子供の頃、『野生の王国』というテレビ番組があって、私は好きでよく観ていた。強いものに憧れている少年は草原に佇むライオン、森林に佇むトラ、荒野に佇むオオカミなどがカッコイイと思った。時が経って中学高校の頃、映画が好きでよく観に行った。特に西部劇が好きでたくさん観ている。荒野の用心棒など、一匹狼に少年は憧れた。
それからまた随分経って、一匹狼に憧れた少年は十分オジサンになって、「男の本質はやり逃げ」という考えを持つようになった。荒野を彷徨い、雌を見つけ、口説いて、やることをやったら、また旅に出る。雌が妊娠したとしても知らんふり、子育ては雌任せ、その代わり、女房子供に感謝されることは無い、慕われることも愛されることも無い。
現在、私の話し相手をしてくれる女性は数人いる。みな人妻。デートに誘えば付き合ってくれるであろうアラサーの独身女性が一人いるが、彼女はもう赤い糸で結ばれているであろう相手を探さなければならない切羽詰まった歳になっているので、そうそうオッサンに付き合わせることもできない。もう1人、アラサーよりずっと上の独身女性がいて、彼女も誘えば話し相手をしてくれるであろうが、静岡在なのでなかなか会えない。
2ヶ月ほど前、友人のK子と昼飯デートをしたが、それ以前半年ほどデートは無く、その後も無い。去年1年間は無く、一昨年も無かったのではないか。であるが、それが淋しいと、私はちっとも思わない。心の片隅で気に掛けている・・・例えば、大病で入院したと聞けば見舞いに来てくれるような人が数人いれば、私はたぶん満たされる。
友人のMは結婚して、離婚して、すぐに同じ人と再婚したという経歴の持ち主だが、会うと、たいていは女房への愚痴を聞かされる。「なら別れたらいいのに」と言うと、「俺は1人ではダメなんだ、1人のままだときっと頭がおかしくなる」と答えた。
「淋しがり屋なんだ」と私はMのことをそう判断したが、淋しがり屋は他に、中年になって、20歳近い子供3人を持つバツ一女性と結婚した友人Tも「家庭は賑やかな方がいいんだ」と言っていたし、50も半ばを過ぎて結婚したIや50も半ばを過ぎて「結婚したい」と言っているKなども、たぶん淋しがり屋なのかもしれない。
過日、ラジオから「孤独遺伝子」なる言葉が聞こえた。人間には孤独になりたがる遺伝子を持つ人と持たない人がいるとのことであった。「これだぜ俺は!」と思った。私はきっと、間違いなく孤独遺伝子を持っている。友人のMやTやIやKはそれを持たないのだろう。孤独遺伝子を持つ者がどのくらいの割合でいるかは聞いていないが、私の周りの淋しがり屋らしき友人達を数えたら、孤独遺伝子を持つ者は少数派に違いない。
孤独遺伝子を持たない者にとっては女房がいること、子供がいること、家族団らんの時間があることなどが幸せで、孤独は不幸なのだと思う。しかし、孤独遺伝子を持つ者にとっては孤独こそが幸せとなる。記憶はおぼろげだが、昔の有名な哲学者が「結婚は人生の墓場」と語り、昔の有名な文学者が「結婚は忍耐」などと言っている。その哲学者も文学者もきっと、孤独遺伝子を持つ男だったのであろうと私は想像する。
今の世は「やり逃げ」が許されない。私もそんなことはしていないが、逃げてばかりいる。そんな男はきっと孤独死だ。できれば老衰死で、孤独自然死と言われたい。
記:2015.7.31 島乃ガジ丸
私が借りている300坪の畑ナッピバルには1羽のイソヒヨドリが住みついている。イソヒヨドリは磯と名の付く通り海辺に近い場所で多く見られるとのことだが、沖縄では磯から離れた住宅街でも普通に見られる。私の畑の近辺でもあちこちにいる。雄にはたぶん縄張りがあって、ナッピバルにいるイソヒヨドリはナッピバルのすぐ傍に住処があり、ナッピバル近辺を縄張りにしているのであろう。他の鳥がやってくると追っ払ったりするので、私は彼をナッピバルの番鳥とし、河原万砂(かわらばんさ)と名付けた。
万砂はモテない男みたいである。鳥たちの恋の季節は春、3~4月頃だと思われるが、その時期、彼もしきりに囀っている。去年の春もそうやっていたが、雌は住みついてくれず、6月から8月の初めにかけて彼は姿を消した。「傷心旅行でもしているのか」と私は勝手に想像したが、8月の初めには戻ってきて、今年の春も元気に囀った。
万砂は努力する男みたいである。今年の春はたびたびナッピバルから消えた。あちらこちらに遠征して恋人探しをしていたのかもしれない。そんな努力はきっと男を磨く。男の逞しさを身に付けたか、見た目が良くなったか、囀り方が上手くなったのか知らないが、去年も一昨年も恋人ができなかったが、今年はできた。雌が2羽もやってきた。
2羽の雌は5月の中頃から姿を見せ、万砂の恋人に立候補したようで、その後どのような選考過程があったかは知らないが、しばらくすると雌は1羽となった。万砂はその1羽と家庭を持ち、子作りをし、子育てをしていると思われた。ところが、6月になると万砂の姿が時々消えた。「あいつ、どこぞに妾でも作ったか」と私は想像した。
