飯島一孝ブログ「ゆうらしあ!」

ロシアを中心に旧ソ連・東欧に関するニュースや時事ネタを分かりやすく解説します。国際ニュースは意外と面白い!

“赤狩り”と戦ったハリウッドの脚本家トランボを描いた映画の現代的意味!

2016年08月01日 09時19分54秒 | Weblog

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先日、「ハリウッドに最も嫌われた男」というサブタイトルがついた米映画「トランボ」を鑑賞した。第二次大戦中から戦後の米ソの冷戦時代に、マッカーシー上院議員ら保守反動の政治家が共産主義者の摘発を目指した“赤狩り”により、仕事を奪われたり、投獄されたりした人々が多数に上った。その中で、圧力に負けず、投獄されながらも仲間たちを守ったダルトン・トランボの活躍を描いた映画である。

脚本家のトランボと言われても、知っている人は少ないだろう。だが、オードリー・ヘップバーンが可憐な王女役を演じた映画「ローマの休日」といえば、知らない人はいないだろう。この脚本を実際に書いたのはトランボだったが、当時は共産主義者のレッテルを貼られ、仕事ができなかった。このため、脚本家を友人の名前にして登録、報酬をもらって家族の生活を支えたのである。

トランボは若いころ、共産党員だったが、その当時は党員ではなかった。だが、保守反動派はハリウッドにも矛先を向け、10人の監督と脚本家を「ハリウッド・テン」と呼び、その中でもトランボを首謀者とみなしていた。そして議会から召喚状を送り、公聴会に引っ張りだして「君は共産主義者か否か」と追及。証言を拒否すると、議会侮辱罪で起訴したのである。

トランボが偉かったのは、映画人が赤狩りの弾圧に屈し、次々に日和っていったのに対し、断固抵抗し、表現者の大原則である表現の自由を守ろうとしたからだ。この映画の監督をしたジェイ・ローチ氏は「当時は少数派の意見を述べるだけでブラックリストに載り、刑務所へと送られた。トランボが語ったように、異論を認めるのが民主主義の基本なのにだ」とインタビューに答えている。同氏は、トランボが愛国心の強い作家であったことを強調し、「異端と愛国は両立するというのが本作のテーマだ」と言い切っている。

現代は冷戦時代のようなイデオロギーが対立する時代ではないが、わが国でも安倍政権になってから憲法改正や特別秘密保護法制定などで表現の自由を抑圧する傾向が強まっている。そういう意味では、第二次大戦後のような赤狩りの時代に似てきているともいえる。決して他人事ではないと思う。

この映画で面白いのは、刑務所を出た後、仕事を奪われたトランボが、仲間と協力しながら他人名義で脚本を書きまくって家族の生活を支えるところだ。有能だからこそ、できることではあるが、眠る時間を惜しんで、風呂場にまで仕事を持ち込んで書き続ける光景には見ていて笑ってしまった。

「米国ファースト」のトランプ氏が共和党の大統領候補になるなど、世界的に内向きの政治家が政権を握るケースが増えている。そうした政治家は国民を法律で縛って従わせる傾向にある。こうした世界の風潮に対し、この映画は警鐘を鳴らしているように思える。現代に生きる我々も、トランボの生きざまを見習うべきではないだろうか。(この項おわり)