飯島一孝ブログ「ゆうらしあ!」

ロシアを中心に旧ソ連・東欧に関するニュースや時事ネタを分かりやすく解説します。国際ニュースは意外と面白い!

「ウクライナ紛争の唯一の勝者は中国」と露政治学者が分析!

2014年08月21日 17時03分36秒 | Weblog
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   ウクライナ紛争は「米露の代理戦争」あるいは「新冷戦の始まり」などと言われているが、勝者が不明なまま長期化の様相を示している。こうした中、ロシアの政治学者で民主派の論客でもあるドミトリー・トレーニン氏(カーネギー財団モスクワセンター所長)は露紙モスコー・タイムズに「唯一の勝者は中国」と分析する論文を寄稿した。

   この中で、トレーニン氏は「ウクライナをめぐる米露の紛争は実力的に不釣り合いで、ロシアは世界支配のライバルのフリをすることもできない」と、米国との実力差を強調している。その一方、ウクライナの運命は東欧の国々、とりわけモルドバ、グルジアのようにEU(欧州連合)と加盟に向けた連合協定に署名した国々にとって重要だとしている。

   また、EUのロシア版を目指す「ユーラシア同盟」でロシアの名目上のパートナーであるカザフスタンやベラルーシも、ロシアと国際政治の鍵を握る米国との間のバランスを慎重に測る必要があると分析する。つまり、ウクライナで起きていることは欧州でも中欧でも起きることであり、欧州大陸での安全保障問題が起きれば、EUとロシアの貿易は崩壊すると懸念している。

   その結果、リスボンからウラジオストクまでの共通市場の概念は葬り去られ、それに代わってNATO(北大西洋条約機構)や環大西洋貿易投資パートナーシップが蘇り、EUと米国との協力関係がより緊密化されるとトレーニン氏は見ている。

   つまり、米露の紛争は欧州の同盟国に対する米国の地位、さらにアジアの同盟国に対する米国の地位をも強化することにつながるが、唯一の例外は中国だと指摘する。中国は米国主導の対露経済制裁体制から唯一外れた経済大国であり、先進国との経済協力が急激に減っているロシアにとってエネルギーや天然資源の販売先として中国の重要性がますます高まっている。そこでロシアはイデオロギーや主導権争いを抜きにして、中国と同盟関係を結ばざるを得なくなるだろうと結論づけている。

   そしてトレーニン氏は中世以降のロシア史で最も尊敬される英雄として、モンゴルへの忠誠を誓いながらスェーデンと闘い、勝利したアレクサンドル・ネフスキー大公を挙げている。さらに、トレーニン氏は「ロシアがウクライナ紛争で行動への対価を支払わなければならないのは明らかだが、米国やその同盟国が行動に見合った対価を支払うかどうかが問題だ」と疑問を呈している。

   ウクライナ紛争の行方とともに世界的に関心を呼んでいるのは、中国とロシアの連携問題である。米国の論客イアン・ブレマー氏も「中国がロシアとの関係強化に乗り出すようなことがあれば『新冷戦』のリスクは高まる」と懸念している。この紛争でロシアをそこまで追い込まないためにも、国際社会は話し合いによる早期解決を急ぐべきだろう。(この項おわり)