ガジ丸が想う沖縄

沖縄の動物、植物、あれこれを紹介します。

見聞録019 雨の国

2015年09月07日 | ケダマン見聞録

 ジラースーが珍しく金曜日にやってきた。金曜日に島にやってくることは稀にあるが、ユクレー屋まで足を運んでくるのは珍しい。
 「よー、何だ今日は、結婚記者会見でもやるつもりか?」と声をかけると、
 「何くだらんこと言ってやがる。ポッテカスーが。」と言って、ジラースーはカマジシヂラーしつつ、カウンターの、俺の隣の、ゑんちゅ小僧の隣に腰掛けた。ちなみに、ポッテカスーはアンポンタンと同じような意味で、カマジシヂラーは、カマジシが無愛想、ヂラーは面(つら)で、無愛想な顔といった意味。まあしかし、マナに比べると往生際が悪い奴である。まだ、とぼけようとしている。

 「金曜日だというのに、珍しいね。」(ゑんちゅ)
 「おー、このところやっと天候が良くなってな、で、漁に出てるんだが、今朝、アカジンが釣れたんだ。オバーに土産と思ってな、持って来た。」
 「そういえば、今年のオキナワは雨が多かったそうだね。」(ゑんちゅ)
 「2月の中旬まで晴れた日は3、4日くらいしか無かったんじゃないかな。」
 「ずーっと雨だったのか?」(俺)
 「うん、大雨ってのは少なかったが、ずっと雨か曇りだったな。」
 「雨ばっかり続くと気が滅入ってしまうよね。」と、マナが話に入ってきたので、
 「ほう、お前の心の中はずっと晴れっ放しだったんじゃないのか?ヘ、ヘッ。」とからかってやる。横目でジラースーを見ると、カマジシがさらにカマジシになっていた。

 「ずーっとずーっと雨が続いたら人間は生きていけないだろうね。」とマナが訊いたので、ある惑星の、ある国の話を思い出した。
 「ある星の話だが、ずーっとずーっと雨が続いてる国があったんだ。」ということで、今回はマナとジラースーに語るケダマン見聞録その19、『雨の国』。


 その星も元々は、地球と同じように晴れたり曇ったり、雨が降ったり雪が降ったり、風が吹いたり乾燥したりの、もちろん、これも地球と同じで、地域によって多少のばらつきはあったが、いずれにせよ、地域地域の生物が生きていけるような気象環境であった。しかし、科学が発達するにつれて自然環境が悪化し、っと、これも地球と同じだな。しだいに気象環境も変化していき、ある時ついに、劇的な大変化となった。
 劇的な変化は、暖冬冷夏局地的熱波寒波、集中豪雨などとなって現れた。さらに時が経つと、ある地域では乾燥が続き、ある地域では雨が続くという変化が起きた。
 乾燥が続く、雨が続くというこの「続く」は、今年のオキナワの1月、2月が雨続きだったという程度の「続く」では無い。ある国では1年のうちに雨の降る日が2、3日あるかないかで、それもほんのお湿り程度であった。別の国では逆に、雨の降らない日が2、3日あるかないかで、その日も概ね曇りで、太陽は常に雲の向こうにしかなかった。


 ここで、マナに訊いた。「どうだ、こんな世界に住んだとしたら?」
 「乾燥が続くとあれでしょ、植物が生育できない。植物が育たなければ動物も生きていけないでしょ。降雨地の方も、太陽が出なかったらやっぱり植物は育たないよね。第一、毎日雨だと気が滅入るしね。どちらも人間は生きていけないんじゃないの。」
 「いや、科学が十分に発達しているのなら乾燥地の方は何とかなるな。降雨地から水を引いたり、海水を淡水化したりして、水の需要は賄えるだろうな。」(ジラースー)
 「その通り、そういった過酷な条件下でも人は生きていった。」


