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煩悩を解脱した前期高齢者男のぼやき

『がんもどき』は無視できない?

2011-11-03 11:47:11 | 健康・病気

寒くなってきたからといって、
おでんの『がんもどき』の話ではない。
現在日本では前立腺がんを早期に見つけるための
血中PSA(前立腺特異抗原)検査の有効性について、
厚生労働省と日本泌尿器科学会との間で
意見が分かれている。
厚生労働省の研究班は、同検査の有効性を示す根拠が
不十分であるとしてスクリーニング検査として
推奨しないとの立場である。
米国でも先月、米政府の作業部会が
健康な男性が同検査を受けることを推奨しないとする
報告書案を発表している。
同じような動きは、乳がん、子宮頸がん、卵巣がん
などでも見られている。
癌は早期発見がすべて、との従来からの考え方は
今や通用しなくなっているのであろうか?

10月29日付 New York Times 電子版

Considering When It Might Be Best Not to Know About Cancer がんについて知らないことが最善であることもある、そういうケースも考慮する
By GINA KOLATA
 癌のスクリーニング検査が、この恐ろしい病気の犠牲になることから自分たちを守るための間違いなく望ましい、最善で、そして恐らく唯一の手段として推奨されるようになってから、今ようやく明白な転換が進行中である。

Mammogram
マンモグラフィーなどのスクリーニング検査を減らすべきであると提唱する研究は必ずしも一般に受け入れられていない。

 現在、専門家集団は前立腺がん、乳がん、さらには子宮頸がんのスクリーニング検査を減らすことを提言しており、スクリーニング検査は有益性だけでなく有害性も伴うということを強調してきた。
 2年前、エビデンスを評価し、スクリーニング検査のガイドラインを発表した影響力のある組織 United States Preventive Services Task Force(米国予防医学作業部会)は40才代の女性はマンモグラムの恩恵を受けることはないようであり、50才から74才の女性も毎年ではなく2年毎にその検査を受けるよう考慮すべきであるとした。
 また今年、前立腺がんの PSA スクリーニング検査は生存率の改善につながらず、多大な害をもたらすと同部会は発表した。さらに大部分の女性は子宮頸がんのための Pap(細胞診)検査を毎年ではなく3年毎とすべきであると結論づけた。
 何が変わったのか?
 その答えの多くを占めるのは、より多くの情報が得られるようになったことだ。新たな臨床試験が行われるとともに、様々な種類の医学データの解析が進んでいる。スクリーニング検査のリスクやコストについてこれまでより一層厳格な調査が研究者によって行われた。
 最近の前立腺がんの二つの臨床試験によって、多くの命が、あるいはいくらかの命が救われているかどうかについて疑いが投げ掛けられることとなった。そして、スクリーニング検査は、何もしなければがんは害をもたらさなかったであろう男性に対して生活に支障が及ぶような治療にしばしばつながってしまう結果をもたらしてしまうと主張した。
 新しいマンモグラフィーの解析によると、マンモグラフィーは毎年13万8千人の女性にがんを発見するが、それらの女性のうち12万~13万4千人はすでに致死的ながんであったり、進行が遅いので治療の必要のないがんであったかのいずれかだった。
 過去十年以上にわたって、普及したスクリーニング検査により早期発見が有用となったケースもある一方で、ほとんどのがんにおいてそのような症例が少数存在するということが繰り返し示されてきた一連の膨大なエビデンスは無視できない、とがんの専門家は指摘する。
 「スクリーニング検診は常に諸刃の剣なのです」と、American Cancer Society の主席医官である Otis Brawley 医師は言う。「こういったスクリーニング検査の推進には一層慎重であることが求められます」
 しかしこのような考え方は多くの人たちにとって受け入れがたい。がんで死んでゆく患者を診ている泌尿器科医、放射線科医、腫瘍専門医などの専門家はスクリーニング検査を減らす考え方にはしばしば抵抗を見せる。新しいガイドラインに同意するであろう一般開業医は、一体なぜ毎年のマンモグラムや PSA 検査を行うのを見直そうとするのかを説明するのに患者との長い会話に巻き込まれることに対して懸念を示している。
 スクリーニング検査を行わず患者が致死的ながんを発症した場合の訴訟を恐れる医師もいる。もし検査で命を救うことができるのであれば、スクリーニング検査の害を被るリスクはあっても受けてみたいと言う患者も多い。
 そしてさらに Brawley 医師が発するようなコメントから他の疑問が持ち上がってくる。これらすべてのことは今、コストの問題でなく真の懸念から生じているのだろうか?そして、とにかく、これらすべては単に学術的な議論なのだろうか?というのも、実際の患者に直面してほとんどの医師はいまだに頻回のスクリーニング検査を勧めており患者も同意しているからである。
