シネマ日記

超映画オタクによるオタク的になり過ぎないシネマ日記。基本的にネタバレありですのでご注意ください。

裏切りの戦場~葬られた誓い

2012-11-28 | シネマ あ行

フランス領ニューカレドニアで1988年に起きた独立派先住民とフランス軍の衝突を描いた作品。

1988年4月22日、ニューカレドニアのウベア島でカナック族の独立派がフランス憲兵隊宿舎を襲い、人質を取るという事件が発生。混乱の中で死者も出たことで、フランス政府は陸軍を送り出す。本来であれば、フランス“国内”の事件で軍が派兵されるのはおかしいのだが、陸軍が指揮権を取った。その中で、フランス国家憲兵隊治安介入部隊のフィリップルゴルジュ大尉マチューカソヴィッツは人質解放のため独立派と平和的交渉を試みる。

武力で制圧してしまえという陸軍と、なんとか平和的に解決しようとする憲兵隊大尉の対立と同じように、フランス本土でも大統領選を控え、当時のミッテラン大統領とシラク首相が対話路線と強硬路線で綱引きをしていた。

この作品はフィリップルゴルジュ大尉の手記を基にマチューカソヴィッツが監督、脚本、編集、主演を務めた力作である。人質の解放の交渉に向かい、さらに自分の部隊の部下まで人質に取られてしまう大尉だが、独立派の主張も理解でき、彼らも平和的解決を望んでいることを知り、政府、軍、ニューカレドニア解放軍との交渉に奔走するルゴルジュ大尉の姿を非常に事細かに誠実に描いている。

フランス本土では、過激なテロリストたちがフランス憲兵隊を殺戮し、人質を取ってジャングルに立てこもっているという報道しかされず、おそらく国内のムードは過激なテロリストをやっつけろ!というふうに煽られていったのだろう。最初は穏健派だったミッテラン大統領が最後には武力での鎮圧命令を下してしまう。右派の内閣が力をつける中で負けられない選挙だった。

それまで懸命に平和的解決を模索していたルゴルジュ大尉は、独立派のリーダーと信頼関係を築きつつあったのに、その信頼を裏切ることになってしまう。結局は軍人として、政府の決定に逆らうことはできず、総攻撃に参加するしかないルゴルジュ大尉。非常に無念であっただろう。

最後の総攻撃の描写だが、フランス国内にいる治安介入部隊が不慣れなジャングルで容赦なく攻撃をする陸軍たちと共に作戦を遂行する姿が非常にリアルに描かれている。彼らは決して百戦錬磨の兵隊などではなく、訓練は受けているけれども、ここまで厳しい戦いはおそらくいままでそんなになかった部隊ではないか。大尉の前進の命令にも「そんなに進めません」とか言ったり、死体にも「死体がある!」とか驚いていて、その部下を大尉も叱るではなく「見るな。死体は見ないで進め」とか言っていた。その描写が逆にリアルで良かったと思う。

攻撃前もマスコミに自分たちの主張を訴えかけたいと言い、それを大尉が実現してくれることで平和的解決を望んでいた独立派だったが、攻撃を受けてからはみなちりぢりになり無抵抗になっていたのにも関わらず、フランス軍は執拗に攻撃を続け、降伏状態の者を射殺したりした。のちに、マスコミが政府のウソを暴いたらしいが、今現在に至ってもこの事件のことをフランス政府は公には認めていないらしい。

上映時間134分と結構長めで、ルゴルジュ大尉の動きを一挙手一投足見せるような作品です。それだけマチューカソヴィッツはきちんとすべてを見せたかったのだろうなと思います。それでも退屈しない作品ですし、こういう事件の映画に“娯楽”という言葉を使うのは気が引けますが、映画という娯楽としてもきちんと成り立っている作品だと思います。

ワタクシは不勉強で、ニューカレドニアは“旧”フランス領だと思い込んでいたのだけど、今現在でも独立はまだらしいですね。2014年に住民投票が行われるって映画の最後に出てましたけど。大方の見方では独立になるだろうということですが、経済的なことを考えると独立後どうなるのでしょうね。