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実戦柔道第7回

2014年10月19日 | ブログ
当て身の修業

 柔道の当て身は、相手の急所を打つ、蹴るまたは突く。そのためには、まず人体の急所の位置を知ることが必要である。人体の急所図は、一般の柔道教本にもある。「極の形」や護身術の解説には必要となるからである。もっとも数百ともいわれる人体急所の一部分(20数カ所程度)しか示していないのが一般的である。

 少し古いが昭和45年に発行された栗原民雄師範*15)の「柔道入門」*16)の図はまとまって簡便である。急所を多く表示しているのは、私の蔵書の中では、大山倍達「ダイナミック空手」*17)の方が詳しい。

 急所は人体の前、後ろ共にあるが、まずは人体の中心に沿って存在する。天道(天倒百会)、烏兎(うと:眉間)、人中(鼻と上唇の中間)、秘中(喉仏)、水月(みぞおち)、明星(丹田)、金的(睾丸)などが代表的である。そして左右対称に両眼(眼星)を筆頭にこめかみ(霞)やわき腹(右:電光、左:月影)などを代表として存在する。左右の下肢、両腕にも存在する。書によって多少名称が異なることもあるが、実戦的には呼称は問題にならない。

 次に必要な知識として、多くの柔道本にもあるのが、拳の種類と用法。こちらは前回紹介した牧野富之助ハ段の「拳法要訣」のものが優れる。1.正拳、2.裏拳、3.拳槌(けんつい)、4.一本拳、5.手刀、6.背刀、7.背手、8.貫手、9.底掌、10.猿臂(ひじ鉄)、11.腕(わん)、12.握拳。以上が上腕によるもので、足を使うものに、1.虎趾(こし:足底)、2.足刀((横蹴りや回し蹴りなどで使う部位)、3.円踵(えんしょう:かかと)、4.背足、5.膝槌(しっつい)がある。さらに手足の使えない時は、頭、額、肩など利用できるものはすべて使えるように平素から鍛錬をするように書き残しておられる。

 極の形や講道館護身術には、受け(やられ役)が取りの後ろから抱き抱える(後捕、後締め、抱取)攻撃があるが、この際受けは、頭を相手の肩の下あたりの背中にぴったり付けろと教えられたものだ。安易に後ろから組みつくと頭を振って頭部を逆襲される恐れがある。受け役といえど武道の定石を外してはならないとの教えであった。

 実戦として当て身が使えるためには、当然相応の訓練が必要で、単なる知識だけではどうにもならない。まずは、形によって相手の打ちこみを捌きながら当て身を行う。相手を捕縛して後、当て身を行う。または相手が組みつこうとする瞬時を捉えて当て身を行うなどである。しかし、これも単なる殺陣や舞踊では仕方がない。当て身が一撃で功を奏すには、拳を鍛えておく必要がある。

 貫手のために砂から始め、砂利に進むなど聞いた話だけれど、空手の人はやるでしょう。正拳を鍛えるためには巻藁など工夫するが、これがなくてもコンクリートや木の床での拳突き腕立て伏せも効果的である。数回から始めて、いくらでも回数を増やせばいい。柔道では、当て身は急所を打つので、そこまで鍛える必要がないのだ。などと高を括らず日頃から鍛えておくことは、寝技などで手の甲が激しく擦られることもあり、試合でも無駄は無い。

 当て身の一番の狙いどころは、相手のわき腹(電光、月影の急所)である。ここを裏拳で打つ。手首のスナップを利かせて当てる瞬間は正拳部分で当てる。裏拳の正当ではないが、柔道の乱取りをやっていると手首が相当に強くなっているので、これをやっても手首を挫くことはないし、却って威力は増すと考えている。なぜわき腹かといえば、構えることなく最も早く当てられること。ポイントを少々外しても効果がそれほど落ちない。すなわち的が大きいので外し難い。従って複数の敵に囲まれた際にも対応し易いと考えるからである。




*15)栗原民雄十段(1896-1979)兵庫県出身、大日本武徳会武術専門学校(卒)教授。オランダのヘーシングの師である道上伯は教え子。増田俊也氏の「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったか」には、昭和4年の第1回武道天覧試合(柔道専門家部門)の決勝戦で、後の木村政彦の師となる柔道の鬼と呼ばれる一人牛島辰熊を破った戦士として記録されている。
*16)昭和45年8月、株式会社鶴書房刊
*17)(改訂新装版)1976年(第13刷)、大山倍達著、株式会社 日貿出版社刊
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