風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

パリ管弦楽団 @東京芸術劇場(10月15日)

2022-10-16 11:45:41 | クラシック音楽




先日のロンドン響の感動がまだ残るなか、今日はパリ管へ。
来日オケラッシュの東京の秋がようやく戻ってきた
が、斜陽の我が国ではそんな秋も今年が最後という話も。。
ちなみに一昨年中止になったソヒエフ&パリ管はD席7000円でしたが、今年は15000円ですよ。こんな勢いで値上がったんじゃ、仮に来年以降も海外オケが来日してくれても、私が行けない。
先の心配ばかりしても仕方がないが、聴きたいものは聴けるうちに聴いておけ。
というわけで、行ってきました池袋

いやあ・・・・・・何よりもまずパリ管の音に驚いた。。。。。
このオケを聴くのは初めてで、これほど私好みの音を出してくれるオケがまだあったとは、世界はまだまだ広いのだなぁ。。。。。
単純に音の好みだけで言うと、今まで聴いたなかで最も好きなのはウィーンフィルで、今日のパリ管はタイプは違えどそれに肉薄するくらい好きな音かもしれない。(他にチェコフィル、コンセルトヘボウ、バイエルン放送響、マリインスキーとかも好きです)
これってパリ管独自の音なのかな。それともフランスのオケの特徴なのだろうか。フランス国立管や放送フィルやトゥールーズキャピトル管も聴いてみたいものだ。
パリ管の音の特徴として色彩感という言葉がよく言われるけど、そうは言っても楽器の音だし限界はあるよねぇと聴く前は思っていたのだけど。
色彩感はんぱなかった・・・・・。全ての楽器から違う色が見えるようだった。
そして自由で、色気があって、軽やかさも、柔らかさも、透明感も、禍々しさもあって。
デュトワが職人芸で新日フィルから作り出していたor作り出そうとしていた音色を、この人達は難なく自然に出しているように聴こえた。


【ドビュッシー:交響詩《海》】
今日のコンマスの千々岩さんが2014年のインタビュー「パリ管の使命はいわゆる各国のクラシックの名曲を演奏することで、フランス音楽の伝統を守るという傾向は、フランス放送フィルハーモニー管弦楽団(ラジオフランス)やフランス国立管弦楽団の方が強いように思います。彼らの方がもっと責任感をもっていろいろなフランス音楽を演奏していますよ。自分としては、パリ管でももっとフランスの曲をやりたいですね。」と仰っていたのを読んだことがあったので、今回のプログラムは本来のパリ管向きのものではないのかしらと思いきや、とんでもない、素晴らしかった。

マケラの指揮も、想像していたよりずっと好みで驚きました。
外見が爽やか君なせいもあり、もう少しアッサリ&スッキリした音楽を作るタイプかと思いきや、そういう傾向ではあるけれども、歌わせるところはちゃんと歌わせ(これはパリ管のおかげもあるのかもだが)、激しいところはしっかり激しくて嬉しい驚き。ロトのことをone of my heroesと言っていただけあるなあと。
空、波、風、光の清澄さと繊細な移り変わりと、波のうねりと。その空気を肌で感じるよう。
ああ楽しかった、美しかった。
マケラのシベリウスも聴いてみたいと感じたけど、来年オスロフィルとやるんですね。

【ラヴェル:ボレロ】
この曲はベジャールバレエでは何度も聴いているけど、BBLは基本録音を使うので、生演奏は初めて。
ベジャールのボレロの音源は、二十世紀バレエ団の頃はマルティノン&パリ管弦楽団で、ローザンヌになってからはデュトワ&モントリオール響のものを使用しているそうです。
管のソロの柔らかな音色、色っぽくていいなあ(一部不安定な人もいたが…)
しかしバレエで観ているとダンサーにも目がいくので彼らと音楽の相乗効果に浸りきっていて、音楽の変化に関しては無意識なのだけど。
改めて音楽だけで聴くと、「そろそろ盛り上げなくていいの…?大丈夫…?終盤に急にクレッシェンドなんてことにならない…?」と妙な心配を起こさせる曲であることが今回わかった笑。そのポイントは指揮者も奏者の皆さんも論理的に把握されているはずで、いらん心配なのだろうけれども。そして、なるほど根気よくいかないとだめなのね、ということもわかった。中盤あたりに来ても、まだまだ先は長い(聴いてる方は一瞬も飽きないので長くは全く感じないが)。
しかしクレッシェンドもそうだけど、速度を変えない演奏っていうのもよくできるものだな。気づいたら早くなってたり遅くなってたりしないのかしら。ラヴェルもよくこんな音楽を思いつくものだな。天才だな。