 ある島国が、国ごとすっぽりと降雨地になってしまった。国家存亡の危機となってしまった。毎日毎日雨、来る日も来る日も雨、人々の活力も失われていった。
 水は十分にあっても太陽光が無いのだ。やはり植物は育ちにくい。動物も育ちにくい。手の平を太陽にかざすこともできない。僕らはみんな生きているを歌えない。元気が出ない。気分が暗くなる。初めの頃は雨の中で運動会、雨の中で遠足、雨の中でビーチパーティーなどをやっていたが、しだいにそんな元気もなくなってしまった。
 子供達は外で遊ばなくなった。ほとんど全ての子供が青白い顔で、筋肉の痩せたもやしっ子となってしまった。元気の無い子供が増えていった。


 「でしょ、やっぱり。そのうち生きる気力も無くなっていくのよ。」とマナ。
 「まあな、一時はそのようにも思われたが、ところがどっこい、そんな中でも人々は生き続けていった。子供達の元気は無くなったが、それも一時的なもんだったんだ。」

 寝ても雨、覚めても雨、息をしても雨の中で、やはり、科学が十分に発達していたお陰である。人々は屋内環境を充実させ、人工太陽光を屋内に設け、そこで植物を育てるようにした。それによって動物も育った。十分では無いが、食料は供給できた。
 家の中でゲームばっかりだった子供達は水を得た魚のように人工太陽の下で遊んだ。合羽を着て、雨の中ではしゃぐことは無かったが、屋内では元気に遊んだ。お陰で、降雨地になる以前よりもむしろ、子供達の体力は向上したのであった。
     

 「うん、なるほどね。で、話はどうなるの?」と再びマナ。
 「いや、話はそれだけのことだ。つまりだな、人生も同じってことだ。それまでどんなに辛い人生だったとしても、頑張れば幸せは得られるってことだ。」
 「それ、私のことを言ってるの?」とマナが訊いたが、それには応えず、
 「なー、ジラースー?」と、ジラースーに問いかけ、ニコニコとできるだけ優しい笑顔を浮かべながら奴の顔を見た。カマジシジラーがさらにカマジシっていた。

 語り:ケダマン 2008.3.7


見聞録018 軌道修正プロジェクト

2015年09月07日 | ケダマン見聞録

 昨日、マナとジラースーが密かに会っているという話をゑんちゅ小僧として、その後、ジラースーをからかってやったんだが、奴はとぼけてやがった。ホントのところはどうなんだろうと、却って気になってしまった。
 で、今日、ゑんちゅ小僧がやってきた時に、再びその話となる。
 「いや、付き合っているのかどうか俺にも分らないよ。」
 「男と女が二人っきりで会ってんだ。逢引に決まっているだろうが。」
 「それならそれで、良い話だけどさ、ホントに良い話ならさ、そのうち二人から何か報告があるんじゃないの。」と、ゑんちゅは今日も分別臭いことを言う。俺は何か消化不良のような気分のまま、ゑんちゅと二人、ユクレー屋の中に入って、いつものようにカウンターに座り、いつものようにマナを相手に酒を飲む。
 マナもまた、いつものように俺達の相手をする。普段とちっとも変わらない。「とぼけた女だ」と思いつつも、逢引の件については聞けない。男は冷やかすことができるが、女はちょっと躊躇する。冷やかし加減が、恋愛ベタの俺には分らないからだ。で、ちょっと遠回しに聞けないものかと、ある物語を話すことにした。ということで、マナに語るケダマン見聞録その17の始まり、題は『軌道修正プロジェクト』。

 と、俺が話し始める前に、マナが口を開いた。
 「軌道修正ってさ、前に聞いたような気がするな。えーと、何だったっけ、そうだ、確か『お節介な女神』とかいう話だったよ。でしょ?」
 「あー、確かにそんな話もあったな。だけどな、自分達の住む星の軌道修正を自分達でやるというのは相当難しいんだ。銀河全体の運行に関わるからな。こっちを直せば、どこかに影響が出たりするからな。急にはできないことなんだな実は。」
 「じゃあ、地球の軌道がずれていたとしても、すぐには直せないんだ。」
 「うん、まあそうだな。いや、とにかく、だからよ、これから話す話を聞け。」


