風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

バイエルン放送交響楽団 @サントリーホール(11月28日)

2016-12-08 20:09:54 | クラシック音楽


©BRSO FB

10日も過ぎてしまいましたが、自分用覚書なのでレポしますよー。
バイエルン放送響来日ツアーの最終日に、一日目二日目に続き行ってまいりました。3日連続です。
前日のマーラーがあのような演奏だったので、本日はオケにも客席にも後夜祭的な雰囲気が漂ってしまっているサントリーホール
でもヤンソンスやオケのこういうのんびりリラックスした空気も、個人的にはとってもよかったです。

【ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品61】
考えてみれば私、ヴァイオリン協奏曲を生で聴くのはこれが初めてなのでした(録音でも殆ど聴いたことがない)。
私がピアノ協奏曲を好きな理由はオケの中でのピアノという楽器の異質性と、それがオケとの間で起こす化学変化のようなものに惹かれるのですが、その点ヴァイオリンだとどうなのだろう?と思っていたのだけど。なるほど、ヴァイオリンでも似た感覚が味わえるのですね。オケの中から一人だけぽんと抜け出ている異質感と、でもオケの中に同族の仲間がいる感じが聴いていて楽しい。
もっともこの日のソリストのギル・シャハムさんは、オケとの異質感はほぼ皆無で、仲間感バリバリ笑。そして終始「マエストロを尊敬してます!」光線が目から全身からキラッキラ 。しっぽをブンブン振っている大きなワンコに見えた笑。
一楽章を終えたときに指揮台のヤンソンスに顔を近づけてキラキラな笑顔で「ちょっと調律してもいい?」と聞くシャハム(実際どういう会話がなされていたかはわかりませんが、そう見えた)。「ど~ぞど~ぞ」なヤンソンス。和むわぁ。

演奏としてはシャハムは感情的な揺れ幅の少ない(というより常にマエストロ敬愛光線いっぱいな笑)ストレートで優雅な演奏で、オケの伴奏も同じくクリーンで堅実だったので、個人的好みとしてはもう少しベートーヴェンを聴いてるな~という空気を感じたかった気も(暑苦しい演奏をしてほしかったという意味でなく)。

しかしこの曲、すごく美しい曲ですね。どうしてこんな音楽が作れるんだろう。
ヴァイオリンの中央に座られていたアジア人の女性(韓国人の方なんですね)が、シャハムのソロを目を閉じてとても幸せそうに聴いておられたのが印象的でした^^

【クライスラー:美しきロスマリン(ヴァイオリン・アンコール)
ソロではなくオケの伴奏付き。きゃ~嬉しい♪
これ、すごく素敵だった。優雅で瀟洒な温かさがヤンソンスとシャハムの個性にとても合っていて。シャハムのヴァイオリンもこちらは表情豊かで、その音色の美しさといったら。。。
基本のレベルの高い奏者達がリラックスして演奏するアンコールって、メインの演奏で味わえない物凄い贅沢感があるんですよね。お得感ではなく、贅沢感。私はメインで良い演奏を聴かせてくれればそれで充分という人間で、アンコールがないことを不満に思う人の気持ちが理解できないのですが、ただこの贅沢感は本当に素晴らしいと思う。
ところでシャハムの使用しているヴァイオリンは、wiki情報によると1699年製ストラディヴァリウス「ポリニャック伯爵夫人」なのだとか(ヴァイオリンってこんな風にネーミングがあるんですね~)。300年以上昔から音を奏で続けてきたその楽器。300年後もその先も、ずっとずっとこの音色を奏で続けていってもらいたいものだなぁ。

この日会場にいたのはシャハムさんのファンの方も多かったようで、私の左右の方もそうでした(ちなみ半額以下の超格安チケットが手に入ったので、クラシックでは初のS席でした)。左の男性はこの休憩時間にご退場。右のご夫婦も「アンコールはオケなしで聴きたかったわねぇ」(←まじですか!?)「終わっちゃったし、帰ろうか?」と話し合っておられる。それまでの会話から察するに正規のお値段で聴きに来られているようなのに、私にはそんな恐ろしいことはとても考えられない(だって後半を捨てるということは17250円を捨てるということ・・・!)。さすがS席は人種が違う・・・と思いましたです。

