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経済性入門第9回

2012年03月25日 | Weblog
設備投資の経済性

 設備投資の経済性の計算を行うためにDCF法(Discount Cash Flow Method)がある。本稿第6回で行ったように、将来の価値を現在という一定の時期に合わせて評価する方法である。ここでは先のペンキ塗と異なり、投資による将来の収益を予測して投資に採算性があるか検討するため、勝手に収益を膨らませれば投資の採算性は有利になるが、それでは意味がないことは言うまでもない。

 DCF法の代表的な方法として、正味現在価値法(NPV:Net Present Value Method)がある。これは設備投資によって将来得られるキャッシュフローをすべて現在価値に割り引いて合計し、その合計額から初期投資額を差し引いた値(正味現在価値)がプラスである投資案件を採用する。複数の投資案件について検討した場合は、通常最も正味現在価値の大きい案件から採用することになる。

 ここで、「キャッシュフロー」について理解しておく必要がある。初めて企業会計について学ぶ人にとっては、貸借対照表(B/S)と損益計算書(P/L)の関係や機械・設備などの減価償却について費用としての扱いと、それがどのようにキャッシュとして還流してくるのかの仕組みが分かり難いと思うので解説する。

 非常に単純なモデルとして、製造設備としての機械・設備は購入設置に5,000万円必要であったため、資本金5,000万円で事業を起した企業を考える。このとき、B/S(貸借対照表)の右側(貸方=負債・資本)は5,000万円となり、B/Sの左側(借方=資産)の現金・預金が5,000万円とバランスしていることになる。ここで現金・預金のすべてを叩いて製造設備を購入するわけで、B/S上の現金・預金は「0」になるが、機械・設備として5,000万円が資産として残るので、やはり貸方とバランスする。ここまでが起業年度の期首時点の話。

 この企業は購入した機械・設備を使って生産を行い、製品を販売して期末にP/L(損益計算書)を作成してみると、営業利益が丁度「0」となった。営業利益は売上から製造原価や諸経費(販管費など)を差し引いたもので、購入した機械設備の減価償却費も入っている。ここでは5年間の定額法で償却し、残存価額「0」という条件で行っているとする。機械の寿命としても5年間で終わり当該設備を使ってのその後の生産はないものとする。

 従って、操業1年後の期末のB/Sをみると資産の機械・設備は4,000万円となっている。これは購入価額の5,000万円から1年間の減価償却費1,000万円を差し引いたものなのである。機械・設備の価値はここまで減価したというわけである。税金は利益が出ていないので猶予して貰ったとしても、B/Sの左側(借方)だけ1,000万円不足するようであるが、営業利益が「0」ということは、実はキャッシュアウトしない減価償却費の1,000万円がそのままキャッシュとして現金・預金に戻っているのだ。*3)

 このモデルは、減価償却費を浮きだたせるために、営業利益を「0」とおいたが、今後は少しでも利益を上げて行かないと企業としては継続できないことは当然である。そのことはさておき、ここでは、投資をキャッシュの流出(キャッシュアウトフロー)で捉えているのだから、入りについても会計上の利益ではなく、キャッシュインフロー(CIF)で捉える必要があることを確認したわけである。

 資本コストを4%、実効税率40%として、この投資案件はペイするものか。営業利益が5年間「0」では問題なので、2,3年目100万円、4,5年目200万円の利益があったとおいて計算してみる*4)。1年目962万円、2年目980万円、3年目942万円、4年目957万円、そして5年目921万円の合計4,762万円で投資額よりCIFが低くこの投資案件は成立しないことが分かった。

 もっとも初年度から毎年200万円を少し上回る営業利益が出せれば、ペイすることも分かる。




*3)キャッシュフローの増減には、売掛金や仕入れ債務、在庫の増減なども影響するが、投資の採算性分析においてそれらは関係しないため考慮しない。
*4)NPV=キャッシュフローの現在価値総額={営業利益×(1-実効税率)+減価償却費}の現在価値総額-設備投資額

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