ロシアのプーチン大統領は9月21日、ロシア軍の予備役30万人をウクライナへ投入、反撃に出るとテレビで演説した。東部・南部の激戦地域でウクライナ軍の反撃に遭い、苦戦しているためだ。さらに、プーチン氏はウクライナ東部・南部の4州で、ロシアへの編入の是非を問う「住民投票」を行うと表明した。
プーチン大統領はこれまで、「特別軍事作戦」と銘打って、軍隊の一部を動員してウクライナの「非軍事化」と「非ナチ化」を目指してきた。これに対し、ウクライナのゼレンスキー大統領は戒厳令を発動し、18歳から60歳までの男性に総動員令を出して対抗してきた。
両国の人口と兵力を比べると、ロシアの人口約1億4500万人に対し、軍人は約85万人。一方、ウクライナは人口約4400万人に対し、軍人は約20万人と約4分の1だ。今回、ロシアは総動員令ではなく、部分的な動員令を発令し、予備役30万人が対象になるとしている。だが、一部には100万人の予備役動員を目指しているとの報道もある。
さらに、プーチン大統領は演説の中で「今後、ロシア領の統一性が損なわれる恐れがあれば、あらゆる手段で対抗する」と述べ、核兵器使用の可能性を指摘した。しかも、「これはハッタリではない」と、明白に恫喝しているのだ。
一方のゼレンスキー大統領も、停戦交渉について、こう反論している。「ロシアがウクライナの領土から去る場合のみ、交渉が可能になる」。これでは、両国が交渉のテーブルにつくのはますます難しくなったと言えよう。
住民投票については今回、ロシア系住民が多い4州で実施され、投票後、プーチン大統領に結果の承認を求めるという。これはロシアが2014年、やはりロシア系住民が多い南部クリミア半島で実施し、ロシア領に編入したのと同じやり方だ。もちろん、国連憲章に反し、本来許されないやり方だ。
プーチン大統領がこうした手段に出たのは、ウクライナ軍の反撃が予想以上に激しく、このままでは冬が来る前に、ロシア軍の敗色が濃くなるとの危機感からだろう。だが、やみくもに予備役を動員しようというやり方に、ロシア全土で抗議デモが広がりつつある。さらに、一刻も早く国外に脱出しようというロシア国民が急増しており、空港周辺では警官らと脱出組との間で小競り合いも起きている。
これまでは、米国とロシアの間では、核戦争に発展しないように、いくつかの歯止めがかけられてきたと言える。だが、プーチン大統領がここまで強気に出ると、米国、さらには欧米諸国も黙って見ているわけにはいかないだろう。冬を目前にして、ロシア・ウクライナ情勢は混沌とした状態になりつつある。(この項終わり)