【ストラヴィンスキー:バレエ組曲 「火の鳥」(1945年版)】
今回の来日ツアーでこのコンビで聴いてきた演奏がすべて温かな演奏だったので、ここで私の中に一つの疑惑が生まれていたのでございます。
「もしかしてこの人たちって何を演奏しても温かな演奏になってしまうんじゃ・・・」と。
が、違いました。
疑ってごめんなさい、ヤンソンスさんm(__)m
この『火の鳥』、大っっっ変よかった。ヤンソンスは2013年のコンセルトヘボウとの来日でもこの曲をやっているんですね(その時は1919年版)。お得意の曲であることが指揮によく表れていて、安定感抜群。今回はバイエルン放送響とでしたが、この曲、このオケの音にもよく合っている。というより、この版がとても合ってるように感じられました。
演奏が始まると、瞬く間に舞台の上が魔王の庭園に。空気の透明感と禍々しさの同居、湿度とドライさ、スケール感と小気味良さのバランスがもうもう素晴らしかった。右から左へ、下から上へ、縦横無尽に音が音を繋いでいくのが流れるようで、オケ全体が一つの楽器のようで本当に愉しい。臨場感はP席が抜群だけど、こういう音の動きがはっきりと見えるのが正面席の利点ですね~。
1945年版は演奏時間が長いのが嬉しいわ。こんなに素敵な演奏、少しでも長く楽しみたいもの。王女たちのロンドまでの時間をしっかりとってあるのも、物語を追うことができてよかったです(予習でyoutubeでバレエ版を観ておいたのでよくわかった)。
そしてフィナーレの8分音符。私、全曲盤と1919年版しか聴いたことがなかったもので、「へ?」と呆気にとられました^^;。1919年版との違いを文章では読んでいたのですが、なぜか1919年版の4分音符の部分は休符なしの8分音符で倍速で演奏するのかと思い込んでいて。実際は8分音符+8分休符なんですね。スタッカートみたいな演奏になるのね。4分音符のままなら誰でも感動できる大団円で華やかに終われるところを、ストラヴィンスキーはなぜ敢えてあのように改訂したのだろうか。版権のためだけじゃないよねぇ。ここ、1919年版とは別の意味でのロシアっぽさを感じて非常に興味深かった&面白かったです。ほれ感動しろ!という湿っぽさのないドライな感じはこのオケの音に合っていて、でもこのオケが演奏すると冷たい印象になりすぎず大変よかった。最後の盛り上げ方のヤンソンスさんのコントロールはもちろん完璧!もっともっと長く聴いていたかったです。
そうそう、この火の鳥でも大活躍だったのは、少年のような外見のオーボエトップ(初日と3日目を担当)のラモン・オルテガ・ケロ君。覚書に書いておきます。

【グリーグ:「2つの悲しき旋律」op34~"過ぎにし春"(アンコール)】
今回の3日間で一番泣きそうになったのが、実はこの演奏でした。なんて優しく温かい人間味に溢れた空気でしょう・・・。またヤンソンスさんに「日本人は涙もろい」と言われてしまいますかね。
このコンビ、こういう小品的な温かい曲が本当に似合う。ヤンソンスとオケの間の空気の温かさがずば抜けてるんですよね。ヤンソンスは本当にこのオケを愛していて、またオケから本当に愛されているんだなぁ。

さて、ここで小さなハプニングが。
拍手で呼び戻されたヤンソンスが舞台に上がるときに転倒してしまって。指揮棒も手から落ちるほどの思い切りな転倒で、しばらく起き上がられなかったので、客席もオケも文字どおり「凍りついた」状態になりました。舞台袖から出てこられたスタッフの方に手を借りて立ち上がり、その後はふらつくことなく、まっすぐ指揮台へ。客席からの掛け声(ツイ情報によるとThank you!だったみたい)にも笑ってお辞儀して、客席に向けて笑顔でガッツポーズをされて大丈夫アピール。会場に安堵の笑い声が戻りましたが、オケのメンバーはまだ心配そうな顔でヤンソンスを見ていて。今度はそんなオケメンバー(とP席)にも「大丈夫だよ!」のガッツポーズ。そこでようやくみんなほっとした笑顔に。この光景には、ちょっと感動してしまった。ヤンソンスさん、本当にオケから愛されてるんだな~と。


【エルガー:「子供の魔法の杖」組曲第2番op. 1b~第6曲"野生の熊たち"(アンコール)】
わー、この演奏めちゃくちゃカッコイイ!ていうかこのオケの絶対的な音の崩れなさは何・・・
バイエルン放送響のHPでこの2曲がアンコールなことは知っていたのですが(後から消されてましたけど)、どちらも聴いたことがない曲でした。全くタイプの違う、でもどちらも私がこのコンビから最も聴きたいタイプの曲で、嬉しかった
ヤンソンスはオスロフィルとアンコール曲集のCDを出してるんですね。この曲も入ってる。過ぎにし春の方も入っていてくれたら嬉しかったけど、欲しいなぁ。

最後のソロカーテンコール。あのハプニングの後だしこれ以上呼び出すのも申し訳ないだろうかと迷いつつ、拍手。会場の皆さんも同じ気持ちだったろうし、ヤンソンスさんにもそれは伝わってたと思う。出てこられたときのとっても嬉しそうな笑顔と両手を合わせたお辞儀に(S席だと近っ)、やっぱり拍手してよかったなぁと思いました。こんな気持ちで会場を後にさせてくれてありがとう、マエストロ!

