A Challenge To Fate

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【エレキでビート!】ソノシートで聴く偽ベンチャーズ~ポップ・キッカーズ/ビート・フィーチャーズ/クレージー・ビートルズ/ブルー・ファイヤー/スウィング・ウェストetc.

2021年11月09日 00時41分09秒 | ロッケンロール万歳!


「ソノシート」と言うとこのブログを読む異端音楽ファン諸氏は80年代のパンク/ニューウェイヴ系の自主制作盤が頭に浮かぶだろうが、ここで紹介したいのはそれより遡る事20年前、60年代の日本で流行した、いわば第一次ソノシートブームの作品である。ハードオフのジャンクレコードコーナーに行けば50円で投げ売りされているソノシートの歴史は、日本の音楽ビジネスの裏街道と言える。1958年にフランスのメーカーが開発し翌年1959年に日本で「音の出る雑誌」として売り出されたソノシートは、安価で扱いやすいため瞬く間に人気商品になった。ソノシート専門メーカーが次々登場し音楽物のソノシートも数多く発売されたが、当時音源の権利を独占していたレコード会社がライバル視して自社音源の使用を認めなかったために、ソノシートメーカーは音源を自主制作するしかなかった。安いスタジオ・ミュージシャンやキャバレーのセミプロバンドを雇って低予算で録音された音源は、驚くほどチープ、言い方を変えればプリミティブなものが多かったが、それこそ80年代インディーズと同じ「DIY精神」の産物に違いない。

それが最も顕著に花開いたのが、ソノシートブームと同時に起こったエレキブーム便乗作品である。60年代初頭のベンチャーズの大ヒットにより日本を席巻したエレキブームで、各地にアマチュアエレキバンドが生まれ、テレビの「勝ち抜きエレキ合戦」が人気を集めた。あまりのブームに教育委員会から「エレキは不良の音楽」とレッテルを張られたが、そんなの関係ねぇとばかりに、若者たちは安い国産エレキギターを手にしてテケテケテケテケとベンチャーズの真似をした。英会話や詩吟や童謡の教材として売り上げを伸ばすソノシート業界がそれに便乗しないわけがない。有象無象の和製ベンチャーズが捏造され、あたかもソノシート界の勝ち抜きエレキ合戦の様相を呈した。それはまさに60年代ガレージパンクのコンピレーション『Nuggets』『Pebbles』に匹敵する、日本で最初の草の根ロック衝動の記録と言えるであろう。

●熊木忠とポップ・キッカーズ fest. 鳴海誠『エレキギター・ヒット曲ベスト16』(現代芸術社)


1964年5月に結成された楽団でナイトクラブ、キャバレー、各種音楽吹込みで活躍。メンバーはタンゴ・バンド出身のピアニスト、熊木忠をリーダーに、望月康平(g)、加藤朝雄(as)、萩原利夫(ts)、小林茂夫(b)、今本憲二郎(ds)。主なレパートリーはダンス音楽を中心にして、ヒット曲やカンツォーネなどポピュラー全般をメンバーのアレンジで手掛ける。このソノシートではエレキ・ギターの鳴海誠をゲストに迎えてベンチャーズ・ナンバーに挑んだというが、ロックンロールのノリがどうにも分からないようで、盆踊りっぽい野暮ったさが貫くサウンドは、田植えのBGMに似合いそう。演奏自体は下手じゃないのだが、聴かせどころのテケテケテケテケもいまいち垢ぬけない。アー写はどう見ても社会人ブラスバンド同好会。逆に言えば和製ベンチャーズならではのフェイクな魅力に溢れるバンドと言えよう。


熊木忠とポップ・キッカーズ

●舟山幸一とビート・フィーチャーズ『パンチオブエレキ 18曲』(現代芸術社)


1960年の現代音楽祭でジョン・ケージと共演したという若手クラシック・ギターの第一人者・舟山幸一が、レパートリーを広げるために結成したエレキバンドがビート・フィーチャーズ。舟山を第1ギターに、第2ギター秋山実、第3ギター北村澄、ベースギター加藤稔、ドラムス吉野公彦。秋山は美空ひばりや青江三奈、北村は五木ひろしのバックを務めるギタリスト、加藤も実力派クラシックギタリスト、吉野は50年代から活動するジャズドラマーという異色のスーパーバンドだった。それだけに演奏もタイトで録音もよく、和製ベンチャーズの中では頭一つ抜けた存在である。溝と溝の狭間にチャンス・オペレーションの芽生えを感じるのはソノシートならではのローファイ音質が生む錯覚だろうか?


