風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

パリ管弦楽団 @サントリーホール(10月18日)

2022-10-19 22:59:17 | クラシック音楽

©Mathias Benguigui


パリ管の音をもう一度聴きたいと思っていたところ、LCブロックのS席を格安で譲っていただけることになったので(感謝です!)、15日の東京芸術劇場に続き、サントリーホール2日目公演にも行ってしまいました。
行けることになったのが急だったので会社を無理くり早退したが、このために働いてるのだからいいのだ。

【ドビュッシー:交響詩《海》】
先日も感じたのだけど、マケラって指揮の仕方がサロネンに似てません・・・?後ろ姿がサロネンに見える現象がしばしば起こる。フィンランド人の指揮の特徴とかあるのかな。
さて『海』ですが、ツアー初日の芸術劇場で聴いたときの方が溌剌とした色彩感が感じられたような。もちろん素晴らしいことに変わりはないのだけど、今日は少々ノッペリした印象を受けてしまった。
ホールの違いも影響しているかも。芸劇よりサントリーの方が音の粒立ちが悪い(良くも悪くも響きが混ざる)ので、一つ一つの音の色合いがクリアには見えにくいのかも。
それでも変わらず波のうねりや清澄さなどは肌で感じられ、パリ管の『海』、堪能しました!

【ラヴェル:ピアノ協奏曲ト長調】
これは絶品
ソリストは、アリス=紗良・オット。彼女のピアノを聴くのは、録音も含めて今日が初めて。調律のせいなのか最初は音の届かなさに驚いたけど、次第にそれにも慣れ、その音色も含めて楽しめました。クセのない素直な軽やかさ(少しピリスを思い出した)、透明感があるのに冷たくない、といって弱いわけではなく低音もちゃんと聴こえる音。彼女自身の主張は控えめなのに、それが自由な音色で遊ばせるパリ管と意外なほど相性が良くて、両者のノリの良いお洒落な対話がとっても楽しかった!三楽章、興奮しました。ファンタジー味のある音のグリッサンドも綺麗~。
二楽章もよかったです。最後のオケとピアノの音が空間に消えていく美しさといったら・・・。
でもって、パリ管!もう理想的なラヴェルの演奏!一人一人の出す音の個性、色合い、自由さ、官能性(弦もいいけど、木管もいい~♪)。それらがモダンピアノと一緒になると、たまらない。
この幸福な音の空気は、指揮者であるマケラの影響も大きいのだろうと想像する。
というわけで、冒頭の写真は今月上旬のパリ公演の際のリハーサル写真より。やたらと絵になる二人。ていうかこの写真、上手すぎない?と思ったら、プロのカメラマンの方だった。

【アルヴォ・ペルト:アリーナのために(ピアノ・アンコール)】
拍手で舞台に呼び戻されたアリス。
おもむろに始まる女子トーク(こんなに普通に日本語を話すとは知らなかった。wikipediaによると日本人学校に行っていたんですね)。「私自身は一昨日無事に日本に着いたんですけど、ロストバッゲージにあってしまって、今日着る服も全部そのスーツケースに入っていたんです。それは今もミュンヘンにあります(客席爆笑)。昨日5時間東京を歩き回ったんですけど、こういう時に限ってほしいものって見つからないんですよね。なので今着ているこのスカートは楽団のスタッフの方にお借りしました」と笑。素敵なスカートで、よく似合っていました。
そして、「サントリーホールの特徴って、音と音の繋がりや、音が消えていくときの響きの美しさにあると思うんです。そういうホールの特徴が生きる曲をこれから弾きたいと思います。私の好きな曲で、エストニアの作曲家のアルヴォ・ペルトの『アリーナのために』という曲です」
これは今年3月のリサイタルでババヤンが演奏する予定だったけど、急遽変更になった曲だな。こういう曲だったのか。
アリスの言うとおり、この曲はサントリーホールの音響の美質がめちゃくちゃ生かされる曲!ひとつひとつの音の響きが奥深くて、とてもとても美しかった。。。こういう音楽を配信ではなくこういうホールで聴けるのは最高の贅沢で、生演奏の醍醐味ですね。
アリスさん、ありがとう!!

(20分間の休憩)

【ストラヴィンスキー:火の鳥(全曲)】
この曲を生で聴くのは、ヤンソンス&バイエルン放送響(組曲)サロネン&フィルハーモニア(全曲)ゲルギエフ&ウィーンフィル(全曲)に続いて4回目。
それぞれがそれぞれに素晴らしくて、中でもゲルギエフ&ウィーンフィルの甘いファンタジー味&ぞくぞくする禍々しさ&怖いほどの美しさ&スケール感の絶妙コンビの演奏が私は最高に好きだったんですけど、その感動は残念ながら今回の演奏では上書きされなかった でもこれはマケラ&パリ管が悪いのではなく、完全に好みの問題。
マケラ&パリ管も50分間、飽きずに聴くことができました(というか今まで聴いたこの曲の演奏で飽きたことは一度もないのだけど)。ラストの爽快感(何故か加速してた)、楽しかった。気持ちよく盛り上げて、最後は華麗かつキレッキレの響きで終了
なお今日も『火の鳥』で照明演出あり。照明のことはすっかり忘れてて、始まった瞬間に「そういえばそうだった」と思い出したのだけど、恋人達の場面でピンク色になり、悪魔達の登場で赤に変わるとか、いくらなんでも安直すぎない・・・?マスクの中で苦笑してしまった。。