なんて素人丸出しな感心を初めての生ボレロにしつつ。
この曲でも、パリ管の音の色合い!
いやあもうほんとに一人一人全部が違う色に見えて、それらが合わさって盛り上がっていく様は究極の美しさで、楽しくて仕方がない。一人一人個性が際立って好きに演奏しているように聴こえるのに、結果的にはちゃんと統一感がある。こういうところが最初から統一感を目指しているように聴こえる日本のオケとの一番の違いだと、海外の、特にヨーロッパのオケを聴くといつも感じる。
ちなみにこのコンビのボレロは、原始的興奮のようなものはあまり感じられないタイプ(ゲルギエフとかに比べれば、ですけど笑)。禍々しさはちゃんとあるし、もちろん曲構造的にも音色的にも興奮するんだけど、最後まで美しくスタイリッシュな音楽に聴こえました。帰宅してからyoutubeの宣伝動画を観たけど、やはり同じ印象。
これはこれでとてもよい。

(20分間の休憩)

【ストラヴィンスキー:バレエ音楽「春の祭典」】
この曲を生で聴くのは、サロネン&フィルハーモニアに続いて2回目。
今月本拠地のパリであった演奏会のこの曲の評判が良かったので楽しみにしていたけど、おおっ、いい~
上演前のプレトークで奥田佳道さんが「ドビュッシーはストラヴィンスキーをとても高く評価していて『火の鳥』と『ペトルーシュカ』については文句なく絶賛していたけれど、この『春の祭典』だけは”美しい悪夢”と呼んだ」と仰っていて、ドビュッシーはどちらかというとネガティブな意味で言ったらしいけど、今日の演奏は良い意味でまさに「美しい悪夢」のように感じられました。
この曲ってこんなに美しかったんだねえ。。。そしてしっかり悪夢だった。。。
例によってサロネンのような楽器が壊れるのではレベルの狂暴性やゲルギエフのような土臭い野性味とは異なるけれど(ゲルギエフはストラヴィンスキーを「ロシアの音楽」と言い切っているそうです)、バレエ・リュスがフランスとロシアの融合であるなら、今日の演奏はフランスの空気の方をより強く感じました。
といっても「優雅で上品なおフランス」の方じゃないですよ。バレエ・リュスを生み出した方のフランス。いや、品はいいんですけど、それ「だけ」ではないというか。
なんかパリ管って気まぐれで場合によってはやる気のない演奏を聴かされるような勝手なイメージがあったんですけど(根拠ゼロです、フランス人に対する100%の偏見です、すみません)、今日の演奏はしっかり熱が感じられて素晴らしかった。マケラ&パリ管のコンビ、いいね~。きっと良い関係にあるのだろうなあと感じました。
第一部のラストの爆発には、固まって動けなくなってしまった。あの客席の静寂。きっとみんな固まっていたに違いない。
この曲でも、パリ管の音は禍々しさと色っぽさがあって、そして自由で美しい。

そしてマケラは、オケやホールの雰囲気を作るのが上手いね。演奏前も、指揮台に脚を開いて俯いて立つだけで、オケも客も静まりかえって空気が出来上がる。26歳で見事なものだなあ。
こういうのって意外と大事ですよね。以前千々岩さんがサロネンについて「この指揮者の良いところは、演奏前に既に良い演奏になることを確信させるところ」みたいなことをtweetされていた記憶があるけど、マケラにもそういう空気を既に感じる。これから更に成長していくのだろうなあ。
もちろん演奏も、あの歳で完全にオケをコントロールしているようにちゃんと見えるし、聴こえる。実際はパリ管がマケラに協力的だからという理由も大きいのだと思いますが、オケにそうさせるのも指揮者のひとつの才能ですよね。今日も指揮者が魔法使いになっていました。