 普通に生活している時空以外にも、別のたくさんの時空が存在していることは、俺達マジムンを見ているから知っているな。そんな時空の一つに宇宙の運行システムを管理する組織があって、あちこちの星の運行に異常がないかどうか監視している。
 知的生命体が住む惑星で、例えば、前に話したリ星のように科学が発達して、自然が破壊されたような星は、その多くが最後には軌道がずれてしまうことになる。そういう星のほとんどはそのまま放っておくんだが、その軌道のずれが他の惑星に悪い影響を及ぼすと予想された場合にその組織は動く。そこで、軌道修正プロジェクトを立ち上げ、あれこれ手段を使って、ずれた軌道を修正しているってわけだ。この銀河にも助かった惑星が多くある。まあ、その組織があるお陰で、銀河も大過無く運行ができているってわけだ。
 地球の場合はしかし、もしも軌道がずれて、それが他の惑星に及ぼす影響が多少あったとしても、放って置かれるかもしれない。軌道修正プロジェクトの組織が修正する星、しない星を決める場合、もう一つの条件がある。それは、修正後、その星の軌道が長らく保たれると判断された場合には、修正する星となるんだ。
 例えばだ、その組織の下部の下部の下部の、そのまた下部辺りに太陽系の運行システムを管理する部署がある。その会議室で、
 「ボス、地球の軌道がずれています。どうしましょう。」
 「そこは駄目だ。いくら修正しても、また元に戻る可能性が高いからな。構わんから放っておけ。」なんてことになるわけだ。


 場面はユクレー屋に戻る。
 「見放されるんだ。どうしたらいいんだろうね?」(マナ)
 「そうだな、軌道を修正するよりも、人間の行動、感性を修正する方が先だな。」
 「ふーん、心を入れ替えなさいってことだね。・・・ところでさ、軌道修正プロジェクトって話はそれでお終い?」
 「あー、うん、まあ、一応それだけなんだが・・・、あのよ・・・、」
 「なによ?」
 「人間にも軌道修正の時期ってのがあるんだ。天から与えられた本来の進むべき道を見失う時期があってな、その時には修正が必要なんだな。例えばだな、結婚すべきなのに、結婚すべき相手も近くにいるのに、そうしていないのはだ、軌道がずれていると言ってもいいわけだ。その時には修正が必要ってわけだ。」
 「いったい、何の話なのさ?」
 「いや、お前もそろそろ軌道修正の時期かなと思ってさ。」と言うと、最初はキョトンとしていたが、しばらくして、
 「あー、そういうことね。」と言って、マナは意味ありげにニヤリと笑った。すると、それまで黙っていたウフオバーが口を挟んだ。
 「来月か再来月になるかね、マナの軌道修正は。」と、こちらはニコニコ笑った。 
     

 語り:ケダマン 2008.2.22


見聞録017 ヤ星人VSリ星人

2015年09月07日 | ケダマン見聞録

 「良い天気だねぇ。」と、窓を開け、空を見上げてマナが言う。
 「おー、ちょっと寒い日もあったが、この頃はまた暖かいなあ。この程度の温暖化なら悪くは無いよな。これで、夏が涼しければ文句は無いんだけどな。」
 「温暖化ねぇ、このまま進んでいくとどうなるのかなあ。」
 「まあ、温帯が亜熱帯、亜熱帯が熱帯地方になるんだろうな。」
 「熱帯は人の住めない超熱帯ってことになるの?」
 「いや、それはそれなりに、生き方を変えて住むと思うけどな。問題はあれだ。天変地異が増えて、砂漠化、食糧難になるってことだろうな。」
 「人類に明日は無いってことになる?」
 「うーん、どうだかな。少なくとも俺達マジムンには、明日はあるけどな。人類も環境変化に適応して、それなりにやっていくんじゃないか。」と俺が応えるのを聞いているのか聞いていないのか、マナは話を変える。女にはよくあることだ。