サントリーホールのロビーはすっかりクリスマス仕様で。
ひと足早い、とても素敵なクリスマスプレゼントを彼らからいただいちゃいました
次回の来日は2018年とのこと。楽しみにしています!



こちらこそアリガトウ\(^〇^)/


マリス・ヤンソンス(指揮)「自分の直感を信じて音楽を組み立てています」

ギル・シャハムからメッセージが届きました!

Mariss Jansons reveals why he especially loves the japanese audience. @BRSO FB
「舞台に出ると聴衆が拍手をしだします。すると私はこの聴衆のことが手に取るように分かるのです。日本人は非常に感受性が強く、涙もろいとさえ言えます。これは非常に興味深い。表面的には感情を表に出さないように見えますが、内心では非常にエモーショナルなのです」
演奏後の拍手ではなく、演奏前の拍手ですか。拍手している方はよくわかりませんが、指揮者ってやはり違うところを見て(聞いて)いるんですねぇ。興味深いです。

ヤンソンス ベルリンけってミュンヘンにとどまるワケ (日経2016.12)

Mariss Jansons: 'The notes are just signs. You have to go behind them' @The guardian (6 May, 2013)

Did he then, and does he now, feel in any sense an outsider? In the course of a working day he switches from Russian to German to English, none of them his native tongue. He has two passports – Russian and Latvian. His wife Irina is Russian. "None of this matters to me. I am a cosmopolitan. I work mainly in Holland, Germany and Switzerland. My home is in St Petersburg. I wish countries could borrow the best from one another. I admire, for example, the discipline and respect you find in Japan." …

Jan Raes, chief executive of the RCO since 2008 and a former orchestral musician, describes Jansons as "a perpetual student. He's always well prepared. He uses every second of rehearsals efficiently, with no long stories. He gives them everything he has. He is never laid back. All the players feel the pressure to work hard at the highest level, but they are always respectful too."

"Yes, Mariss is mercilessly hard on himself, and uncompromising," agrees Peter Meisel, a spokesman from Jansons's other orchestra, the Bavarian Radio Symphony Orchestra. "After a concert he will get the recording [for private orchestral use] and that same night, after the post-concert event when it is already late, he will listen to it all the way through to see what was good, what was bad." And if he finds errors? "He blames himself."

"My task is to correct," Jansons says. "You must blame yourself if something goes wrong." What happens when he conducts the same works with his two orchestras? Do they ever sound the same? "No completely, totally different! Each great orchestra still has an individual sound, thank God," Jansons laughs. He makes the comparison with having two children (he himself has one, a daughter from his first marriage, who works as a rehearsal pianist at the Mariinsky theatre): "You love them equally and you appreciate and negotiate their idiosyncrasies."

He doesn't mind comparing his orchestras out loud, either. The Bavarians are "in the best sense German, with a big sound and tremendous explosive excitement." By contrast the august Concertgebouw is "transparent, capable of great delicacy, polished, never forced". …

"So you have to study deeply and express your wishes. The notes are just signs. You have to go behind them and see what your fantasy tells you. But how do you express that through sound? If you think of the technical aspects of conducting as being on the ground floor of a big building, then 20 floors up you are beginning perhaps to get the sound you want."

He checks his watch. He must go. His conducting duties at Lucerne's Easter festival are completed. Is he travelling home to St Petersburg for a rest? "No, I'm off to hear Bernard Haitink rehearsing with my orchestra and I must not be late. I want to see what he does, and how they respond. He is such a wonderful Bruckner conductor, you see. I might learn something."

The very notion, coming from one of the finest Bruckner conductors of our era, seems ridiculous but is, one must concede, just possible.

好きなインタビューです(上記は抜粋)。ヤンソンスは本当に日本を愛してくれているんですね。ご自宅にはお父様が日本でもらってきた沢山の人形や扇が飾られていた写真を見たことがあります。ハイティンクのブルックナーについてもそんな風に言ってくれて嬉しい。コンセルトヘボウの首席指揮者に就任されたときもハイティンクの頃の音を大切にしたいって仰っていましたものね。コンセルトヘボウの125周年のときの色々、お二人の間で後を引いていないといいなぁ。ところで指揮者がよく自分のオーケストラを「my orchestra」と呼びますが、温かい感じがしてとても好きです

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