地球最後の氷河期が終わったのは今から一万年前だそうだが、
それ以前の地球とはどのような状況だったのだろうか?
今から7年前、メキシコのユカタン半島で見つかった人骨は
約12,000年前の15才の少女のものであり、
新たな発見がもたらされたのだという。
あまりに太古のこと過ぎて想像の及ぶところではないが、
その新発見とは一体…
Girl’s 12,000-year-old skeleton may solve a mystery
12,000年前の少女の遺骨が謎を解く?
By Joel Achenbach,
ダイバーたちは岩棚の上で頭蓋骨が腕の骨の上に載った状態の彼女を見つけた。そのそばには肋骨と骨折した骨盤が発見された。ユカタン半島の洞窟に入り込んだとき彼女はまだ15才であり、暗闇の中で、彼女は目前に迫っていた大きな窪地が見えていなかったに違いない。
それから 12,000年以上経った2007年、海面が持ち上がってこの洞窟一帯が水没した状態で、彼女の頭蓋骨―それは逆さまになっていたが、歯は全く無傷だった―がスキューバ服に身を包んだ男性の目に留まった。
水没した洞窟が秘密を明らかにする:ユカタン半島にある100フィートの深さの空間の中でダイバーたちは少なくとも12,000年を経過した頭蓋骨を発見した。
彼とその仲間 2人の 3人のダイバーたちはこの少女に名前をつけた:Naia(ナイア)である。彼女の遺体は Paleoamericans(パレオアメリカン=最古のアメリカ人)の起源を見つけ出すのに役立ち、それらが、この数千年間の Native Americans(アメリカ先住民)とはかなり著しく異なって見えるのは何故なのかという謎の最終的な解決につながる可能性がある。
Science 誌に5月15日にオンライン掲載された論文では、最古のアメリカ人と、より最近のアメリカ先住民との間の外観の差異は、少し以前の比較的急速な人類の進化の結果であって、アメリカへのその後の人々の移住による結果ではない可能性が高いと論じている。
Naia から採取されたミトコンドリア DNA の検査で、今日アメリカの人々が共通に持っている遺伝子マーカーを彼女も保持していたことが示され、科学者らによるとそれは Beringia(ベーリング地峡)に何千年もの間隔絶されて生きていた先史民において進化したものだという。この地峡はアラスカとシベリアの間にある氷河期にアラスカとシベリアの間にあった陸塊で、氷河期に二つの大陸間には陸橋が形成されていた。
この報告によると、このためアメリカ先住民と最古のアメリカ人は同じ系統であり、同じベーリング民族の子孫であるという。彼らは、少し前に起こった進化のために違って見えるだけなのである。
「これは実に驚くべき発見です」と Yemane Asmerom 氏は言う。彼はこの報告を共同執筆した University of New Mexico の地球化学者である。彼は、Hoyo Negro(オヨ・ネグロ=スペイン語、“black hole”ブラックホールの意)として知られるこの洞窟を、初期の人類の祖先(318万年前)である“Lucy”が1974年に発見された場所、エチオピアの Awash Valley に匹敵するものとみなしている。
アメリカに来た最初の人類は、氷河期後に海洋面が上昇する前に存在していたベーリング地峡を通ってユーラシア大陸から渡ってきたとほとんどの科学者たちは考えてきた。しかし、これが、単一の移動の出来事か、沿岸を伝った移動などの様々な経路を介してユーラシア大陸の異なる部位からの複数の移動によるものかについては大きな論争がある。考古学的知見に基づいて、北大西洋を氷の縁に沿って回り込んでヨーロッパから人が来たと主張する特異な説も存在する。
さらにこういった謎に加えて、Naia のような最古のアメリカ人がその後のアメリカ先住民に似ていなかったという事実がある。Naia は小さな出っ張った顔を持っており、頬骨は小さく、目の間隔は広く、前額は突出していた。一方、この数千年のアメリカ先住民は、広く長い平坦な顔と、丸みを帯びた頭蓋骨を持つ傾向にあると、ワシントン州に拠点を置く無所属の研究者でこの論文の筆頭著者である James Chatters 氏は指摘する。