 「昨日さ、モク魔王が平和は不器用だからとか言ってたでしょ。不器用な平和ってよく理解できないんだけど、どういうことなんだろうね。」
 「はー、そりゃあまあ、平和とは簡単に形成できるもんじゃ無いってことだろ。おー、そうだ。不器用で思い出した。」
 ということで、ケダマン見聞録その17、『ヤ星人VSリ星人』


 地球から遠く離れた銀河にヤ星とリ星という知的生命体の住む2つの星がある。これらの星は同じ恒星の周りを回っている、いわゆる双子の惑星で、今の地球にあるスペースシャトルで一ヶ月もあれば行き来できる距離にお互いがあった。
 双子の惑星は、元はほとんど似たような環境であったが、時代を経るに連れて、その環境は大きく異なっていった。ヤ星人は不器用であった。ために、科学は発展しなかった。リ星人は器用であった。ために、科学は大いに発展した。ということで、リ星人が宇宙船に乗ってヤ星へ行けるほどになった頃、二つの星は似ていない双子となっていた。

 ヤ星人は自然と共に暮らしていた。大地を耕し、作物を育て、それを食すという生活であった。それは何世紀経っても変わらなかった。進歩が無いと言えばそうなのだが、彼らの目的は生きることであり、自然との共生は、そのために必要なことであった。
 地域によっては魚を食べるところも僅かにあったが、彼らのほとんどは穀物と野菜、果物の菜食主義であった。このことから、彼らのことをヤーセー人とも呼んだ。・・・今のはウチナーンチュにしか分らない駄洒落なので、どうでもいい話だが。
 菜食主義であったため、当然、狩をすることは無く、よって、それに必要な武器、弓矢とか槍とかも持たなかった。彼らはまた、平和第一主義であった。民族、部族間での争いはたまにあったが、それらの決着は綱引きなどのゲームに拠った。つまり、ヤ星には集団的殺し合いとなる戦争が無かったのである。なのでまた、彼らに他の者を殺傷する武器は必要無かった。武器の必要が科学の発展に大いに寄与する、と言えるので、彼らの科学が発展しなかったのにはそんな理由もあったのである。

 一方、リ星に争いは絶えなかった。いつもどこかで戦争があり、どの国も常に戦争への備えが必要であったため、リ星にはどんどん新しい武器が生まれ、それらがどんどん作られた。それによって彼らの科学は大いに発展したのであった。
 知能の発達したリ星人は物事を論理的に考えることに優れていたが、悪いことに感性の発達が遅れていた。彼らの論理的思考は欲望を満たすために使われた。いかに得するかが彼らの目的であった。よって、他人のものを奪い取ることに躊躇せず、星の持っている資源も争って貪り尽くした。それが戦争の原因となり、また、星そのものを疲弊させる原因ともなった。そしてある時、星の環境悪化が回復不能であることを知る。

 環境悪化が回復不能となって、惑星間移動ができるようになったら、これはもうごく当然のように、リ星人はヤ星を侵略することになる。
 「ヤ星を植民地にしよう。」と決定され、実行された。
 「我々がこの星を管理する。我々に住む土地を与え、食料を年貢として納めろ。」というのがリ星の要求である。むろん、そんな理不尽な要求をヤ星人は受け入れない。そしてついに、ヤ星人対リ星人の惑星間戦争となった。自然と共に生活してきたヤ星人の、有史以来続いてきた平和もこれで途切れたのであった。
 リ星には大量殺戮可能な武器がある。ヤ星には弓矢も無い。殺し合いとなれば結果は見えている。しかし、リ星人は、ヤ星人を労働力として残しておきたいので、あまり無茶なことはやらない。少し痛めつけては停戦交渉をする。器用なリ星人は交渉のたびに多少の譲歩も用意していたのだが、ところが、不器用なヤ星人は真っ直ぐものを考える。理不尽は理不尽、駄目なものは駄目なので、「話の落とし所」なんてことは思わない。戦争は泥沼状態となり、長く長く続いた。ヤ星からも平和は消え去ったのであった。
     

