風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

劇団民藝 『集金旅行』 @俳優座劇場(12月2日)

2021-12-09 14:26:26 | その他観劇、コンサートetc




2013年の初演いらい日本各地を巡演してきた傑作喜劇『集金旅行』が、いよいよ東京に舞い戻ってきます。「黒い雨」などで知られる井伏鱒二が1935年に発表した連作小説「集金旅行」を初めて舞台化。全国各地で190ステージを重ねて客席を笑いの渦に巻き込んできました。このたびのアンコール公演は、妖しげな色気をもつコマツランコ演じる樫山文枝と、自称「売れない小説家」ヤブセマスオ演じる西川明をはじめ、芸達者な俳優陣の練りに練った演技でお芝居の醍醐味を存分に味わっていただきます。また舞台は昭和初期、荻窪をふり出しに岩国、下関、福岡、太宰府、尾道、福山とまわって集金していきますので、猛特訓を重ねた古いお国ことばにも乞うご期待! 若き太宰治も登場して必見の好舞台です。
公式サイトより)


最近自分の比重がクラシック音楽に偏りすぎているように感じられ、無性に全く違うものを見てバランス修正をしたくなったので、行ってきました。劇団民藝の『集金旅行』。
いつも拝読している方のブログでこの公演のことが紹介されていて、面白そうだな~と。
俳優座劇場って初めて行きましたが、六本木駅の目の前なのに昭和な空気の漂う良い劇場ですね
1階席のみで、座席数300。後方からでも俳優さんの表情が余裕でわかる。劇場はやっぱりこれくらいの規模が一番いいな。

『集金旅行』は主演の樫山文枝さんが「おおらかで、人間を肯定している作品です」インタビューで仰っていたとおりの作品で、とても良かった。
井伏鱒二の原作は未読ですが(というか井伏鱒二自体が未読ですが)、今回の劇を見て、太宰治の『グッド・バイ』の空気と似ているなと感じました。内容も似ていますよね。恋愛関係にない男女がひょんなことから行動を共にするロードムービー的なコメディ。太宰の方は愛人達との縁切り旅、こちらは慰謝料&滞納家賃請求旅。
ワタシ、こういう空気の作品、好きなんです。神経質じゃなくて、のんびりしていて、情けなくて、逞しくて、でもどこか艶っぽさも感じさせる大人の小品。以前太宰の『グッド・バイ』が山崎まさよしさん主演でドラマ化されたことがあったけれど、あれもすごく好きだった。

荻窪のアパートとか、天沼に住む学生の太宰君とか、”売れない三流作家が住む中央線沿線”とか、志賀直哉や林芙美子の家のある尾道とか、この時代の文学好きのツボにはまる小ネタにも、ニヤニヤしちゃいました 小林多喜二の名前も出てましたね。

舞台セットも、素敵だった。
客席と舞台を歪な棒四本で枠のように隔てさせて、アパートの場面も、汽車の場面も、各地の旅館の場面も、葬儀の家の場面も、トタンの家の場面も、少ない装置と役者さんの演技だけで舞台上が別世界になる様を堪能しました。この役者の息遣いを肌で感じながら別世界を体験できるのは、小さな劇場ならではですよね。久しぶりに「演劇」がもつ本来の空気を感じることができた気がします。

役者さん達も、皆さん味があって素敵だった。
コマツランコ(七番さん←みんなアパートの部屋番号で呼び合っている)役の樫山文枝さんも、ヤブセマスオ(十番さん)役の西川明さんも、役にピッタリ。
五番さんの小杉勇二さんも楽しかったし、岩国の名士役の水谷貞雄さんも雰囲気がありながら軽みもあって素晴らしかったなあ。

最近心が疲れ気味だけど、おおらかで上質な大人なお芝居に、ひとときの癒しをいただくことができました。客席の空気もピリピリしていなくて、皆さん楽しそうで、コロナ禍になってからこういう雰囲気は久しぶりだったな。(言い換えると、狭い密空間で皆さんマスクはしつつも普通に笑い声をあげたり休憩時間に会話しているので、コロナ予防的には微妙なわけですが)。

劇団民藝、いい劇団だなあ。
でもネットで皆さんの感想を読んでいて知りましたが、この劇団が喜劇をするのは珍しいらしいですね。普段はシリアスな作品が多いとのこと。確かに次回の『レストラン「ドイツ亭」』も、アウシュヴィッツの話ですね。このアネッテ・ヘスの原作は今年出版されたばかりの小説で、こういう新作をどんどん舞台化している攻めの姿勢も素晴らしいなと思います。

また機会があったら観に行きたいな
普段は俳優座劇場ではなく、新宿の紀伊國屋サザンシアター(468人収容)で公演をされてるんですね。

十番さん(ヤブセマスオ・小説家) 西川 明
太宰 治(作家志望の学生)  塩田泰久 ※12/2(Wキャスト)
五番さん(富士荘の居住者・勤め人) 小杉勇二
七番さん(コマツランコ・職業不詳) 樫山文枝
香蘭堂(荻窪の地主・文具店) 今野鶏三
岩国の宿の女中 箕浦康子
杉山良平(岩国の金融業者) みやざこ夏穂
相原作之助(岩国の名士) 水谷貞雄
福岡の宿の女中 有安多佳子
ミノヤカンジ(下関の医者) 山本哲也
阿万築水(福岡の没落地主) 佐々木梅治
阿万克三の妻(築水の弟の妻) 河野しずか
紋付の男(広島・加茂村) 大野裕生
鶴屋幽蔵(加茂村の地主) 吉岡扶敏
津村家の番頭(広島・新市町) うちだ潤一郎





太宰が1936年11月~37年6月に下宿していた、天沼のアパート「碧雲荘」。
2012年に訪れたときの写真です。2017年に大分県由布院に移築され、跡地は高齢者福祉施設になりました。所有者の「更地にして土地を売りたい」という意思による結果だそうですが、明治村の漱石&鴎外の家もそうだけど、こういう家はその街にあってこそ意味があるのになあ…(もちろん壊されるよりは移築された方が100倍マシですが)。こういう点、数百年前の家々がその場所に普通に残っている&人々も残そうと努力しているロンドンが羨ましい…。
それでも荻窪とか三鷹とか阿佐ヶ谷とか中央線沿線は、まだかろうじて武蔵野の空気を残している良い街ですよね。阿佐ヶ谷にある谷川さんのお宅もとても素敵だし、三鷹にはジブリ美術館もあるし、もっと頻繁に行きたいエリアなのだけど、私の行動範囲からはあまりに不便で遠すぎる。私には京都や新大阪の方が体感的にずっと近いです。

【井伏鱒二、太宰治、小林多喜二…】東京、中央線沿線に住んだ作家たち
太宰治と荻窪 その1「太宰治が荻窪で過ごした下宿群 唯一残されたあの碧雲荘が売りに出た!〜特集・太宰治没後70年(前編)


©劇団民藝

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