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ガジ丸が想う沖縄

沖縄の動物、植物、あれこれを紹介します。

わざわざわざわい

2007年04月20日 | 通信-科学・空想

 何度も言っていることだが、私は幽霊、お化けの類の存在を信じてはいない。ではあるが、何か不思議なことが身の回りで起きたりすると、それらは取り合えず霊のせいということにしている。その方が楽しかろうと思ってのこと。

 その日は朝から変だった。その日というのは先々週の金曜日、ガジ丸通信で幽霊の話をアップした日。低級霊をバカにするようなことを書いた日である。
 朝起きて、くしゃみが2回続けて出た。これはそう珍しいことでは無い。その後、洟をかんだら鼻血が出た。鼻血なんて、記憶にあるのは高校生か浪人生の頃、鼻糞を穿っているときに爪で傷つけて以来のことなので、30年ぶりくらいのことになる。鼻血は左の鼻の穴からで、垂れるほどでは無かった。ティッシュを鼻の穴に突っ込んだら、その先に血がいくらか付いているといった程度。でも、意味不明の鼻血。
 ティッシュを鼻の穴に突っ込んだまま朝飯の準備をする。その日はスパゲッティー。麺を茹でている間に、お茶を入れる。そのお茶をティーバッグに入れる際、茶筒を落としてしまった。床に大量のお茶が散らばった。
 散らばったお茶を放って置いては料理ができない。掃除機で吸い取る。抹茶入り玄米茶だったので、細かい抹茶の粉が掃除機だけでは吸い取れない。拭き掃除もする。そうこうしているうちに、茹で時間12分のスパゲティーが14分となってしまった。慌ててスパゲティーをざるに移し、お碗と皿を準備し、インスタントスープを皿に入れる。お湯を注ごうとした時に、皿と碗を間違えたことに気付いた。

  あたふたした朝であった。あたふたはしかし、老化現象の現われくらいに思っていた。ところが、その日の夜、ワサワサした雰囲気に何度も起こされ、午前2時、これまで味わったことの無い変調を体に感じた。体では無く、体の内部にあるものが小刻みに震えている。長い間震え続け、私はびっしょり汗をかいている。
 バカにされた低級霊が私を懲らしめようと、憑依しに来たのかもそれないと思って、最初は怖かったのだが、「それなら、それでいいや」と開き直ったら、怖さは消えた。怖さが消えたら震えも治まった。汗でTシャツとパンツが濡れていた。

 それから1週間経った先週の金曜日、寝ている間に、ベッドの上部にある柱の角に頭を強く押し付けて、その痛さで目覚めるということがあった。手で触ると、頭頂部に5センチくらいの長さで深い溝ができていた。時計を見る。前週と同じ午前2時。
 目が覚めなかったら、出血していたかもしれない。低級霊をバカにして、わざわざ災いを呼んでしまったようだ。触った神の祟りということだ。しかし、怪我までするということになると、「それなら、それでいいや」と済ますわけにはいかない。といって、見えないものを追い出す術を私は知らない。どうするオジサン、ということで今回は反省文。
 反省しました。私に取り憑いているモノがいたとしたら、もう出て行ってね。
          

 記:2007.4.20 ガジ丸


瓦版028 怠け者の悪魔

2007年04月20日 | ユクレー瓦版

 良い風が吹いていたので、ケダマンと二人で浜に出て、満天の星屑と海風を肴にちょいと一杯やって、暗くなってからユクレー屋へ行った。その日、客はいなかった。ウフオバーの姿も見えなかった。マナが一人、カウンター席にポツンと座っていた。
 「やー、三十女の淋しげな後姿だぜ。」と、店に入るなりケダマン。
 「あっさもう、どこ行ってたのさ。今日はずっと暇だったさ。」
 「客もいないようだけど、オバーもいないみたいだね。」(私)
 「うん、夕方、勝さんたちが来てね、良い風が吹いているから浜に出てモー遊びしようって、オバーを連れて行ったんだ。」
 モー遊びとは、モーアシビと発音し、昔のオキナワの風習の一つ。主に農村で、若い男女が集まって夜通し唄い踊って遊び明かしたものを言う。そこから男女の怪しい関係が生まれたりした。むしろ、男女の怪しい関係が生まれることを目的としたものと言っていいかもしれない。今で言う合コンみたいなものである。なので、”若い”男女が集まるのである。まったく”若く”無い勝さんやウフオバーではその目的とはならない。ただ、若かりし頃を懐かしんで、昔語りなどをしたいということなのであろう。