 場面はユクレー屋に戻る。
 「えっ?それでおしまい。」
 「んだ。人間が器用でも不器用でも、平和というものが不器用だから、平和であり続けることは難しいって話だ。」
 「でもさ、その後、どうなったのさ。」
 「ヤ星人は徹底抗戦したんだ。そのうち戦い方を覚えて、やってくるリ星人と五分に渡り合えるようになった。惑星間移動では大軍を派遣することができなかったのがリ星の弱点だったんだな。戦争は100年くらい続いたな。その頃に、リ星に超大規模な地殻変動が起こって、大地震、大津波、大噴火などで、リ星人が先に滅んだんだ。」
 「先にって?リ星人が滅んで、ヤ星に平和が戻ったんじゃないの?」
 「いや、長い戦争でヤ星の自然は破壊され、耕されなくなった大地は痩せていった。だけでなく、ヤ星人の心も荒んでいった。リ星人が去った後は、ヤ星人同士の争いが起きたんだ。リ星人から奪った武器を使ってな、で、ほどなく滅びたよ。」
 「うー、あんたの話っていつも、夢も希望も無い話だよね。」
 「みんなが努力しないと平和は築けないってことだ。つまり、努力すれば平和は訪れるってことだ。そこに一縷の希望はあると思うぜ。」

 語り:ケダマン 2008.2.1


見聞録016 かいだんのかいだん

2015年09月07日 | ケダマン見聞録

 餅のことでマナに怒鳴られて、ゑんちゅ小僧と二人ユクレー屋から逃げたのだが、どこ行くあてもない。浜辺は寒そうだし、シバイサー博士のところはゴリコの遊び相手をさせられるので面倒だ。マナの怒りが収まるまで、おそらく、夕方くらいまではユクレー屋に戻れそうも無い。村の中をブラブラ散歩して時間を潰すことにした。
 「村の人から餅を貰って、それを持って帰ればマナも許してくれるよ。」とゑんちゅが言うので、先ず、頼りになるマミナ先生を訪ねた。事情を話すと、
 「あー、そんならあとで、私が集めて、ユクレー屋に持っていくよ。20個くらいでいいのね。あんたたちはユクレー屋に戻って、マナにそのことを話しておきな。」と応えてくれた。さすが、頼りになるオバサンなのであった。で、我々は店に戻った。

 窓から恐る恐る中を覗き込む。マナは台所だ。湯気が立っているところを見ると、豆を煮ているんだろう。「そっと忍び込むか?」とゑんちゅに言うと、
 「ダメだよ。こういう時は、明るく入っていって、『マナ、餅が見つかったよ。』って大きな声で言った方がサッパリするんだよ。」と答える。元ネズミのくせに、元人間の俺より処世術をよく知っている。さすが、瓦版の記者なのだ。で、その通りにする。

 ゑんちゅの言う通りであった。マナの怒りは消えたみたいであった。
 「あら、そう。それはアリガトね。白玉粉があったから、白玉ぜんざいにしようかと考えていたところさ。餅が手に入るんだったらその方がいいからね。マミナ先生が来るんだったら、博士やガジ丸、勝さんたちも呼んで、今日はぜんざいパーティーにしよう。」と明るく言う。俺はホッと胸を撫で下ろす。
 そして、豆の煮えるのを待っている間、マナの機嫌取りのつもりだが、ケダマン見聞録その16、「かいだんのかいだん」を語って聞かせる。


