平日でも週末でも昼間に立ち寄ることはたびたびあるが、酒を飲みにという目的では、私は概ね、週に2日、ユクレー屋に通っている。週末の金曜日と土曜日の夜だ。で、いつもの通り金曜日の今日は、客(金は払わないが)としてカウンターに座っている。
先月から第二週の平日は、病院で検診するためマナがオキナワへ帰っている。マナがいない間は、ケダマンと私がユクレー屋の夜の手伝いをしている。ユクレー屋の従業員(給料は出ないが)としてカウンターの中に立っている。その第二週であった今週もまた、月から木曜日の夜、従業員となっていた。平日の夜なんて、客はほとんどいないが。
客はほとんどいない平日の夜であった木曜日の昨夜、平日には珍しくガジ丸が来た。ガジ丸の酒は概ね静かである。ケダマンみたいにバカ騒ぎはあまりやらない。その日もちびちび酒を飲みながら、このところの世界情勢を静かに語った。
久しく続いているモク魔王との戦いは現在、モク魔王の方に分があるらしい。軍事だけで無く、経済においてもモク魔王の画策が働いて、世界はガタガタになりそうな雰囲気とのことである。地球環境の悪化も加速を続けている。
「形勢は大いに不利である。」とガジ丸は溜息をつくが、
「まあ、しかし、希望が無いわけでもないんだがな。」と続けた。
「何だ、その希望って?」(ケダ)
「あー、それは戦略上の機密事項なので、ここでは言えない。・・・おっ、そうだ、希望と言えば、身近なことで希望の見えたことがあったな。」と言って、何か意味ありげな笑いを口元に浮かべた。話の続きを期待して待っていたら、
「そろそろ帰るわ。良い宵の酔いだったぜ。」と言い、席を立つ。
「えっ!何だ、お前、身近な希望ってのも秘密なのか?」(ケダ)
「うん、まあ、その話は明日だ。同じ話を2度するのも面倒だからな。マナも来て、皆が揃った時にするよ。それまでお預けだ。楽しみにしてな。」
で、翌日の今日、昼にマナが来て、夕方にはガジ丸、ジラースー、勝さん、新さん、太郎さんにマミナもやって来て、ジラースーたちの、次回は何を仕入れるかという会議も済んだ後、ガジ丸がお預けにしていた話となった。
「じつはよ、ユーナに恋人ができた。」
「えっ!」、「えーっ!」とはケダマンと私の叫び声。マナも叫び声こそ出さなかったが、ちょっと驚いた顔。離れたテーブルにいたジラースーたちもこっちを見る。
「ついこのあいだ振られたばかりじゃないか。確か、たった2、3週間前の話じゃなかったっけ。もう別の男に心が動いたのか?」(ケダ)
「別の男じゃ無ぇよ。同じ男だよ。他の女と歩いていただけで、ユーナが勝手に振られたと思ってしまったわけらしい。」
「ユーナが勘違いしたってことか?」(ケダ)
「そういうことだ。一緒に歩いていた女というのは従妹だとさ。」
「勘違いねぇ、多いねぇ、恋している時はあれこれと。恋愛初体験だし。」(マナ)
「ともあれ、今はもう、恋人と呼べる存在になったってこと?」(私)
「そのようだな。じつは、落ち込んでいるんじゃないかと思って、励ましに行ったんだがな、拍子抜けしたよ。たいそうにやけた顔をしてたぜ、ユーナは。」
「ふーん、逆転満塁ホームランみたいなもんだ。」(ケダ)
その夜は、その後もユーナの話で盛り上がった。「ユーナのにやけた顔を見ていたら唄ができた。」と、ガジ丸がピアノを弾き、出来立てほやほやの恋歌を歌った。浮かれた気分の唄は『風に乗って』という題。そして、秋の夜はさらに盛り上がった。
記:ゑんちゅ小僧 2008.10.17 →音楽(風に乗って)