【グリンカ:歌劇『ルスランとリュドミラ』序曲(アンコール)】
マケラから「大好きな曲」と紹介があり、アンコール。
勢いのある沸き立つような音が楽しい~~~
奏者達もバリバリのめり込むように演奏していて実に楽しそう♪♪♪
今日もアンコールはロシアの曲だけど、考えてみたら今回の来日公演のメイン2曲(ストラヴィンスキー)はロシアの曲とも言えるので、特に不思議はないのだった。

演奏後は、満面の笑顔で足を盛大に鳴らしてマケラを称えるパリ管の面々。愛されまくってるな~。オケのほぼ全員が彼よりだいぶ年上だと思うけど、だからこそもあるのか、みんなマケラのことが可愛くて仕方がないって顔で見ていて、その雰囲気だけで幸せになる。そういうオケの温かな空気が、彼らの作り出す音楽にも出ているように感じた今回のパリ管来日公演でした。

マケラって音楽に対する明確なビジョンを持ちながらも、自分の個性をオケに押しつけるのではなく、オケの美点を自発的に伸ばさせる、そういうタイプのリーダーのように感じる。インタビューからもそういう印象を受けるし、ブロムさんも「派手さはないが、真面目で素晴らしい指揮者」と表現していたし。
そういうアプローチは、少しハイティンクと似ている気がする。
2027年からシェフになるコンセルトヘボウとも良いコンビになってくれるといいな。ハイティンクは彼らと色々衝突もありましたけど、互いに愛憎混じりながら素晴らしい音楽を沢山残してくれた。
以下は、オランダの新聞de Volksrantの2020年12月のマケラのインタビューより(例によって私訳です)。
(このクリスマスマチネでルイージの代役をと電話で依頼されたときにどう感じたか?)「一瞬も迷いませんでした。あのホール、あのオーケストラ。9月にアムステルダムでデビューした後、私はすぐにまた再会したいと願っていたんです。これは絶好の機会です」
(世界がクリスマスマチネに注目しているが緊張は?)「ストレスはそれほど感じていません。むしろ楽しみです。コンセルトヘボウ管弦楽団は、独自の音を持つ数少ないオーケストラの 1 つです。常に透明感を保ちながら響きに温かみもある。この組み合わせは圧倒的です」
(コンセルトヘボウはまだシェフを探しているのを知っているか?)「はは、私は既にオーケストラを2つも持っています」
結果的に今年6月、コンセルトヘボウのシェフ就任が発表されたけれど、この2020年のインタビューで「あと7年間はパリ管とオスロフィルに集中したい(客演も本当に特別なことができる一握りのオーケストラに限定したい)」とも言っているので、就任が2027年という年になったのはマケラの希望もあったのかな。一方こちらは今年8月、シェフ就任の発表後に初めてアムステルダムで振ったマーラー6番についての同新聞のレビュー記事。アムステルダムの伝統「マーラー試験」に臨んだ彼のマーラーの長所(奏者達を奮い立たせ熱狂的な演奏をさせる)と短所(頻繁に大音量になる。全ての言葉を明瞭に語る朗読を聞いているようでコントラストが薄く、説得力がない)を冷静に指摘しつつ、未来の可能性に賭けたアムステルダムについて述べた良記事だと思います。
ところでこの記事の記者は歴代のRCOの指揮者のマーラー演奏について「Now everyone wants to know which turn Mäkelä takes, after Haitink the emotional one, Chailly the precise one, Jansons the magician and Gatti the self-taught.」(蘭語→英語のgoogle翻訳)と書いていて、ハイティンクが「emotional」と紹介されていることに少し驚いた。私はそう感じていたけれど(だからアムステルダムまで足を運んだし)、一般的な評価は違うのかと思っていた。

「音符ってとても面白い『言語』だと思うんです。五線譜上の同じ位置にあっても、それを置く作曲家によって全く意味が違う。『真実』が無限にある。それを発見していくプロセスがたまらないから、一度やった曲を時間を置いてまたやるのが大好きです。その間のいろんな学びが私の感性を開き、解釈を変えていく。読んだ本だったり、作曲家の人生についての新しい知見だったり、美術館で見たラファエロの美しさだったり。出会いによって心を動かされたことのすべてが演奏に反映されます」
2022.10.13朝日新聞

私は、今週末はまたブロムさん&N響へ
26歳→95歳(客席に26歳)→26歳→95歳

ところで2年前に中止になったソヒエフ&パリ管のコンビも興味あるのだけど、そのコンビでの来日はもうないのだろうか。

 


東海道新幹線で富士山が見えると車内の外国人達が一斉にカメラを構える現象にマケラも参加している(富士山の美しさはモノクロじゃない方が出ると思うけど…)
これほどクッキリと見えることって意外と少ないのに、マケラ&パリ管もってますね~


全く負けてません!!


アリスさん、よかった
イラスト可愛い~♪

Ouverture de Rouslan et Ludmila, Glinka - Klaus Mäkelä
パリ管がupしてくれた、今日のアンコール(ルスラン)の冒頭

Stravinsky - Ballet "L'Oiseau de feu" - Diana Vishneva
『火の鳥』のバレエ予習は、今回もヴィシニョーワ&マリインスキー。何度観てもヴィシ様の火の鳥は最強

 

※追記

演奏直前のあの長い長いアナウンスには私もかなりイライラしたので千々岩さんが仰りたいことは理解できるが、東京も初日の芸劇公演で普通にブラボーとんでましたけどね
私個人は現在くらいの感染状況なら、マスク有かつ本当に良い公演だったなら掛け声もOKと思っています。吉右衛門さんの最後の俊寛の千穐楽の幕切れで「播磨屋!」とかけてくれた人には今も感謝している。でもそれは演技や演奏に感動した観客が自発的にするものであって、演者の側から要求するものではないと思っている。

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