シネマ日記

超映画オタクによるオタク的になり過ぎないシネマ日記。基本的にネタバレありですのでご注意ください。

大通りの店

2006-03-29 | シネマ あ行
1965年チェコスロバキアの作品。アカデミー賞外国語映画賞受賞。主演女優賞ノミネート(アイダカミンスカ)。

1930年代後半~1940年代初頭ナチよりの政府が誕生したスロバキアではアーリア化政策が取られ、ユダヤ人は事業を所有することが禁止された。そこで大工のトーノヨーゼフクロネルにユダヤ人ラウトマンアイダカミンスカの店の管理人になれという指示がでる。もとより、ナチをいいように思っていなかったトーノだが、「これで金持ちになれる」とウキウキの妻や妻の姉、党の有力者であるその夫に後押しされて、イヤイヤながらもラウトマンの店の管理人をやり始める。このラウトマンさんはもうかなりの高齢のおばあさんで店はたいして儲かってもいないが、ユダヤ人のコミュニティがなんとかみなで面倒をみていた。

トーノはナチよりの人間ではないからラウトマンさんにも親切だったし、そこのユダヤ人コミュニティともうまくやっていた。うちに帰ると妻には「早くラウトマンの隠し財産を手に入れろ」とか言ってきて、尻をたたかれたが、トーノは適当にやりすごしていた。

しかし、ついにユダヤ人への政策が厳しくなってきてユダヤ人は収容所に送られることになる。なんとか、ラウトマンさんを助けようとするトーノだが、ラウトマンさんは耳が遠くてトーノの言うことをきちんと聞いてくれない。焦るトーノ。今日はユダヤの安息日だけど、店を開けていないとユダヤ人がいると思われる。必死に店を開けるトーノ。事情を知らず「安息日に店を開けるなんて」と文句をいうラウトマンさん。トーノと一緒にこちらも焦る。ラウトマンさん、奥に隠れてないとナチにばれちゃうよ。奥でじっとしてて。お願いだから。そのラウトマンさんへの思いが自分の恐怖に変わっていく。「もし、ユダヤ人をかくまっているとバレたらどうしよう。俺が殺されちまう」ラウトマンさんを助けなきゃという思いと自分が殺されるという恐怖で気も狂わんばかりのトーノ。トーノは英雄でもなんでもないただの冴えない男。自分の良心とこんなばあさんのために死にたくないという思いがもう彼の心と頭の中でぐちゃぐちゃになってくる。ぉああああああーーーーっ。その末に起こる悲劇。ナチが直接手を下したわけではないが、間違いなくナチに罪のある悲劇である。

広場に建設されているナチを賞賛する塔がクライマックスに向けて着々と空高く完成していく。第三帝国の完成を見るようなその不気味さ。

トーノが通りを歩くときには不穏な音楽がバックで流れ、ラウトマンさんの家では平穏な音楽が流れる。それが後半、ラウトマンさんの家の中でも不穏な音楽が流れ、ここにもナチの恐怖が浸透してきたことが分かる。火事の煙や漏れたガスが扉の下の隙間から入ってくるように恐怖が家の中まで満ちる。人の心を支配する恐怖に寒気のする一作である。


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