浮気者(かもしれない)万砂も7月になるとナッピバルにほぼ常駐している。雌もたびたび姿を見せている。「子育てに忙しいのかも」と私は想像している。
ナッピバルにはイソヒヨドリだけでなく他の種の鳥もやってくる。スズメ、メジロ、シジュウカラ、ウグイス、セッカ、ヒヨドリ、タイワンシロガシラ、キジバト、リュウキュウツバメ、ズアカアオバト、ハシブトカラスなどは年中いる。以上の内、リュウキュウツバメ、ズアカアオバト、ハシブトカラスは周りの森の中に住処があるようで畑に降りて来ることはほとんどないが、スズメとキジバトはしばしば畑に降りて来る。枯れ草を突っついたり、草の実などをついばんでいる。他の種は畑の果樹などに時々留まっている。
季節季節にやってくる種もある。秋になるとキセキレイ、ハクセキレイ、ダイサギ、チュウサギ、コサギなど、何を食べているかは知らないが、彼らは畑の中をウロチョロ歩いている。ジョウビタキが畑の構造物の上でひと休みしているのも見る。ミサゴやサシバが上空を飛び回るようになり、彼らは地上には降りず、向かいの森の樹上に留まる。
秋深くなるとシロハラが畑の草の中でガサガサし、冬になるとオオタカが畑の周りの樹上や電柱の上に来る。シマキンパラという種は、文献には1年中見られると書かれてあるが、私の畑では秋から冬の間にやってきて、畑の果樹などに留まる。
ナッピバルを始めたのは2012年の夏なので、この夏で満3年となった。2012年の夏、灼熱の中、除草や開墾作業に大汗をかきながらも彼の鳴く声に私は気付いた。その独特の鳴き声は知っている。「おっ、森の中にアカショウビンがいる」で間違いない。寒くなるとアカショウビンの声は聞こえなくなったが、毎年春になると戻ってきた。
アカショウビンは鳴き声だけでなく、その姿も独特である。ぜひともお目にかかり、その姿を写真に撮りたいと思い続けていた。今年(2015年)5月5日、畑仕事をしている時に彼の声が近くに聞こえ、その後、彼が私の近くを飛び、その姿を初めて見た。見紛うことなくアカショウビン、しかしながら、カメラを手にする余裕は無かった。
独特の鳴き声の持ち主がもう1種いる、ホトトギス。その声に気付いたのは2013年の梅雨時であった。その時期になると毎年鳴き声は聞こえている。甲高く、澄んだ声なので「ホトトギスがいるぜ」とすぐに気付く。彼は上空高く飛んで、ナッピバルの周りの森を渡っている。西の森から東の森、あるいは東の森から西の森へ渡る時、ナッピバルの上空を飛ぶこともある。その時、鳴き声はひと際大きい。
声が大きく聞こえた時は「おっ、上空を飛ぶぜ」と判断できる。そんな時に、私が休憩中で近くにカメラがあり、カメラを構えたことが2度ばかりある。上空にカメラを向け、左目でホトトギスの姿を確認し、右目でファインダーを覗き、ズームする。が、ズームした時のピントは合わせにくい。何度かシャッターを押したが全て失敗に終わった。
ある日、ホトトギスがいつものように甲高く、澄んだ声で鳴きながら畑の上空を飛び、100mほど先の梢に留まったことがあった。すぐにカメラを取りに行き、ズームで写真を数枚撮った。止まっているものはピントも合わせやすい。が、100mはさすがに遠過ぎて、写真は鮮明でなく、写っている者がホトトギスかどうかの判別ができない。でも、鳴き声は確かにホトトギス、よって、写真に写っている鳥もきっとホトトギス。
私が借りている300坪の畑ナッピバル、その周辺は畑を囲む3方の森を含めて、鳥たちの休み処となっているようだ。まだ姿は見ていないが、上記の鳥たちのどれでも無い鳴き声も何度か聞いている。自然が活き活きとしている場所なのだと思う。そんな恵まれた環境にいる間に、まだ見ぬ鳥も含め、アカショウビン、ホトトギスの写真は撮りたい。
ちなみに、上に挙げた鳥たち、それらの、沖縄島で見られる時期を記しておく。
アカショウビン 4~10月
ウグイス 周年
オオタカ 12~3月
キジバト 周年
キセキレイ 9~4月
コサギ 9~6月
サシバ 10~4月
シジュウカラ 周年
シマキンパラ 周年
ジョウビタキ 10~3月
シロハラ 11~3月
ズアカアオバト 周年
スズメ 周年
セッカ 周年
ダイサギ 9~5月9-5
タイワンシロガシラ 周年
チュウサギ 9~5月
ハクセキレイ 9~4月
ハシブトカラス 周年
ホトトギス 5~9月
ミサゴ 9~5月
メジロ 周年
リュウキュウツバメ 周年
記:2015.7.29 ガジ丸 →沖縄の生活目次
参考文献
『ふる里の動物たち』(株)新報出版企画・編集、発行
『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行
『沖縄の野鳥』沖縄野鳥研究会編、(株)新報出版発行
『いちむし』アクアコーラル企画発行
『検索入門 野鳥の図鑑』中村登流著、株式会社保育社発行
『野鳥ガイド』唐沢孝一著、株式会社新星出版社発行