 がんの専門家によると、ある程度、上記の事柄すべてが答えになっているという。しかし、風潮には変化があるように見える。これまで研究者はスクリーニング検査の害についての話題を持ち出すことすらためらっていたのである。
 「それは第3軌条(触れたくない事柄)だったのです」と Dartmouth Medical School のH. Gilbert Welch 医師は言う。「常軌を逸しているように見えることを恐るがあまり考えていることを正確に発言することをためらっていました」スクリーニングの有益性を研究するために資金を得るのは簡単だったが、有害性を対象とした研究は“あまりに文化からかけ離れていた”と、彼は付け加える。
 しかし今は違うと彼は言う。
 そしてそのような変化とともにスクリーニング検査に対する新たな見方が生じた。
 「もはや、単に、がんを見つけることができますか?ではないのです」と Brawley 医師は言う。「今はがんを見つけることができますか、そしてがんを見つけることで死亡率の減少につながりますか、なのです」
 そして、新たに費用面を重視する動きもある。
 たとえば、The New England Journal of Medicine の最新号には前立腺がんの二人の専門家による論文がある。一人の前立腺がんによる死亡を予防するためのスクリーニング検査に520万ドルが充てられる必要があると結論している最近の研究があることが記載されている。そして著者である University of South Carolina School of Medicine の Allan S. Brett 医師とUniversity of Arizona の Richard J. Ablin 氏は、この数字は包括的なものではないと付け加えている。明らかに真のコストはそれよりさらに大きいのである。
 「現在の PSA に基づいたスクリーニング検査のパラダイムは競合する医療の優先事項と肩を並べることはできないと考えている」と彼らは書いている。
 University of North Carolina のスクリーニング検査の研究者である Russell P. Harris 医師は、「スクリーニング検査のコストは転換点(tipping point)に向かわせる要因の一つです」と言う。
 しかし、医師を含めた多くの人々は変わりつつあるメッセージに混乱していると、医学の専門家は言うが、そのことは理解できることである。
 「人は数十年に及ぶ考え方を直ちに変えることはしません」と、University of Minnesota の専門部会のメンバーである Timothy J. Wilt 医師は言う。
 ある意味、医師や患者は一種のがんのタイム・ワープにはまっている。この疾患は1845年にドイツの医師 Rudolf Virchow によって記載されている。彼は剖検で摘出された腫瘍を見て、がんは体内で広がって死に至らしめる制御不能な増殖を示すものであると述べた。しかし、彼は死に至らしめたがんしか見ていなかった。彼はその他のものを決して見ていなかったのである。
 「今私たちはその考えから離れようとしているのです」とBrawley 医師は言う。近年、大部分でないにしても多くのがんが緩徐進行性であることが研究者によって見いだされている。それらはきわめてゆっくりと増殖し、すっかり増殖を止めることもある。中には退縮するものもあり、それらは治療の必要がない。つまりそれらには害がないのである。
 「私たちは1845年のがんの定義から21世紀のがんの定義に向かっているところなのです」と Brawley 氏は言う。さらに同氏によると、より多くの人たちがスクリーニング検査の限界とその危険性について理解し始めてきているという。
 しかし、医療、病院、さらには権利擁護団体による強力なスクリーニング検査の推進や、スクリーニング検査の利点とリスクについての長年の誤解に直面し、その転換は遅いままであった。
 人々はスクリーニングについての「前向きの要素すべてを受け入れてきました」と、Brawley 医師は言う。「そして皆さんは、母親の膝に抱かれていたころから、がんに対抗する手段はそれを早期に発見し、それを切除することであると教えられてきたのです」
 それでも彼は楽観的である。
 「人々は、スクリーニング検査について、それを容認することに対して今より少しだけ厳格であるべきだということを実際に理解し始めるようになっていると思います」と、Brawley 医師は言う。「そこにはいくらか動きがあるように感じています」

検診というのはむずかしいものである。
それによって何人にがんが発見され、
治療で救われたか?ではなく、
検診を行わなかった場合と比較して、
そのがんによる死亡率が果たして改善されたか?
が問題となるのである。
個人個人としては、
早期にがんを発見してもらうことは
その人にとってメリットに違いないように思うのだが、
治療しなくてもいいはずだった病変に対して
治療が行われ、副作用が出たり場合によっては
死亡する可能性もあるということだ。
マス・スクリーニングには莫大なコストがかかるのは
避けられないことであり、
その有用性については厳格なエビデンスからなる基盤が
重要である、という点に異論はなさそうだ。

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