風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

大内美予子 『土方歳三』

2007-07-03 02:19:24 | 



―――近藤さん、一緒に来てくれ。新選組の連中を一人残らず連れて――
馬の速度を上げながら、俺は心の中でつぶやいていた。
行手には、一本木関門が見え、その向こうに箱館の街と、左右に広がる海があった。

(大内美予子『土方歳三』)


『沖田総司』がなかなかよかったので、こちらも読んでみました。

うーん・・・・・・。
決して悪くはないんだけど、焦点がぼやけたまま淡々とストーリーが進み、そのまま終わってしまったような印象でした。
せっかく歳三の一人称で書いているのに、彼の心情を深くまで描きこんでいるわけでもなく。
大内さんがこの小説で表現したかったことは、あとがきによると「近藤と別れた以降の一人の男としての土方の魅力」とのことだけど、私にはそれがぼんやりとしか伝わってきませんでした。
婚約者のおことさんの役割もなんだか中途半端だったし。
小説ではなくちょっと詳しめの人生記録を読んだような読後感、、、。

ただ、上で引用したラストシーンはすごくいいと思った。
いくらでも感動的にできる死の場面を描かず、一本木関門へ馬で駆けてゆくところで切った終わり方は、爽やかな余韻が残っていい。

あと、あいかわらず好感の持てる文章を書く人だなぁとは思いました。
たとえば司馬さんの作品などは、時々意地の悪い人物描写があったり、女性にとって不愉快に感じる言葉が使われたりするのが読んでいて気になるのだけど、大内さんにはそういう部分が全くないから安心して読むことができる。これは女性作家の良さですね。

※写真は函館の碧血碑へ向かう道からの眺め。函館はどこにいても海が見えるのがいい。素敵な洋館も多いし(私は洋館マニア)、大好きな街です。

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