国際政治・外交 ブログランキングへ
遅ればせながらハリウッド映画「ブリッジ・オブ・スパイ」を見た。名監督のスピルバーグと名優のトム・ハンクスのコンビによる4作目の歴史もので、いつもながらリアルで説得力ある内容に感動した。と同時に、この映画で描かれている「冷戦」が再び「新冷戦」という表現で現実味を帯びている時だけに、色々考えさせられた。
この映画の舞台となった時代は、第二次大戦後、米ソ2大陣営による冷戦が始まって間もない1950年代から1960年代である。米国でソ連のスパイが逮捕され、その弁護をトム・ハンクス演じるドノバン弁護士が引き受けた。これだけでも勇気のいる仕事だが、さらにそのスパイとソ連に捕えられた米人パイロットを交換する交渉を引き受けたことから、まさに命がけの仕事になった。
折しも、大戦で東西に分断されたドイツで東ドイツ、つまりソ連側がベルリンの壁の建設を始める時期(1961年)にあたっていた。この壁は1989年に崩壊するまで続き、多数のドイツ人が東ドイツから西ドイツに逃げようとして命を落とすことになる。こうした時代に、実際にあった捕虜交換劇を映画化したものだけに、スリル アンド サスペンス満載の映画に仕上がっている。
ストーリーを書くと「ネタバレ」と言われかねないので、この辺でやめるが、米人弁護士とソ連のKGBとみられる大使館員とのやり取り、あるいはソ連と東ドイツの主従関係が明確にわかる会話を聞いていると、きわめて興味深い。冷戦といえば実際に戦闘を行う「熱戦」と違う感じがするが、「冷戦でも戦闘だ」という言葉と、実際に米人弁護士が列車の中からベルリンの壁を越えて逃げようとして射殺される場面を映し、戦争が現実に起きていることを示唆していた。
今まさに、ウクライナやシリアで「紛争」や「空爆」という名の戦争が起きている。今月13日にミュンヘンで開かれた安全保障会議に出席したロシアの元大統領であるメドベージェフ首相が、いみじくも「我々は新たな冷戦に陥っている」と発言している。だが、いまだにウクライナ紛争もシリア内戦も解決できず、多くの人々が犠牲になっているのだ。
スピルバーグ監督は終戦後の1946年生まれのユダヤ系米人である。冷戦時はティーンエイジャーで、「原爆が米国の都市に落とされた映画を見て、とても怖かったのを覚えている」と、映画のプログラムのインタビューに答えている。さらに監督は現代が抱える不安について、こう語っている。
「あの時代、人々はお互いに監視し合っていた。最近は多くの目が光っていて、飛びつくような重要な情報がない時でさえも監視し合っている」
この映画が描いている時代は、いわば冷戦の初期である。そういう意味では、米ソ間にもまだ牧歌的な人間関係が残っていたのではないか。それゆえに、捕虜交換もうまくいったような気がする。現代は電子機器も人間同士の監視もずっとハイレベル化している。それだけに、映画のような事態は起きないのではないか。そういう意味からも、新冷戦の今後を真剣に憂慮すべきだと思うのは私だけだろうか。(この項おわり)