舟山幸一とビート・フィーチャーズ

●クレージー・ビートルズ『エレキNo.1』『ビート・ヒット・パレード』(ミュージック・グラフ)


名前の通り和製ビートルズとして人気があったグループ。ドラムのリーダー仲儀英は日大芸術部四年生で22歳(1966年当時)、お寺の長男で小さい頃から太鼓をたたいて育ったという音楽の虫。リード・ギター田代かつあきは高校時代に女優・炎加代子のバンドにいたのかキッカケでこの道に入った。ベース・ギターの渡辺アキラはハワイアンからロカビリーへの転向組。サイド・ギターの丘タケシは最年少で鈴木ヤスシのバンド・ボーイ出身。ここで聴けるエレキインストは、録音のバランスの悪さも手伝って、情熱はあるがテクがいまいち伴わないアマチュアバンドのデモテープのような初々しさがある。しかし本当にやりたかったのはビートルズの歌入りカバーに違いない。彼らのビートルズ・カバーのソノシートがあるらしいが、果たして出会うことが出来るかどうか、地図のないソノシート探索の旅は続く。


クレージー・ビートルズ

●6ヴェドウィンズ『1965 ベンチャーズ・ヒットナンバー』(音楽出版販売)


最近(1965年1月時点)結成された楽団で、クラブやキャバレーあるいは各種音楽吹込みで活躍中。メンバー名はないが写真を見るとギター3人、ベース、ドラム、オルガン(?)の6人組。オルガン奏者が最年長に見える。これがかなりの優れもので、ツインギターのハモり、細かいフィンガリングの奇妙なフレーズ、スカバンドっぽいハイピッチなドラム、グルーヴィ―なベース、ツボを押さえたオルガン、と工夫を凝らした演奏は、決して雇われミュージシャンの小遣い稼ぎではなく、本気のバンドサウンドに違いない、などと感心しながら写真を眺めていたら、メンバーの風貌や立ち姿が舟山幸一とビート・フィーチャーズとそっくり、というか同じメンバーに間違いないと気づいた。メーカーが違うのでグループ名を変えて吹き込んだのだろうか?楽器を持っていないのでオルガン奏者だと思った年長の男性は、プロデューサーかレコード会社のディレクターかもしれない。今となっては確かめようがない。ソノシート界の謎は深い。


6ヴェドウィンズ

●麻生京子とブルー・ファイヤー『フルー・ファイヤーのエレキ☆クリスマス』(勁文社)


ティーン・エージャーのお気に入りの「ブルー・ファイヤー」は、ジャズ喫茶、ステージ、テレビにと大活躍。以前のバンド・ネーム「ファイヤーボール」から今年(1965年)の四月に再編成され、ベンチャーズ、アストロノーツのスタイルを取り入れて、若さと強烈なビートを打ち出している。メンバーはエレキ・ギター:野島美樹、ベース:川本正美、エレクトーン・ピアノ:関根英雄、ギター:特別出演・酒井吉夫、唄:麻生京子。演奏は悪くないが、次に紹介するスウィング・ウェストの切れの良さに比べると、育ちのよさというか煮え切らなさを感じる。兄弟グループの「ブルー・コメッツ」がグループサウンズで大成功したのに対して、ブルー・ファイヤーは自然消滅。麻生京子は内田裕也に引き抜かれて、麻生レミと改名してザ・フラワーズに参加し「和製ジャニス・ジョプリン」と呼ばれて日本の女性ロッカーの草分けとなる。ブルー・ファイヤーの音源は勁文社のソノシートでしか出ておらず、その一部は麻生京子のコンピレーションCDに収録されているが、ソノシートでしか聴けない曲も多い。ソノシート墓堀人の血が騒ぐってものよ。


麻生京子とブルー・ファイヤー

●植田ヨシヤスとスウィング・ウェスト『エレキギタークリスマス10』(コダマプレス)


スウィング・ウエストは1957年にロカビリーバンドとして結成され、60年にエレキバンドに転身、さらに60年代後半にグループ・サウンズとしてヒットを飛ばした名門バンド。ロカビリー期のリーダー堀威夫(後のホリプロ社長)に代わって植田ヨシヤスがリーダーとなったエレキバンド期は、レコードとしてはオムニバスLPに数曲収録されただけなので、10曲入りのこのソノシートはある意味貴重かもしれない。ベンチャーズにクリスマスソングのレコードがあるが、これはカバーではなく、スウィング・ウェスト独自のアレンジによるオリジナル・エレキ・クリスマス。さすが名門バンドだけあって、演奏もアレンジもキレまくりのガレージロックが最高にカッコいい。楽譜が読めなくてもエレキ・ギターが弾ける図解つきで、解説もひらがな多めで親切。

●ザ・サンズ『最新エレキ・ギター特集』(日本ビクター)


グループのプロフィールの記載がなく詳細不明。メジャーレーベルのビクターだからそれなりの実力派スタジオ・ミュージシャンだと思われる。達者だが妙に線の細いリードギター、効果音風の合いの手を入れるサイドギター、テケテケテケテケを軽々とキメるベース、エレクトーン上がりのオルガン、鼓笛隊っぽいドラムなど、宴会バンド風のベタなノリ。本物志向のプロミュージシャンがアルバイトのお遊び感覚で適当にやった演奏が、ソノシートならではの絶妙な偽物感を生み出していて好感が持てる。

