ラムの大通り

愛猫フォーンを相手に映画のお話。
主に劇場公開前の新作映画についておしゃべりしています。

『おばちゃんチップス』

2007-01-10 23:42:57 | 新作映画
おばちゃん

「黒猫のうたた寝」のにゃんこさんからいただきました。
映画『おばちゃんチップス』の提携商品です。

----変わったタイトルの映画だね。
おばちゃんが主人公ニャの?
「う~ん。正確には違ったね。
主人公は船越英一郎演じる家弓修平。
試写状の封筒に入っていたのが、
コダックの印画紙に焼かれた
どぎついまでのおばちゃんたちのカラー写真。
有名な役者はいない上に、
封筒には船越英一郎の手書きの文字が添えられている。
ぼくもまったく想像がつかなかったね」

----監督は『タナカヒロシの全て』の田中誠だよね。
確かあの映画、肌に合わないって言ってなかった?
「うん。完全スルー。
何を言っても悪口になりそうだったからね」

----でも今回は違ったんだ?
「そうなんだよね。
同じ監督の映画とはとても思えない。
前作はタナカヒロシを演じた鳥肌実への遠慮もあったのか、
それともそういう作風にしたかったのか、
不器用な主人公・タナカヒロシの姿があまりにもありえなさすぎて、
笑いとしてまったく弾けていなかった。
ところが、今回の主人公・修平のキャラは親近感が持てる。
同じように生きることに不器用ではあっても、
修平は逆にどこにでもいそうな普通の男。
監督はビル・マーレイを引き合いに出しているけど、
船越英一郎は確かにその匂いを醸し出していた。
いわば、あまりカッコよくない男の恋物語」

----えっ、恋のお話ニャの?
「うん。それもある。
と言うことで、ここで話を分かりやすく整理しよう。
映画は、
東京でリストラにあった会社員・家弓修平(船越英一郎)が
長年夢見た方言の研究をするため
大阪にやってくるところからスタート。
修平の下宿先は、
千春(京唄子)が営む昔ながらの雑貨屋「樋元商店」。
創業当時から、おでんや、お揚げといった食べ物も提供している。
さてそんな中、気立てのやさしい修平は
毎日店に訪れる勝手放題のおばちゃんたちに圧倒されながらも、
次第にみんなの心を掴んでゆく。
向かいのアパートに住むホステスの麻衣子(misono)もその一人。
やがて2人の間には、淡い恋が芽生えてゆく。
ところがそんなある日、地上げ屋の魔の手が「樋元商店」に迫る!
修平はその危機を救うべく、起死回生のアイディアを思いつくが…」

----ニャんだか、ベタだニャあ。
「そう。お話だけだとね。
ところがここで描かれている<小宇宙>が素晴らしい。
狭い路地に路面電車。
四つ角ごとに交わされるおばちゃんたちの井戸端会議。
どこをとっても平成の今には見えない。
まるで<昭和>がそのまま甦ったかのよう。
2階の窓を開けると、そこはすぐ隣の家の窓。
ベランダには女物の下着が吊るされて美女がいて、
そのベランダを通り抜けて
相手の部屋にも入っていける…。
なんか、こういうの60年代のスパイダースの映画にあったな。
監督いわく『三丁目の夕日、CGいらず』(笑)」

----あっ、その表現って分かりやすい。
「それと、もう一つこの映画をオモシロくしているのは、その言葉。
主人公を大阪の人に設定せず、
東京人とすることで
その目から見た大阪を描いている。
彼は大阪の大学で言語学の講師の職に就くわけだけど、
この講義が時折映画に挿入。
これによって観る側も
東京弁と大阪弁の違いをこの学びとり、
映画をより深く味わうことができる。
しかも監督は
『東京弁なのにイントネーションだけ大阪弁』という手法を採用」

----あっ、そうか。
それなら、「実際の大阪とはここが違う」とか突っ込まれても大丈夫だ。
「そういうことだね。
撮影、照明に
名コンビ、佐々木原保志&安河内央之を迎えるなど、
そのスタッフ陣容一つとっても、
この映画は
タイトルから類推されるような
ゆる~い映画ではなく、
実は相当に細かい神経が行き届いていることが分かる」

----下北沢を舞台にしたあの映画では
「ガマンできなかった」みたいだけど、
今度は違ったってことだよね。
「しっ!(汗)」

    (byえいwithフォーン)