最古のアメリカ人の独特な形態は“Kennewick Man(ケネウィック人)”に認められたのが最も有名である。これはワシントン州のコロンビア川沿いで20年前に発見された9,000年前の骸骨である。顔面再構成によって俳優の Patrick Stewart(パトリック・スチュアート:映画『新スタートレック』『X-メン』に出演)にちょっと似た人物が浮かび上がった(いわゆる白人系の顔)。
彼が海岸沿いに展開し最終的にポリネシアに入植した東アジアの民族につながっていた可能性があると科学者たちは理論づけている。そのシナリオに基づくなら、より現代に近いアメリカ先住民たちは別の移住集団の子孫である可能性がある。
Chatters 氏はインタビューで、「20年間、なぜ最古の人々が異なって見えるのかを理解しようとしてきました。後世の人たちの形態は最古の人たちとはかなり異なっているため、同じ民族の一部であるようには見えないのです」と述べている。
彼はさらにこう続けた。「彼らは世界の異なる地域の出身なのでしょうか?これについては答が出ています。おそらく否であると」
この論文の共著者の一人でオースチンにある University of Texas の考古学者 Deborah Bolnick 氏は、アメリカ先住民に単一の祖先集団が存在するという仮説が新しい遺伝子検査によって支持されていると言う。
「アメリカ全土に見られる血筋です」と彼女は言い、「考古学的研究、遺伝的研究、形態学的研究などからの数十年にわたる様々な系列の証拠、そのすべてから、アメリカ先住民はベーリング人に起源を持つ集団に由来を尋ねることができるのです」
Smithsonian's National Museum of Natural History の法医人類学者で Kennewick Man 研究についての第一人者である Douglas Owsley 氏は、この新しい研究はただ“一つのサンプル”に基づくものであると警告する。『後期更新世の人骨とミトコンドリア DNA が最古アメリカ人と近代のアメリカ先住民とを結びつける』というタイトルのこの論文を読んでいないと断った上で彼は、この報告の中心的仮説を支持するさらなる遺伝学的証拠を見てみたいと述べている。
集団の外見に急速な変化が存在するときには、「人々の移動や流入を意味するものと考えるべきです」と彼は言う。
とはいえ、「これは素晴らしい発見であると思います」と彼は付け加えた。
2007年、3人のダイバーが Hoyo Negro 洞窟を探検した。この洞窟はメキシコのユカタン半島の5マイルほど内陸の窪地が散在する地域にある。Naia(これはギリシア神話の“water nymph”水の精に由来する)が生きていたとき、この洞窟網は間欠的な水たまりを除いては乾燥していたとみられる。現在そこは完全に水につかっているが、その水は大部分澄んでいる。
洞窟の入り口から狭いトンネルを 0.6マイル入ったところで、ダイバーたちは驚くべき光景を目にする:少なくとも150フィート(約46メートル)の深さを持つ巨大な窪地があったのである。
「地中にあるバスケットボールのドームスタジアムを想像してみて下さい」とカリフォルニア州 Monterey を拠点としているダイバー Alberto Nava 氏は言う。
この窪地を発見して2ヶ月後、再度のダイブを行った際、Nava とその2人の仲間とが大きな岩に覆われたその窪地の底に到達し、実質的に動物の骨の博物館となっているものを発見した。その筆頭は gomphothere(ゴンフォセレ)と呼ばれる動物の大腿骨だった。これは象のような動物で、アメリカの他の多くの巨型動物類と同じく人類の到来とほぼ同時期に絶滅した(因果関係があるかどうかはこれもまた永遠の謎である)。
