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中小企業白書を読む第8回

2009年08月22日 | Weblog
給与と労働分配率の推移

 先に、「雇用動向」ということで紹介した2009年白書の第3章「中小企業の雇用動向と人材の確保・育成」第1節には、企業規模別に正規、非正規社員の給与や労働分配率の推移も載っている。

 賃金は、中小企業に比べて当然大企業が高い。大企業の正社員は中小企業の正社員の3割近く高い賃金(38.3万円vs29.8万円)を得ている。しかしその格差は90年から07年の間あまり広がっていない(27.3%→28.5%)。また中小企業の19.5%は大企業の平均給与38.3万円を上回っている。一方非正規社員では、大企業と中小企業の間で給与差がほとんど見られない。そのため、大企業の正社員と非正規社員の給与差は一貫して3倍近いものになっているのに対して中小企業では2.5倍程度である。しかしこのデータには賞与が加味されていないため、正社員と非正規社員の格差はさらに大きいものであろう。

 これらを時給でみると大企業の正社員が90年の1,694円から07年2,187円に対して中小企業では1,232円から1,618円。また非正規社員では大企業の818円から1,154円に対して中小企業は759円から1,067円となっている。労働時間の関係で、正社員の大小企業格差は増大している。最終2007年は今回の不況期に突入しておらず、派遣切りも問題にならなかった時期のため、直近の格差は分からないけれど、小泉構造改革による格差拡大の批判は月額給与ベースで見る限りには当たらない。

 労働分配率ではどうか。これは中小企業が大企業を凌駕する。企業全体の平均値を83年から07年のスパンでみた場合、中小企業は65%から75%の間で上下しており、大企業は47%から52%程度の間で上下しているにすぎない。さらに大企業は97年から07年の10年で緩やかな下降傾向を示している。

白書から外れるけれど、今回の衆院選のマニフェストに労働者の最低賃金を1000円にしようというのが見られる。どうも根拠がわからない。非正規労働者に対する配慮から「上げればいい」で、思考を停止させているように思えてならない。労働分配率からして大企業には余力がある。東京と地方では元々賃金格差はある。都会や大企業には問題ない制度も、地方では雇用維持が困難となる問題も生じる恐れがある。ボツボツやればいい仕事もあれば、厳しい仕事もある。非正規社員の仕事の付加価値もいろいろである。最低が1000円になって、今1000円以上の仕事がスライドされて上がるとも考え難い。

もっとも、民主党の「子供手当て」にしても「高速道路無料化」にしても、どなたか選挙担当の偉い方が「これでいこう」で決まっているようで、党内でも十分議論がなされているとは思えない。

 昔々、田中角栄さんという方が「日本列島改造論」を掲げてこの国の総理大臣になられた折、列島改造論をして「哲学なき政策」と新聞の誌面で批評されていた高名な哲学者の方が居た。その田中元総理の流れを汲む小沢氏、鳩山氏そして岡田氏とやっぱり哲学なき政策がお好みで、兎に角「後は野となれ山となれ」で、政権交代さえ実現すればいいのであろう。

ドイツにヒトラーが登場したとき、それを支持したドイツ国民はその祖国の歴史に拭えぬ汚点を残した。日本陸軍の満州事変に喝采した日本国民の多くも、行き着いたところで、軍部の暴走の所為にしてもやはり自業自得としかいいようがない悲惨な結果をみた。同様に近未来の日本が、ウイグルやチベットになってからでは遅すぎるのだけれど。

 「哲学なき政策」とは、「深い洞察も検討もなく、その副作用も考慮せず、ただ国民にアピールすることを目的とした見てくれの政策」を言うのではないか。
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