フォーンの一言「猫にも方言はあるのかニャ」複雑だニャ

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猫ニュー

『ボビー』

2007-01-06 11:29:33 | 新作映画
※カンの鋭い人は注意。※映画の核に触れる部分もあります。
鑑賞ご予定の方は、その後で読んでいただいた方がいいかも。
ボビー・チョコ
(原題:Bobby)

「う~ん。う~ん」
----ど、どうしたのニャ?
「いやあ、この映画、あまりにも特殊すぎてね。
ご紹介が実に難しいんだ」

----ちょっと待って。
これって確か、ビッグスターがたくさん出ている映画だよね。
ロバート・F・ケネディ=ボビーが暗殺された1968年6月5日、
アンバサダーホテルに居合わせた人々に
何が起こったのかを描いているのでは?
「そうなんだ。
ストーリーからこの映画を語り始めると、
もうそれだけで話は終わってしまう。
主として登場するのは22人。
さまざまな人種、年齢、階層、境遇の彼らが、
『グランドホテル』形式で描かれるんだけど、
それ自体は正直言って刺身のつまみたいなもの。
これまでに観てきた映画から、
大きく一歩を踏み出すことはない。
まあ、当時の空気感だけは出ているかな」

----空気感?
「たとえばその頃、
このアンバサダーホテルで
ある映画が撮影されたんだけど、
それが何かフォーンは知っているかな?」

----う~ん。ニャんだろう?
「正解は1967年の映画『卒業』。
ミセス・ロビンソンとベンの情事が行なわれるのが
このアンバサダーホテルなんだ。
ホテルの従業員たちもその映画の会話をしていて、
それによるとアン・バンクロフトが胸を見せると言うのは
当時の感覚では、まずありえないことだったらしい。
彼らはそのシーンについて
ボディダブル(吹き替え)ではないかと
語り合っている」

----ちょ、ちょっと話が横道にそれすぎていない?(笑)
「いや、これもまた伏線なんだけどね。
まあいいや。
他にも大統領選のボランティアが
ヒッピーからもらったドラッグに溺れたりなんていう
エピソードもある」

----でも、それだったら
当時の世相を描いただけの映画になってしまうよね。
完成披露試写会では
映画が終わった後、拍手が起きたと言うじゃニャい。
「そうなんだ。周囲ではすすり泣きも起こった。
それはこの映画が、
ある時点でドラマとは別のもの-----
高い理想を掲げた一人の政治家の
崇高な魂の<記録>と<記憶>に
すり替わってしまうからなんだ」

----えっ。その言い方って大胆すぎない?
※ネタバレ注!!!
22人それぞれの中で進行していたドラマは
ある瞬間でピタリと止まる。
民主党カリフォルニア選挙で圧勝し、
勝利演説を行なうためにホテルに戻ってきたボビー。
彼らの目は一様に、このカリスマ的政治家に注がれるんだ。
ところが映画は
そこでボビーの演説を聞かせようとはしない。
変わりに流れるのは
※再びネタバレ注!!!
『卒業』のテーマにもなった、
サイモンとガーファンクルの『サウンド・オブ・サイレンス』。
もう、これにはやられたね。
あの時代を象徴するにはこれしかないというベスト・チョイス」

----でもボビーの演説をまったく聞かせないってのも…。
「うん。その気持ちも分かる。
ところがボビーのスピーチが終わって
彼が凶弾に倒れる厨房のシーンになると、
急に別の日の彼の<言葉>が流れ出す。
それは2ヶ月前のキング牧師暗殺に対するボビーの追悼演説。
ここでもうぼくの涙は止まらなかった。
これほどまでに分かりやすくピュアな演説をする政治家が
果たして今の時代にいるだろうかとね。
ボビーが語りかけていることは実にシンプル。
『だれもが自分と同じように、
よりよい明日にしようと夢見て生きている』。
つまり世界中の誰もが同胞。
だから戦いをやめようと言うことなんだ。
憎しみは憎しみを、
そして復讐は復讐を生む。
まるで今の時代を予見しているかのようだ。
この映画は、彼のこの演説を聴かせるためにあると言っても過言ではない。
もちろん、
それまで自分のドラマを生きていた人たちの時間を止め、
彼らの顔をボビーと言う希望の光で照らし出すと言う
演出の妙があったことを考えると、
やはりこれは一つの映画的話法なのかもしれないけど…」