 「モー遊びって合コンのことなんだ。勝さんたち、もう70歳を過ぎているよね。にしては元気だよね。合コンかあ、いいなあ。」
 「男にはもう懲りてるんじゃないのか?」(ケダ)
 「そんなことないよ。3番目の人は良い人だったんだよ。死んじまったけどね。あんな人にまた出会えたら、一緒になりたいと思うよきっと。」
 「三度目の正直で、やっと幸せになったと思ったら死んじまったんだろ。この先、合コンして良い男に出会ったとしても、幸せになれるかどうか怪しいぜ。」(ケダ)
 「まったくあんた、酷いこと言うね。私に明るい未来は無いみたいじゃない。でもさ、自分でも思うのさ。不幸なことが続いて、子供まで死なせたときはさ、私、悪魔にでも魅入られているんじゃないかと思ったよ。」
 「今はどうなの?幸せを感じてる?」(私)
 「うん、何となく。これが幸せっていうものかしらなんて感じてるよ。恋人はいないけど、あんたたちみたいな友達がいるからね。」
 「そう、なら、悪魔に魅入られているなんてことは無いと思うよ。」(私)
 「だよね。うん、一安心。・・・でもさ、悪魔ってホントにいるの?」

 その時、ざわざわと波打つような風がさーっと流れ込んできた。そして、
 「俺のこと、呼んだ?」と声がして、私の隣の席に黒いものが座った。マナの目の前である。そのマナ、一瞬意識をなくしたように凍り付いていたが、
 「あ、悪魔だ・・・。」と小さく呟いた。さすがに、我々マジムンの姿に見慣れているせいか、大声で叫んだりはしないが、表情は少し強張っていた。
 私の隣に座った黒いものは、確かに、マナの言うとおり悪魔の一人、でも、彼は我々のよく知っている悪魔であった。名前をグーダと言う。

 「あれまあ、何とも久しぶりじゃないの。」と私が声をかける。
 「やー、ホントに久しぶり。20年ぶりくらいか?そっちも覚えているよ、ケダマンだよね?昔、2、3度ばかり会っているよ。」
 「うん、俺も覚えている。でも、普段、姿を見せないのに、珍しいね。」
 「姿は見せないけど、この辺りはしょっちゅうブラブラしているよ。私の管轄になっているんでね。さっき、たまたま傍を通ったら、悪魔って呼ぶ声がしたんでね。久しぶりに酒でも飲むかと思ったのさ。ところで、こちらのお嬢さん、私は初めてだね。」
 「あー、この人、マナって言うんだ。この島に来て1年ちょっと。」
 「マナさんっていうの、驚かせて悪かったね。」と、グーダがマナに挨拶する。硬くなったままの顔の筋肉を必死に動かして、マナも笑顔を見せる。そして、
 「よろしく・・・って言っていいの?何か悪いこと起きない?」と私に訊く。
 「大丈夫だと思うよ。この人、怠け者で有名なんだ。悪魔の仕事をほとんどやらないんだ。あんまり深く付き合うと、怠け者が染る可能性はあるけどね。」
 「でも、何て言うか、悪魔って、ホントに悪魔の格好してるんだ。」と、少し安心したマナは、今度はグーダの方に向かって言う。
 「この格好は、私の意志では無くて、人類の概念で作られたものだ。多くの人間たちが想像する悪魔の格好というわけだ。怖いもの、おぞましいもの、気味の悪いものにしたいんだな。元々、私に決まった形というものは無いよ。」
  「でも、そういえば、服を着てるね。普通はそうじゃないよね。」
 「服ね。これは私のささやかな抵抗だな。何でも言う通りにはならないぞって。」
 「仕事をしないのも抵抗なのか?」とケダマンが訊く。グーダがそれに答える前にマナが口を挟んだ。
 「仕事って、悪魔の仕事ってどういうものなの?」
 「人の心に巣食う悪い部分を助長するってことが主な仕事となっている。」
 「あー、何となく解る。悪魔の囁きってことでしょ?」
 「まあ、そういうこと。だけど、今の世の中、悪い部分を助長しなくても、悪魔のような行動をする人間が増えているし、私が働かなくても済んでいるよ。」
     

 などという話をしながら、グーダは泡盛の水割りをグラス一杯飲み干して、
 「私も最近暇だし、ここにはベッピンのお嬢さんもいるし、これからはちょくちょく顔を出すよ。」と言い、それからマナの方を見て、
 「君の不幸は悪魔のせいじゃないよ。君の歩いている道がそういう道なんだ。道は生まれる前から用意されているものだ。まあ、生き続けていくことだな。死ぬ時には自分の歩いてきた道がどういう意味を持ったものかが解るかもしれないさ。」と、悪魔には似合わない真面目な言葉を残して、そして、再び闇の中へ、スーッと消えて行った。

 語り:ケダマン 2007.4.20