今日の演奏を聴いていて気付いたけど、春祭って『火の鳥』と似てる部分もあるのね。やはりストラヴィンスキーなのだな、と。

照明演出は、行く前は「マジいらない」と思っていたけど、実際はそこまで気になりませんでした。マケラとオケを見ていたら最初のうちはいつ照明が変わっていたのか気付かなかったくらいだし、ストーリーの変わり目で変わるので、聴いていて物語を思い浮かべやすいというメリットもあるといえばある。まあ、いりませんけどね。

【ムソルグスキー:オペラ『ホヴァンシチナ』より前奏曲「モスクワ川の夜明け」(アンコール)】
演奏前にマケラから、日本に戻ってこられて嬉しい的な挨拶と、アンコール曲の紹介。
マケラってああいう声なのか。そして頭も耳も完全にフランスになっていたので、突然の英語に戸惑うワタシ(阿呆だ)。
マケラはフィンランド人なのだった。コンマスさんは日本人の千々岩さんだし、なのにどうしてあんなにイギリスともアメリカともドイツとも違う、ちゃんと”フランス”に感じられる個性的な音が出るのか不思議。
この曲は初めて聴きましたが、どこか郷愁を帯びた美しい曲ですね。
パリ管は清澄な音もしっとりした音もちゃんと出ているのが本当によい
これがどういう内容のオペラかわからないけれど、フィンランド人であるマケラが今この曲を指揮するというのはどういう気持ちなのだろう。調べてみると、この曲は前奏曲で、「川の小波、鳥のさえずりなど、モスクワの夜明けの美しさが変奏曲の形式で描かれ、続くオペラ本編の人間たちの壮絶な政治闘争の描写と好対照を成す」(wikipedia)と…。

最後にマケラがオケに立つように促しても、オケはマケラを称えて立たず。一般参賀も一回ありました。

「広大なレパートリーから好きな曲を選んで指揮することに子供の頃からあこがれていた。最初にオーケストラを振ったのは12歳の時。あの感動は忘れられません」

ヘルシンキのシベリウス・アカデミーで師事したのは名教師ヨルマ・パヌラ。「僕の自主性を重んじ、個性を伸ばしてくれた。指揮で一番大切なのは『奏者の邪魔をしない』こと。そのため言葉を極力使わず、ジェスチャーで楽団員に意図を伝えることを学んだ」

 共に来日するパリ管について、「個性の強い集団で繊細かつ知的な音楽が持ち味」と語る。音楽監督に着任してまだ日が浅いが、すでに「彼らの美点を引き出す方法がわかってきた。演奏水準は日を追うごとに上がっている」と自信を見せる。
読売新聞「パリ管弦楽団率いる26歳の異才、クラウス・マケラの極意は「言葉を極力使わない」

頼もしい

ラトル&ロンドン響に続きマケラ&パリ管、心から楽しませて&感動させていただきました。来日してくれてありがとう!!!
さて、これからブロムさん&N響、行ってきます

※18日のパリ管サントリーホール公演の感想はこちら




クラウス・マケラ指揮 パリ管弦楽団「ラヴェル:ボレロ」

クラウス・マケラ指揮 パリ管弦楽団「ドビュッシー:交響詩《海》」

今回の春祭のバレエ映像での予習はゲルギエフ&マリインスキー管ではなく、こちら↓。どちらも二ジンスキー振付のものですが、こちらの演技の方がストーリーがわかりやすい。このニジンスキー版を復活させたのもこの方達とのこと。
Joffrey Ballet 1987 Rite of Spring (1 of 3)

パリで活躍する日本の「副コンマス」たち。第1回 パリ管弦楽団 副コンサートマスター 千々岩英一さん(アッコルド)
千々岩英一さん(And Vision)
千々岩さんのtwitterは時々拝見しています。

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