ラムの大通り

愛猫フォーンを相手に映画のお話。
主に劇場公開前の新作映画についておしゃべりしています。

『母たちの村』

2006-05-09 23:44:16 | 新作映画
----この映画の監督、ウスマン・センベーヌって83歳にもなるんだって?
「そう。<アフリカ映画の父>と呼ばれている。
その彼が3年もの月日を完成させて作ったのがこの作品。
原題は『モーラーデ』と言って、
フルベ語で"保護"を意味しているんだ 」

----ということは、テーマもその"保護"?
「うん。アフリカでは現在でもおよそ38カ国で女子割礼が行われている。
この映画はそれを嫌がり4人の少女が逃げ出してきたことから物語が始まる。
モーラーデというのは、何かに脅かされたときに、
自分を守ってくれそうな人に保護を頼むこと。
このモーラーデの掟に背いたものは、
急死、狂気などの報いを受けるとされている。
この4人の少女たちは、
かつて慣習に立ち向かい、自分の娘の割礼を拒んだ過去を持つコレに
自分たちの保護を求めたわけだ」

----ちょ、ちょっと待って。そのカツレイって何?
「性器切除だよ」
----ひぇ~っ。それ怖い。
あれっ、でもぼくも手術しているよ。
「……。(汗)まあ、その話はおいといて。
この映画によると、アフリカの国には、その施術をする女性たちがいて、
ナイフだけでやるみたい。
麻酔もなさそうだし、
これが元で女性が死んでしまうことも多いらしい」

----ぼくは、お医者さんだったし、麻酔もあった。
「だから、それはおいておいて。
この割礼を受けていない人は"不浄"という概念に結びつけられ、
ビラコロと呼ばれ、
結婚相手にはふさわしくないとされる。
さて、この映画では
コレの娘アムサトゥの婚約者イブラマヒがパリから帰ってきたことから
物語は広がりを見せてゆく。
彼の父である村の長老は息子をビラコロと結婚させるわけにはいかないと言う。
しかし、モーラーデをやめさせるわけにはいかない。
そこで村人たちは、コレの夫に、
その権威を示せとコレを鞭打たせるんだ」

----ひぇ~っ。男尊女卑。父権社会だ。
「そう。なにせ一夫多妻制だからね。
このコレは<第二ママ>で、
他に<第一ママ><第三ママ>がいる。
イスラム教徒が多い国では4人まで妻を持つことが認められるんだ」

----ということは、その女子割礼というのもイスラム文化からきているの?
「いや、そうじゃないんだね。
割礼の言葉を使っているため宗教的に思われがちだけど、
これは土着的なもの。
前置きが長くなったけど、
この映画は、その悪しき慣習に立ち向かう女性たちの勇気を讃えた
<女性讃歌>とも呼べる作品なんだ。
鞭打たれても一言も言葉を発さずに耐えるコレを励ます女性たち。
ガンジーを思わせるその気高さには涙を禁じ得なかった。
実際、このあたりから場内にはすすり泣きが…」

----なるほど、古い慣習を打ち破る映画なんだ。
でも、この情報社会。
アフリカにもラジオとかあるんじゃないの?
「そう。実は女性たちはラジオでいろんな情報を入れていて、
コレもこの女子割礼が宗教的なものではないことを知る。
ところが、男たちはラジオを集め焼いてしまう。
焚書ならぬ焚ラジオだ」

----ひどいね。とても今の話とは思えない……。
「うん。この映画を観ながら
中東の映画を観た時のことを思い出した。
知らない国のことだけに、
どこまでが現実でどこまでがフィクションか、
思わず考え込んでしまうんだ。
言い換えれば、それだけ、そこで描かれていることが
ぼくらの日常の常識からはかけ離れているということなんだけど…。
しかし、今日頭に浮かんだのが日本の今村昌平」

----それはまたなぜ?
「たとえば彼の『神々の深き欲望』だって、
ぼくらが観ると、完全にフィクションだと分かるけど、
もしかしてヨーロッパの人が観たら、
『日本の南の方の地域では、
あんなことが風習として残っているのか!?』と信じかねない。
ここは少しネタバレチックだけど、
集団でよそ者を殺しに向かうシーンなんて
それこそ『神々の深き欲望」のクライマックスそっくり。
みんなが同じ顔となることで
殺人を、個ではなく集団の統一意志によるものへと変えてしまう。
いわゆる殺人の匿名性-------
その裏には個人の罪の意識を軽くすることもあるのかも」

----おやおや暗い話になったね?
「でも、最後は本当に感動的。
女性たちが『やった!』と勝利の歓びの声を上げ、
それが歌声のように広がってゆく風景は、
最近のミュージカルを遥かに凌駕する興奮、
胸の昂りをぼくに与えてくれたよ」


                   (byえいwithフォーン)

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猫ニュー

※画像はスペインのオフィシャルより。


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