 マジムンになる前から時々あったことだが、俺は突然、異世界へ飛ばされて、そこで自分とは全く違う人生を経験させられたりした。この話はその中の一つ。

 俺は賞金稼ぎのガンマンであった。食うか食われるかの世界で、ほとんど毎日が命のやり取りの日々である。俺達に明日は無いみたいな生き方なのである。
 ある日、宿場町のバーで飲んでいると、高額食金のかかった獲物を見つけた。相手もすぐに俺に気付き、外へ逃げた。その後を追って、俺も外へ出る。
 外へ出るとそこは、100年前のシカゴの街に変わっていた。カポネの時代だ。「ん?西部劇だったのにギャング映画に変わってる?」と思いつつ、さらに追って行くと、獲物は建物の地下へ繋がる階段を下りて行った。俺も後に続く。
 そこはまた突然、近代的なデパートの店内となっていた。「ん?100年前だったのに現代劇に変わってる?」と、下りてきた階段へ戻ろうとすると、そこに階段は無かった。近くにデパートの店員がいた。日本人だった。「ん?アメリカだったのに日本に変わってる?」と思いつつ、階段のことを訊く。
 「ここは最上階で、上りの階段はありません。」と答える。「そんなバカな、俺は今、ここを下りてきたんだ。」と振り返った。が、店員の言う通りであった。そこに下りはあったが、上りの階段は無かった。再び振り返って、店員のいた方向を見ると、そこは灰色の壁になっていて、誰もいなかった。
 その時、1枚の紙切れがヒラヒラと落ちてきた。拾った。「お前にはもう下りる道しか残されていない。」と血の色で書かれてあった。下りの階段はどこまでもどこまでも続いていて、その先は闇に包まれて見えなかった。「黄泉の世界化か」と恐怖を感じる。
 顔を上げると辺りにはたくさんの幽霊が笑っていた。階段の怪談だった。


 「それがオチなの?ただのくだらねぇオヤジギャグじゃないの。真面目に聞いて損したさあ、まったく。」とマナが呆れた顔をする。
 「まあ、待て、話はもう少し続く。」


 「お前らいったい何者だ?いったい俺に何の用だ?出口はどこだ?俺は帰らなきゃいけないんだ。明日、愛しのエリーと会う約束をしてるんだ!」
 「フッ、フッ、フッ、お前に明日は無い。」
 「何言ってやがる。ベッドに入って、寝て、起きたら明日だ。」
 「お前はもう死んでいる。俺達と同じ幽霊だ。」
 「北斗の拳みたいなことを言いやがって、何が幽霊なんだ。」
 「自分の足元を見てみろ。」
 俺は言われたとおり自分の足元を見た。確かに彼らの言う通りであった。
 「どうだ、俺達と同じだろ?・・・俺達に足は無い。」

 おあとがよろしいようで、チャンチャン。
     

 「バカっ!くだらねぇオヤジギャグを2連発しやがって。時間の無駄だったさあ、もう腹の立つ!」とマナは不機嫌に言う。マナの機嫌取りのつもりで語ったケダマン見聞録であったが、どうも裏目に出てしまったようだ。
 しかしまあ、その不機嫌がマナの料理に悪影響を与えたなんてことは無かった。ぜんざいはとても美味く、ぜんざいパーティーは賑やかに過ぎていった。

 語り:ケダマン 2008.1.18


見聞録015 お節介な女神

2015年09月07日 | ケダマン見聞録

 北国では凍える季節だが、ここ南の島の12月は陽射し穏やか、風は緩やか、何とも心地良い。今日はまた特別良い天気だ。良い気候だ。爽やかだ。
 「いいねぇー、この気候、年中こうだといいんだがな。」
 「だね。なんだか、幸せな気分になるよね。夏が暑かっただけにね。」
 「ああ、それにしても今年の夏は暑かったな。異常だったぜ!」
 「異常って、あれでしょ、地球温暖化の影響でしょ?」
 「あー、たぶんな。そういうことだろうよ。」
 「温室効果ガスの影響ってことでしょ。止まらないのかなあ。」
 「まあ、しょうがないだろうな。電気使わない、車使わない、飛行機使わない、なんて大昔の生活に戻るようなこと、人類にはできない話だ。」
 「だよね、だけど、その科学の力で何とかできないかなあ。」
 「おう、科学の力で温暖化を止める方法ってか。そりゃあ、無いことは無いと俺は思うぞ。地球の公転軌道をちょっとずらして、太陽から遠ざければいいんだ。」
 「あー、そうか、そうすると気温は下がるね。でも、そんなことできるかな?」
 「じつはよ、こことは違う宇宙にそういう星があったんだ。」
 ということで、マナに語るケダマン見聞録はその15は『お節介な女神』。