そして Nava 氏の探検仲間である Alex Alvarez 氏は岩棚の上で頭蓋骨を発見した。
「歯は完全に揃っていて、私たちの方を見つめる暗い眼窩を持った小さな頭蓋骨が逆さまになっていました」と Nava は言う。
ダイバーたちはこの骨を動かそうとはしなかった。
「遺骸を発見したら何にも触りたくないでしょう。その状態となるまでに 10,000年かかっているわけですから」と彼は言う。
このダイバーたちはメキシコの National Institute of Anthropology and History の考古学者 Pilar Luna 氏に連絡し、National Geographic Society の支援を受けて、その窪地の探索と水底の化石(剣歯を持った2匹の猫〔剣歯虎、サーベルタイガー〕、6頭のクマ、3頭のクーガー、2頭の地上性オオナマケモノ)の記録を継続した。
続いて一連の細かい計測が行われた。科学者たちは骨の表面から擦り取った物質を検査し、さらに Naia の臼歯の一つを調べるために様々な技術が用いられた。彼らはこの遺骨の年数を12,000~13,000年と推定し、Naia をベーリングの集団と関連づける遺伝子マーカーを発見した。「アメリカ先住民と、彼ら最古のアメリカ人祖先との頭蓋顔面形態の違いは、シベリアの祖先からベーリング人が逸脱した後に生じた進化的変化と説明されるのがベストである」とこの論文は結論づけている。
この洞窟に来るダイバーの一部がこの窪地にある骨を動かしたり誤って壊したりするかもしれないと科学者らは懸念するようになった。そのため Naia の頭蓋骨と彼女の他の4つの骨は研究施設に移動された。
筆頭著者の Chatters 氏は現在、“Human Wild Style”な集団という説を論じようとする新たな論文作成に取りかかっているところだと言う。
これらの最古の移住者たちは攻撃的な種族、つまり冒険人であり、新奇探索者であったものと彼は考えている。彼らはマストドンやサーベルタイガーといった巨型動物類などの野生の獲物を彼らの先祖の狩猟場から遠く離れた人の住んでいない土地に追い込んだ。
しかしその後、彼らの子孫が定住し農業を取り入れるようになると、自然淘汰により穏やかな人格が有利となり、男性も女性も、より柔和で女性らしい外観を帯びるようになったと Chatters 氏は主張する。“Neotony(ネオトニー)”すなわち、より幼少期の特徴が自然選択される方向に向かおうとするこの傾向は世界のあちこちで見られてきたと彼は言う。
それが今後の論文のすべての下地となっているのだが、木曜日に発表された今回の報告では、この最古のアメリカ人少女と化石の洞窟の奇跡に固執している。
Naia はなぜあの洞窟に行き、死に至ってしまったのだろうか?恐らくユカタンが干ばつとなった時代に彼女は水を探し求めていたのだろうと Chatters 氏は言う。あるいは動物を追いかけていたのかもしれない。彼のシナリオによれば、彼女は Wild Style な人物であり、冒険人だったのかもしれない。そして彼女はさらに進み、暗闇の中、あの洞窟の中に入り、遠い未来に向け転落していったのである。
一万年以上前の人骨(しかも少女)から
壮大な人類史の謎が紐解かれるとは感動的だ。
この少女の想像図、ならびに話題の洞窟の構造はこちら。
記事中に出てきた
人骨のミトコンドリアDNA から検出された遺伝子マーカーとは
『mtDNA ハプログループ D1』と呼ばれるものである。
元々はユーラシア大陸の民族に由来するものだったそうだが、
現在ではアメリカ大陸の人々にのみ見られるのだという。
今回の知見のみでは、
最古のアメリカ人がベーリング地峡から渡ってきた人たちであるという確証にはなり得ないようであるが、
可能性をうかがわせる一つの有力な証拠としては注目される。
今後 Naia のすべての DNA 配列の検証が行われるとのことで
新たな画期的な発見が期待されるところである。
また遊びに来ます!!