----ふうん。監督は誰ニャの?
「俳優でもあるエミリオ・エステベス。
彼はロバート・F・ケネディが亡くなった夜、
それをニュースで知って父親のマーティン・シーンを起こしたのだとか。
長い間、ケネディ家の支援者だった父は、
アンバサダーホテルに息子を連れて行ったんだって」

----ニャるほどね。
だからこの映画にはマーティン・シーンも出ているわけだ。
その日のこと、えいも覚えている?
「もちろん。
ぼくにとってはJFK暗殺よりショッキングだったね。
ボビーはすぐに死んだわけではなかった。
あの日、ぼくは彼が死なないように必死に祈り続けた。
おそらく自分の人生の中で、
一人の人が死なないように心底願った最初の人、
それがボビーだった気がする」



     (byえいwithフォーン)

フォーンの一言「フォーンもボビーの演説聴きたいニャ」悲しい

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猫ニュー

※画像はアメリカのポスター。下は完成披露試写で配られたチョコです。


『2006 無人島に行くならこの10本』

2007-01-03 16:00:16 | 映画
----ようやく「一年を振り返って…」だね。
確か去年は1月2日と5日に、
2回に分けてやったんだったよね。
今年はどうするの?
「どうしようかな。
ノラネコさんが「2006 Unforgettable movies」として
あまりにも見事にまとめてあって、
少し出遅れてしまったなと、
正直、アセっているんだ。
ということで、今年は思いっきり
自分勝手に選んでみようかな」

----いつも自分勝手じゃない(笑)。
「まあ、そう言わない(汗)。
で、今年は
『2006 無人島に行くならこの10本』。
もし10日間、無人島に閉じ込められるとしたら、
2006年に公開された映画の中から、
どの10本を持っていくか?」

----ニャるほど。それが自然とベスト10になるわけだ。
「そういうことだね。
さてその選択基準だけど、
にゃんこさん「黒猫のうたた寝」に倣って言えば、
最低条件は<うたた寝指数ゼロ>。
まずはこれをクリアしなくてはね」


●1日目●『ラブ★コン』

----いきなりこれニャの?みんな引いちゃうよ。
「この映画のオモシロさは観た人にしか分からないよ。
一見、おふざけに見えながらもぎりぎりでセーブ。
映画をいかにしたらオモシロく伝えられるかに心砕いている。
しかもその奥には、青春の切なさ、ほろ苦さが……。
独りよがりになっていないところが好きだな。
あっ、コメディでは
『赤ちゃんの逆襲』もオススメ」


●2日目●『隠された記憶』

----また、全然違うタイプの映画を持ってきたね。
「これは、『映画史上に残る衝撃のラスト!』と言われたけども、
スルメのような映画。
ぼくなんか自分勝手にラストを解釈したけど、
あかん隊さんを始めトナヒョウさん睦月さんなど、多くの方たちが
そのラストについて、さまざまな意見を寄せてくれた。
おそらく観るたびに謎が深まっていく映画だと思うね。
ちょっと次元は違うけど『unknownーアンノウンー』『ハードキャンディ』
それに『カクタス・ジャック』も、
製作側と観客の間でバトルが行なわれる映画だったね」


●3日目●『16ブロック』

----おおっ。ハリウッド・メジャーに針が振れたね。
「やはりベテランの力はあなどれないね。
同じアクションでも、その中にドラマがあって
次の展開を期待させる。
単なるドンパチには終わっていないんだ。
ハリウッド大作では他に
『パイレーツ・オブ・カリビアン デッドマンズ・チェスト』
バスター・キートンの復活を思わせ、ジョニー・デップならではの映画に。
『M:i:III』も新しい才能を感じさせてくれたと思うよ」


●4日目●『フラガール』

----これは、昨年の映画賞を総ナメにしているよね。
「そうだね。『ゆれる』と、どちらがくるかと思ったんだけど、
やはりこの不況の時代にはこの映画の方が
より強い力を持って観る者に訴えかけてくる。
『いつまでも時代を怨むなかれ。新しい一歩を踏み出そう』とね」


●5日目●『ナイロビの蜂』

----おっ。これを入れるとは思わなかったニャ。
『武士の一分』とどっちにするか、
同じ<夫婦愛>が下敷きになっているだけに迷ったんだけど、
これも現代に生まれた必然性、
そしてミステリーのオモシロさで『ナイロビの蜂』となったわけ。
あっ、ここに『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』を加えてもいいかな」


