飯島一孝ブログ「ゆうらしあ!」

ロシアを中心に旧ソ連・東欧に関するニュースや時事ネタを分かりやすく解説します。国際ニュースは意外と面白い!

政府は「六本木の赤ひげ」アクショーノフ医師にきちんと報いるべきだ!

2013年07月06日 08時36分45秒 | Weblog
   (診察室で質問に答えるアクショーノフ医師=7月5日撮影)
  
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旧満州のハルビンから戦争中に来日、日本語を学んで医師になり、東京・六本木で開業している白系ロシア人、エフゲーニー・アクショーノフ医師(89)に1年ぶりで会った。11年暮れに脳血栓で倒れ、その後どうなったか心配だったが、60年目の今も診療を続けていて、想像以上に元気だった。

  医師と知り合ったのは、モスクワ特派員を6年間務めて帰国した97年秋。知人から「戦後の暗部をよく知っている白系ロシア人がいる」と聞いたのがきっかけだった。何度か会って話を聞いているうちに、この人の人生を描いてみたいと思い、約1年半通って聞き取りし、03年春に単行本『六本木の赤ひげ』(集英社刊)を出版した。

  聞き取りは週に1回、診察の合間を縫って行ったが、飽きずに続けられたのは文字通り、波乱万丈の半生だったからだ。ロシア革命を逃れて両親が移住したハルビンで生まれ、偶然知り合った日本の華族の勧めで来日。日本語を猛勉強して医師国家試験に合格、六本木に外国人向けの「インターナショナル・クリニック」を開業した。

  医師は、これまでに歌手のマイケル・ジャクソン、マドンナ、俳優のジョン・ウエイン、シラク仏大統領ら有名人を多数治療した。その一方、東南アジアなどから出稼ぎに来て病気になり、治療費を払えない青年らにも無料で診療し、生活費まで援助したこともある。

  診察室で再会したアクショーノフ医師に「元気ですか」と声をかけると、「よく食べ、よく眠っている。足が不自由になったが、そのほかは大丈夫」としっかりした答えが返ってきた。今は週3日診察しているが、さすがに往診は控えているという。

  「ロシアへ帰りたくはありませんか」との質問には「世界で一番住みやすい所は東京。人は優しいし、安全だ」と答えた。日本人の奥さんと2人暮らしで、近くに息子夫婦と10歳になる孫の男の子が住んでいる。家庭では良きおじいちゃんだ。

  「やり残したことなどはありませんか」と聞くと「私は何度か(警察当局から)スパイとして疑われたが、何度調べられても証拠はなく、最後は釈放された。だが、これまでに日本政府からなんの謝罪もない」と語り、不満を漏らした。

  医師は1954年、米国へ亡命したラストボロフ駐日ソ連大使館員のスパイ事件に絡み、日本の協力者として名前が挙がった。ラストボロフは米上院調査委の聴聞会で、医師から性病治療に関する情報を得ていたと供述したが、医師は「会ったこともない」と全否定している。そのほか、神奈川県警が捜査した無線機スパイ事件で逮捕され、何日も取り調べを受けたが、無実と判明、釈放された。

  その後、医師は98年、財団法人吉川英治国民文化振興会から吉川英治文化賞を受賞した。「日本文化の向上に尽くし、称えられるべき業績をあげながら報われることの少ない人」として異例の受賞だった。

  医師は何ヶ国語も話せるので、日本語の話せない外国人を昼夜の別なく診察して都内のホテルなどから感謝されている。いわば行政が行うべき仕事を、行政に代わって務めてきたといえる。こうした行為に対して日本政府は報いるべきではないか。ましてや、スパイ呼ばわりして精神的に圧力をかけてきたことに対し、謝罪の言葉もないというのはおかしい。早急に何らかの手を打つべきだ。(この項おわり)