●ザ・ファイヤー・バーズ『New Hit Pops』(勁文社)


1968年歌謡ポップスのヒット曲のインストカバー集。グループサウンズやビートポップスをベンチャーズ・スタイルのエレキサウンドで聴かせるのがザ・ファイヤー・バーズ。プロフィールは不明だが、他にもGSカバーのソノシートに参加しているようだ。安っぽいオルガンサウンドはアジア大陸的な風味がある。当時あったかどうかわからないが、フィリピンパブのBGMに似合いそう。他には大沢保郎プラスストリングス、横内章次と彼のグループ、秋本薫とストリングスといったムード・ジャズ楽団を収録。いずれもそこはかとない偽物感がオレのソノマニア心を鷲掴みにする。

ソノシート界の深い闇の中にどんなNuggets(金塊)やPebbles(小石)が隠れているのか、探索する楽しみに武者震いする秋の夜長も悪くない。

パチモンと
片づけられない
偽ベンチャーズ


1.熊木忠とポップ・キッカーズ/ダイヤモンド・ヘッド
2.舟山幸一とビート・フィーチャーズ/急がば回れ
3.クレージー・ビートルズ/蜜の味
4.6ヴェドウィンズ/十番街の殺人
5.麻生京子とブルー・ファイヤー/ジングルベル
6.植田ヨシヤスとスウィング・ウェスト/サンタが町にやってくる
7.ザ・サンズ/アパッチ'65
8.ザ・ファイヤー・バーズ虹色の湖
Compiled by Takeshi Goda 剛田武 @盤魔殿
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4 コメント

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ソノシートを探しております。 (ふ~)
2022-02-23 17:51:17
記事を興味深く拝読いたしました

1960年代に米軍基地のみで配布されていた
ロック・ブルース等の新譜のレコードを
日本人プレイヤーが耳コピし
ソノシートに落としていた時期があるそうです。

音楽雑誌の付録や手売りにて
流通していたそうですが
現存しているかも含めいろいろ不明です。
当時演奏していたプレイヤー(75歳)が
もう一度聞いてみたいとのことで
探してみてはいるのですが、未だ出会えていません。
何か情報お持ちでしたらお知らせいただけませんでしょうか。
よろしくお願いします。
返信する
ソノシート (miro)
2022-02-26 11:47:26
ふ~さま

記事を読んでいただきありがとうございました。
60年代のソノシートは中古レコード店やリサイクルショップ、ネットオークションで探せばありますが、ほとんどが民謡や演歌やムード音楽やアニメソングで、ベンチャーズなどポップスものやジャズはなかなか見つかりません。

米軍基地のみで配布されていたものだとすると、一般の市場に出ることは滅多にないと思われます。米軍基地のある町(例えば厚木や福生など)のリサイクルショップを探せば見つかるかもしれません。

ちなみに小野満のスイングビバーズという楽団のジャズのソノシートは所有しておりますが、お探しのものでしょうか。

記事にも書いたようにソノシートはニッチなものなので、根気よく探すしかないようです。
何か情報があったらお知らせします。

よろしくお願いいたします。
返信する
ソノシート。 (ふ~)
2022-03-03 09:46:09
miroさま

お返事ありがとうございます。
気付くのが遅くなってしまいました。

>米軍基地のみで配布されていたもの
と、いいますのが
日本に流通してないレコードを耳コピして
ソノシートで録音し販売していたとのことなんです。
曖昧な書き方で失礼しました。

>ちなみに小野満のスイングビバーズという楽団のジャズのソノシートは所有しておりますが、お探しのものでしょうか。

残念ながらジャズではなく
1963~1670年で当時の洋楽をカバーしたヒットパレードの販売もしたものだということで。

雑誌の巻末で通販でも販売してあったとか。
雑誌名はおろか、出版社社の名前もわからずなんです
ご本人もあちこち探してはいたようなんですが。
早く聞かせてあげたいんですけど
ネットでじっくり探すしかないですね…
返信する
ソノシート (miro)
2022-03-07 17:39:10
ふ~さま

再度のコメントありがとうございました。

実は前回のコメントを書いた後に感違いに気付いたのですが訂正するのを失念しておりました。

ヒットパレードものソノシートは当時いろいろ発売されていたようです。ブログに書いた「New Hit Pops」もそのひとつです。他にも数枚所持しています。バンド編成がや名義が分かれば近道かもしれません。

出来れば75歳のプレイヤーの方のお話も聞いてみたいので、もしよろしければ、メールで連絡を取り合いませんか?

mirohidoku (at) yahoo.co.jp

(at)を@に変えてください。

よろしくお願いいたします。
返信する

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