久々にシバイサー博士の研究所を訪問した。博士は在宅で、しかも、起きていた。何やら作業中で、「ちょっと待ってくれ」と言うので、しばらく、ゴリコとガジポの遊び相手になる。一人と一匹は大元気だ、1時間ほどで私はへばってしまった。
「ゴリコちゃん、オジサンはもう疲れたよ。休んでいいかなぁ。」と言うと、
「うん、いいよ。遊んでくれてありがとう。」と応える。いろいろ苦労を経験してきたせいか、ゴリコは子供とは思えない心遣いをする。偉い子である。あんまし偉くない私はゴリコの優しさにすぐに甘える。室内へ入って、ソファーに座り、一息ついた。
奥の部屋、つまり、博士の研究室兼作業場からガタガタとか、トントンとか、ギーギーいう音が聞こえる。何か作っている。何か発明品かもしれない。
たいていは開けっ放しの研究室のドアだが、何かやっている時は邪魔が入らないようにと閉じられている。そのドアをノックする。すると、ちょっと間があって、「あー」と返事があったので、ドアを開けて、「もういいですか?」と声を掛けた。
「あと10分ほどで済むから、その辺に座っててくれ。」
「何か発明品ですか?」
「あー、そうだ。」
「そうですか。どうぞ続けてください。邪魔はしません。」
ということで、私は椅子に腰掛けて、黙って博士のやることを見ている。博士の手がけている物はロボットのようであった。人間の男の形をしている。ゆったりとした服を身に着けている。上品そうな顔立ちをしているが、年寄りの風貌である。白い口髭と顎鬚を蓄えている。いったい何なのか見当がつかない。そして、約10分後、
「できたぞ。」と言って、博士は目を輝かせる。子供のように無邪気な顔である。
「さーて、試運転だ。君、ちょっと手伝ってくれ。」
「はい、喜んで。それにしても博士、これロボットに見えますが、老人のようにも見えます。いったい何なんですか?」
「おー、ご明察の通りロボットであり、老人型である。」
「何でまた、老人型ロボットなんですか?」
「まあ。それは今に判る。さあ、これを運ぼう。」と博士は言って、その老人型ロボットを抱えて裏庭に出た。そこには白馬がいた。いや、いたのでは無く、あった。本物では無い、本物そっくりに作られた置物だ。表面は樹脂のようだが、訊けば、骨組みはアルミとのことで、なかなか頑丈にできているらしい。
博士は、その白馬の上に老人型ロボットを跨がせた。ロボットの重さは、正確には判らないが、だいたい2、30キロ位だと想像する。白馬は、その程度の重さではビクともしない作りのようである。「人間の大人が乗っても大丈夫だよ。」とのこと。
白馬の上に白髭の老人が跨っている。それが何の意味なのか、何を目的にしたロボットなのか、私には全く見当がつかなかった。
「博士、何ですかこれ?」と単刀直入に訊いた。
「マナは幸せ、ユーナも恋人ができた、で、マミナにも幸せが来るようにと思ってな、マミナのための白馬のおじぃ様を作ったのだ。」
「白馬のおうじ様って、このロボット、随分歳取っているように見えますが、王子様というより王様、いや、王様も引退したような高齢に見えますが。」
「だから、白馬のおじぃ様なのだ。おうじ様では無い。マミナの年齢からして、この位の年齢の男がお似合いだろうと思ったのだ。性格は優しいぞ。ジェントルマンだ。ユーモアもある。茶飲み友達には最適だと思うぞ。どうだ?」
「おしゃべりするんですね。それはいいかもしれません。ジェントルマンなら乗馬だけで無く。社交ダンスなんかもできるといですね。」
「体は動かん。ただ話し相手をするだけだ。この馬も動かんし。」
「じゃあ、マミナが、座らせたり寝かしたりするんですか?」
「そういうことになるな。まあ、年寄りはあまり動かないといういことだ。」
「それじゃあ、人形ごっこになるじゃないですか。だめですよそれは博士。相手がおじぃ様というだけでもあまり嬉しい事じゃないのに、それで人形ごっこしなさいなんて言ったら、いくらマミナでも怒りますよきっと。」
そんな私の助言にも関わらず、「見せてみなきゃあ判らん。」と言って、その後すぐ、博士は『白馬に乗ったおじぃ様』をマミナに届けた。私も付いて行った。一通り説明を聞いた後、マミナは一言、「要らん!」と言って、ドアを強く閉めた。女心だ。
記:ゑんちゅ小僧 2008.10.31