 その星を支配している知的生命体は、地球人と同じく、自らの欲望を抑えきれずに墓穴を掘るタイプであった。そして、そこの時代は地球より幾分進んでおり、環境悪化はいよいよ生命維持不可能となる臨界点を目前としていた。
 その星の科学者達はそうなるずっと前から警告を発し、環境悪化を防ぐための努力もしたのだが、人間の欲望の前では非力であった。科学の力で人間の欲望をコントロールすることはできたのだが、それは倫理に反することであり、許されることでは無かった。一人一人が自らの欲望をコントロールしなければならない。それは宗教の仕事である。
 科学者と宗教家は何度も会議を持ち、危機を脱するための方策を模索した。が、良い方策は見つからなかった。最後の会議で宗教家の代表が言った。「あなた方はあなた方で、できる限りの努力を続けてください。我々は神に祈りましょう。」と。

 科学者達には最後の手段があった。地上の一箇所で大量の核爆発を起こし、地球の軌道を変えるという方法である。その方法は大きな危険を伴った。爆発の影響で地殻変動が起き、大きな地震や火山噴火が頻発することが予測された。また、そもそもちょうど按配良く起動がずれるかどうかにも不安があった。爆発の力が強過ぎて、その結果、太陽から離れ過ぎて、逆に氷河期になってしまう可能性もあった。
 しかし、もはや他に手段は無い。イチかパチかである。ある日、ついに、「公転軌道をちょっと外側へずらす計画」、略して「公外計画」が実行される。
 結果、核爆発による悪影響は予想以上のものであったが、温暖化の進行を食い止めることができるという点では、その実験はいちおう成功と言えた。

 科学者達が「公外計画」を極秘の内に進めている頃、宗教家たちはひたすら神に祈っていた。その祈りは全く無私のものであった。自分では無く、地上の生命のために祈ったのである。神にその声が届いたならば、その誠実さにきっと心を動かすであろう。
 そして、これまた偶然にも、その時たまたまその惑星の近くに神がいた。その宇宙の神は「何か不都合は無いか、あれば直してあげよう。」との思いで、宇宙をくまなく巡回していた。なので、その時その場所にいたのは何万年に1回の頻度でしかない。宗教家たちの声が神の耳に届いた。それは、まったくもって奇跡なのであった。

 「あれまあ、何を祈っているのかと思ったら、この星、ちょっと軌道がずれているじゃないの。さっそく直してやらなくちゃあね。」と神は一息吹いた。それはしかし、科学者達が「公外計画」を成功させたすぐ後のことであった。その一息で、あっさりと軌道は元に戻った。宗教家たちの祈りは通じたのであったが、科学者達にとっては「何たるこっちゃ!」なのであった。生命の半数を失うという多大な犠牲を払ってまで実行した「公外計画」が、全く無駄なものになってしまったのであった。
 一息吹いたその神は、今ある現象が何故起きたか、現在どのような状況にあるか、今後どうなるかなどについて、深くは考えないタイプの神なのであった。
 その後しばらくして、その星の知的生命体は絶滅した。
     

 場面はユクレー屋に戻る。
 「ということで、この物語はお終い。」と言うと、
 「結局、科学を過信してはいけない、ひたすら祈ることが功を奏する場合もあるっていうことが言いたいの?」とマナが訊く。
 「そりゃあ違うだろ。宗教家たちが祈らなければ上手く行ってたんだから。宇宙には奇跡を起こす力を持った者がいるけれど、その者も失敗することがあるって話だ。」

 語り:ケダマン 2007.12.20