太平洋戦争末期、武器の調達もままならない日本は竹槍で戦車に立ち向かった者もいたという話を何かの本で読んだか、映画かドラマで観たことがある。無理だ、無謀だと解ってはいてもそうする以外に術を見い出せなかったのであろう。平和な世の中に住んでいる私のような呑気な人間は、「白旗揚げろよ」とすぐ思ってしまうのだが。
範囲の狭い局地的な雨、雨雲が半分空を覆い、こっちは雨が降っているけど向こうは晴れていることを和語では「狐の嫁入り」とか言うようだが、沖縄ではカタブイ(片降り)と言う。8月中旬から沖縄はカタブイが多かった。
8月中旬から「昨日はすごい雨だったねぇ」と那覇の人が言うのを2、3度聞いたが、私の畑ナッピバルには1滴の雨も無かった。8月中旬のある日、畑へ出勤時、アパートの周辺は雨に濡れていた。畑へ向かう途中から雨の跡は無かった。畑はちっとも濡れていなかった。私の住むアパートは沖縄島の東西の真ん中、太平洋にも東シナ海にも同じ位の距離にあって、丘のようになっている。私の畑ナッピバルは太平洋に近い。那覇は東シナ海側にある。カタブイは丘を境にして東シナ海側に多くあり、太平洋側にはあまり無いという気象現象となっているみたいである。(素人考えで詳細は不明)
ナッピバルの土面が濡れたのは8月13日、しかしそれはセミの小便程度で1時間もしない内に乾いた。17日の未明に雨が降ったようで、その時は表層3センチくらい湿っていた。その後も短い時間の雨がちょこちょこ降って、21日には表層10センチまで濡れた。だけど、そんなものではまだまだ水不足解消には至らない。そんなものでは野菜は元気にならない。落花生は去年に比べると1株の実着きが四分の一も無い。
落花生以外の夏野菜では、ヘチマ、ゴーヤー、モーウイ(白瓜)、シブイ(冬瓜)、スイカ、キュウリ、オクラのうち、ヘチマ、シブイ、スイカは1個の実も着けないままに枯れ、モーウイは1個、キュウリは2個収穫できただけで枯れ、かろうじてオクラが1日に2~3個、ゴーヤーが週に1~2本収穫できているだけ。
というわけで、4月2日にニンジン400円分を売り上げて以来、畑からの現金収入はゼロ。5月と6月に1回ずつビートを友人の食い物屋に持っていき、物々交換をし、金に換算すると1000円(先方の好意で高め)ほどになったが、7月以降はビートも育ちが悪くなり、物々交換もできなくなっている。収入ゼロが続いている。
雨不足に農夫は嘆いていたのだが、21日、台風12号の強風圏に入って、夜中から強い風になった。台風対策を万全にはやっていなかったので朝早く畑へ出た。空は黒い雲が覆っている。「あー、これで水不足から抜けられるかも」と期待できた。
ところが、安堵したのも束の間、台風12号の風は「強風圏?暴風圏じゃないの?」と思うくらい強かった。干ばつの中でもすくすくと順調に育っていたバナナ4本が倒されていた。バナナは現金収入のための優良作物だ、大いにショックを受ける。
干ばつに踏まれ、台風に蹴られた気分の新米農夫は、自然は強大で、人間は弱小であることをつくづく思い知らされた。竹槍で戦車に立ち向かっているみたいだと思った。でもまだ、白旗は揚げない。新米農夫の竹槍が戦車を止める日が来る、かもよ。
記:2013.8.23 島乃ガジ丸