ラムの大通り

愛猫フォーンを相手に映画のお話。
主に劇場公開前の新作映画についておしゃべりしています。

『倫敦から来た男』

2009-10-15 23:19:21 | 新作映画
(原題:A londoni terfi)


-----この映画ってモノクロ。
しかも138分もあるんだって。
観るの、きつくなかった?
「いや、思ったほどでもなかったね。
観る前に、静かな映画と聞かされていたし、
監督が監督。
正直、大丈夫かなという一抹の不安はあったけどね」

----監督が監督って?
「ハンガリーの鬼才タル・ベーラ
7時間半にも及ぶ大作『サタンタンゴ』
傑作『ヴェルクマイスター・ハーモニー』で観客を熱狂させ、
ブラッド・ピット、ガス・ヴァン・サント、ジム・ジャームッシュら世界の映画人が心酔…。
なあんて、これは宣材に書いてあったからであって、
正直、ぼくは知らなかったんだけどね。
だって、『サタンタンゴ』は日本では3回しか上映されず、
一般劇場公開は『ヴェルクマイスター・ハーモニー』のみ」

----あらら。それいいわけだニャ。
ところで、この映画は?
「原作は文豪『メグレ警視』シリーズで知られるジョルジュ・シムノン
物語自体はシンプル。
港のそばで深夜勤務中、鉄道員マロワンは、
偶然にも“倫敦から来た男”ブラウンが犯した殺人の現場を目撃してしまう。
そして、彼は殺された男が持っていた大金の入ったトランクを海中から拾い出す。
突然の大金を手にしたマロワン。
果たして彼の人生はどう動くのか?」

----ニャんだか。それに似た話、
どこかで聞いたことある。
あっ、分かった 『ノーカントリー』だ。
もしかして、そのマロワンはブラウンに狙われる?
「やはり、あの映画を思い出したか…。
でも、これは、表だって
両者の追いつ追われつをサスペンスフルに描いた『ノーカントリー』と違って、
マロワンの内面にスポットを当てている。
「豊かになりたい」―――だれもが思っているこのチャンスを
ふとしたことから手に入れた男の変化。
娘が自分の意にそぐわない仕事をさせられていることを知り、
それをやめさせ、高級な毛皮を買う。
その一方で、自分が追われているのではないかという不安から、
妻に思わず当たり散らしてしまう。
マロワンは、ほんとうに、どこにでもいそうな普通の人。
だからこそ、その心境の変化が<特別>なものとはならず、、
実に分かりやすい。
そして、この映画の最大の特徴は、
そのごく<普通の変化>を、
まさに<芸術>と呼ぶしかない映像で表現しているところ」

----おおっ。<芸術>という言葉を使うとは…?
「いやあ。そう言い切ってもいいだろうね。
光と影のことをここまで熟知している監督も、そうはいない。
動く絵画という言葉さえも失礼にあたるほど、
純粋映像として物語が語られていく。
たとえば、冒頭の殺人シーン。
これはマロワンからの視線。
船上で男たちが話し合い、トランクを外に放り投げ、
男が下船し、駅の列車が出発。
そして男は埠頭に回り、相棒とけんかして彼を海へ突き落す。
これがなんとワンショット。
そしてその後、マロワンはトランクを拾ってくる。
ここまでで30分。
もう、息をのむしかないね。
あるいは、カフェで
ブラウンを追ってきた刑事が彼を言葉で追いつめる。
その様子を見つめていたカメラがなめらかに移動すると、
そこではマロワンたちが耳をそばだて彼らの話を聞いている。
この、一人ひとりにドラマがあるという事実をワンカメで見せる力量など、
語り出したらきりがない。
それでいて、後半に起こるもうひとつの殺人や、
海からトランクを引き上げるところなど、
いかにもサスペンスが盛り上がりそうなシーンは一切写さない。
そうそう。あと、一つひとつのシーンに、
糊代とでもいうべき余韻を持たせているのも心に残ったな」

----ニャるほど。確かに個性的だ。
「そしてさらに驚くのは、
これら、監督のイメージした映像を作り出すため、
彼は徹底したロケ地を探し出し、
そこに撮影できるセットを建てているということ。
さっきの冒頭のシーンだって、
大きな船、制御室、そして列車の線路は、全部セット…。
しかし、こういう監督には神も味方するんだろうな。
マロワンの妻を演じたティルダ・スウィントンも言っていたけど、
まるで、打ち寄せる波のタイミングまで計算しているかのよう。
実は、ぼくもこれは観ながら、そう思ったくらいにもう完璧。
一部セットとの話も聞いていたから、
もしかしたら風で波を押し寄せたのでは…と思ったほど。
実際には“計算”はありえないけど、
そう思わせる何かがこの映画にはあるよ」




フォーンの一言「ちょっと、熱く語りすぎているニャ。」
小首ニャ

※「私は独裁的だ」と、監督は言っている度

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