解析は、モノマーの種類や成分数に制約を受けず、広範なモノマーの組み合わせに対しても適用できる。また断片が気化さえすれば、不溶・不融のサンプルや、無機成分を含むコンポジットでも解析できることから、様々な実材料への応用が期待される。

 今後、「ポリマーシークエンサー」を基軸に、高分子材料における配列—物性相関解析や、配列制御重合法の開発を進めることで、高分子材料全般の性能向上を図っていく。これにより、機能的なプラスチックによる環境汚染問題の解決や、サーキュラーエコノミーに資する高分子材料の開発への展開が期待される。<物質・材料研究機構 (NIMS) >
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