シネマ日記

超映画オタクによるオタク的になり過ぎないシネマ日記。基本的にネタバレありですのでご注意ください。

アクトオブキリング

2014-04-22 | シネマ あ行

公開前から映画ファンの間で話題になっていたので、見に行こうと決めていました。

1960年代のインドネシアで起こった大量虐殺。多くは共産主義者の嫌疑をかけられ拷問の末殺害された。その実行犯たちに取材を試みたジョシュアオッペンハイマー監督。最初は被害者たちへの取材から始まったが当局に被害者へのインタビューを禁止され、加害者たちにカメラを向けることにしたということである。加害者たちにインタビューをしてみると嬉々として自分たちが行った虐殺をやってみせてくる。それならば、と、「あなたたち自身でカメラの前でその虐殺を演じてみませんか」と持ちかける。

話の中心となるのはアンワルワンゴ。彼は政治的思想などはなく、ただのギャングで当時殺人部隊のリーダーだった。共産主義者を一掃した彼はいまでも国の英雄的存在だという。その彼が、監督にカメラの前で自分たちのやったことを再現してくれと言われてとても嬉しそうだった。自分がアルパチーノのような映画スターになったかのように錯覚したらしい。自分たちが行った拷問、虐殺を説明し、再現してみせる一方で映画なんだからキレイなお姉ちゃんを入れろ、ダンスを入れろ、歌を入れろとわけの分からない演出をしてくる。

アンワルの助手のヘルマンコト。彼も劇団の経験があるとかで映画に出ることに妙に張り切っている。被害者役のオーディションも積極的だし、女装もイヤがらずに引き受けている。この女装があまりにも気持ちが悪い。何を考えているのか全然分からない。途中、州議会選挙に出馬したが落選していた。そのキャンペーンで一般市民がみな候補者に賄賂を求めている姿が映し出されていた。

アンワルと一緒に虐殺をしたアディズルカドリ。いまは悠々自適の生活をしているように見えた。当時華僑の恋人がいたが、その父親を殺したことを何の罪悪感もなく話していた。いまでも自分たちは罰せられていないのだから、何も悪いことはしていないと自信満々だ。ハーグの裁判所でもなんでも出向いて行って自分たちが正しいことを証言してやるんだそうだ。

新聞社を経営するイブラヒムシニク。当時アンワルたちに誰を殺すか指示を出していた。自分では一切手を下してはいないが、彼の指令で何百、何千もの人が殺された。彼もまた特に罪悪感など感じていない様子だった。

「パンチャシラ青年団」というインドネシア最大の青年団が登場し、絶大な権力を握っている様子が映し出される。地域リーダーのサフィトパルデデは華僑からショバ代を巻き上げている。この時の華僑たちの表情がなんとも微妙だった。愛想笑いを浮かべながら恐怖と軽蔑が入り混じった瞳をしていた。

アンワルの隣人で映画に被害者役で登場するスルヨノという人は昔華僑の継父を共産主義者だとして殺された話をアンワルたちを目の前に語る。しかし、彼は「あなたたちや映画を批難しているわけじゃないよ」と声を上げて笑いながら語っていた。そうでもしないと多分大変なことになる。

とにかく、アンワルを中心とする彼らの行動はすべてが解せない。まるですべてが楽しい思い出かのように語るアンワルたち。1000人もの人を殺しておいて自分の孫がアヒルの脚をケガさせたときには「アヒルちゃんに謝りなさい」と言ってみせる。殺人者とおじいちゃんの顔は別なのかもしれないけど、もし孫が自分の跡を継ぐような人間になってもきっと誇りに思うだけだろう。

インドネシアという国のことは何も知らなかった。国営放送にアンワルたちが出演した時の女性キャスターが怖い。笑顔で「彼らは共産主義者を効率よく慈悲に溢れた方法で一掃したんですねぇ」とハキハキと言ってみせる。これは何?もう「20世紀少年」の世界のよう。でもこれ、西側諸国は全部黙認してるんですよね。日本政府も含めて。この虐殺が起こる前、いまの軍事政権になる前のスカルノ大統領が西側には楯突いてたから。西側諸国は軍事政権側に加担してる。

アンワルは映画の再現で被害者を演じてみて初めて被害者の気持ちが分かったと語り始める。監督の「でも彼らは本当に殺されると分かっていたのですよ。その恐怖とは全然ちがうでしょう?」という問いかけは無視で、涙を流し始める。虐殺をした現場でも吐き気を催し始め、その様子が延々と映されていた。この映画を撮ることで彼の中に罪悪感が生まれ始めた?その前から悪夢を見ると言ってはいたし、罪悪感がなかったわけでもないのか?でも、本当に???そうなのか???彼は被害者の気持ちが分かったと言ったその舌の根も乾かぬうちに言った「その報いが来るのか?そうでなければいい」これが彼の本音では?彼は自分への報いが怖いのであって、被害者への哀悼の気持ちや罪悪感や反省など皆無なのでは?ワタクシにはそう思えた。彼一人がどうこうではないですけどね。人間というものはこういうふうにもなれてしまう生き物なのだなぁと。

彼らの考えたダンスや歌などが流れたり、悪夢の再現のための特撮めいたものがチープ過ぎて不愉快極まりない。それが監督の狙いなのかどうか分からないけど、とにかく全編を通じて気分の悪い作品だった。と言って作品自体の評価を下げるつもりはないですが、とにかく色んな意味で不快な作品であることだけはこれからご覧になる方に忠告しておきます。



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