●6日目●『ホテル・ルワンダ』

----そうそう。これを入れないわけにはいかないよね。
今年は社会派映画が多かったでしょ。
けど、フォーンもこれがいちばん衝撃的だったニャ。
そう言えば9.11の映画も何本か生まれたよね。
「うん。
その中では『ユナイテッド93』がヒロイズムに走ることなく、
個人が最後まで生きようとする意志、
その強さを描いていて胸に響いたね。
日本映画では少年犯罪を取り上げた
三池崇史監督の『太陽の傷』
この描き方には一縷の妥協もなかった。
でも、ぼくは次の映画の方がタイプだ」


●7日目●『さよなら、僕らの夏』

----やっと出てきたね。「青春映画が映画だ」が、えいの持論だものね。
「そうだよ。
これは裏『スタンド・バイ・ミー』と呼びたくなるほど、痛切な青春映画。
甘いノスタルジーを期待すると、
とんでもない火傷を負うことになる。
その点、『夜のピクニック』なんかは、
安心して観られる青春映画だったね。
逆に痛い痛い青春を描いたのが『ブロークバック・マウンテン』
愛した相手が同性だったことから迎える悲劇。
この映画で泣くとは、観る前は思いもしなかった」


●8日目●『キンキーブーツ』

---またコメディに戻ってきたね。
「これも元気をくれる映画だからね。
『プラダを着た悪魔』も悪くないけど、
涙をたっぷり流したいならこっち」


●9日目●『虹の女神 Rainbow Song』

---いかにも、えいらしい(笑)。
映画を描いて、ノスタルジーで、しかも泣ける……。
三拍子そろってる(笑)。
「これにはやられたね。
かつての8ミリ少年にはたまりません。
上野樹里も、あ~あ、あの頃こんな女性いたなって感じ。
映画って理屈じゃないと改めて思ったのが
この『虹の女神』」


●10日目●『リトル・ミス・サンシャイン』

---おおおっ。これを仕上げに持ってくるか。
「だから何度も言っているように、
笑って、泣けて、元気をくれる映画がぼくのベスト。
『スパングリッシュ・太陽の国から来たママのこと』
『単騎、千里を走る。』
『グエムル/漢江の怪物』『母たちの村』
『ヘンダーソン夫人の贈り物』と、
今年は家族をキーワードにした映画が多かったけど、
その中でもこれがベスト。
勝ち組負け組が声高に叫ばれる時代にあって
それぞれが個性を持って生きることの素晴らしさを、
ロードムービーの楽しさの中に描いてくれる」


---あらら。あっさり終わったね。
『太陽』とか『硫黄島からの手紙』は?

「まさか、これらを無人島に持っていこうとは思わないでしょ?
そうだね、たとえば『宇宙人に見せる10本』……
いや、これも違うな。
地球人って変!と思われるだけかもね」


フォーンの一言「つまり、えいの
日本映画ベストワンは『虹の女神 Rainbow Song』
外国映画ベストワンは『リトル・ミス・サンシャイン』のようです」身を乗り出す

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猫ニュー

あけましておめでとうございます。

2007-01-01 16:06:07 | 映画
----今日は、朝から鼻ぐずぐずだったね。
それなのに出かけちゃうんだ。
「うん。
一年の計は元旦にあり。
今年はこの映画で始めたくってね」

----それ、もう観ているじゃない。
「そうなんだけど。
初笑いにはピッタリ。
しかも元気が出るからね」

----それはそうと、
ベスト10発表の時期じゃニャいの。
「そうだね。
近いうちにやらなくては…」

----そう言えば、
れがあるさんの「試写室だより 封切はこれからだ!」
参加させてもらったんだよね。
これって、どういうの?
「評論家さんやライターさんなど、
映画のお仕事をしている方たちが
一足早く試写室で観た映画の中から
自分の推薦作を【表ベスト】&【裏ベスト】として紹介するというもの。
次回は『2006年年間【表ベスト】&【裏ベスト】号』なんだって」

----うわあ。えいのはともかく
他の人たちのが楽しみだね。


フォーンの一言「今年もよろしく。シッポふりふり」

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猫ニュー

※画像はシッポふりふりのフォーンです。