シネマ日記

超映画オタクによるオタク的になり過ぎないシネマ日記。基本的にネタバレありですのでご注意ください。

ジーザスキャンプ~アメリカを動かすキリスト教原理主義

2012-11-27 | シネマ さ行

以前から見たいとは思っていたんだけど、どこで探したらいいか分からなかったんだけど、密林書店で発見したので購入しました。ワタクシは全然知らなかったんだけど、2009年から2010年にテレビで放映していた「松嶋×町山未公開映画を見るTV」という番組からDVD化されたものらしいです。町山智浩さんというアメリカ在住の映画評論家とオセロの松嶋が日本未公開映画を見てトークを繰り広げる番組だった、のかな?番組自体は見ていないので分からないのですが。その番組で取り上げられたうちの数本がDVD化されたものを購入しました。

ブッシュ政権時代、アメリカのキリスト教福音派の牧師フィッシャー女史が行うサマーキャンプなどの様子を映し出します。福音派というのは、簡単に言っちゃうと聖書に書いてあることを文字通り信じるプロテスタントの会派です。

彼らは聖書に書いてある万物創生を信じているので、進化論は信じていません。恐竜も人間もいっぺんに神が創造したのです。学校に行くと進化論という“ウソ”を教えられるので子どもたちは学校には通わず、ホームスクールといって家庭で母親などから教育を受けています。見るテレビも聞く音楽もすべて福音派の教えに沿ったもの。同性愛、中絶手術にはもちろん反対だし、地球温暖化はリベラルのでっちあげで、ハリーポッターは魔法使いだから悪魔の化身です。「ママはダメって言うからパパと見に行ったんだよ」と言った子に対して目をシロクロさせてる子がいました。

家庭ではもちろん、このフィッシャーさんが主宰するサマーキャンプでとことん子供たちにその教義を叩き込むわけです。しょっぱなから「現代の人たちは食に貪欲になり、2、3日の断食すらしようとしないのです。イスラム教徒は5歳からラマダン(断食)に参加するのですよ」とか言ってるフィッシャーさんがまたアメリカ人のご多分に漏れず随分太ってらっしゃるんだわ。もうそれだけで偽善っぽいんだけど、誰も突っ込まんのかね?アメリカではあれくらいじゃデブの部類には入らんか。

フィッシャーさんによれば、イスラム社会では小さな子供に教義を叩き込み、機関銃の撃ち方を教え、殉教することを教え込んでいる。私たちも子供たちを利用しないといけない。だそうです。英語と日本語のニュアンスの違いはあるかもしれないけど、はっきり「利用」って言っちゃうんだからすごいよなぁ。しかも、彼女は明らかにイスラム教徒を敵視しているし、子供たちには喜んで命を捧げるようになってほしいって言ってるんだよね。キャンプでは敵の代わりにマグカップをハンマーで打ち砕かせるという余興もあるし。

んで、子供たちはもう物心ついたときからずっとそういう環境で育っているから、フィッシャーさんの言う事に涙しちゃうわけ。神との対話だかなんだか分かんないけど、ワケの分からない言葉を言いながら涙を流してトランス状態になる。フィッシャーさんはあれはトランス状態ではなくて神との対話であって彼女は自分が何をしているかちゃんと分かっているって言ってたけど。

もちろん、子供というのはその育ってきた環境でそれが正しいと思って育つわけだから、それはワタクシだって同じことで、子供の時から家族が普通にしてきたことを当たり前だと思ってたとかそういうのはあるわけだよね。それは誰でもある。だから、どの線からが洗脳で、どの線からはいわゆる“普通”だって言えるのかは分からないけど、まぁこのサマーキャンプはもう理屈じゃなく明らかに普通じゃないわな。彼らのキャンプは大成功で子供たちは、知らない人に「神はあなたの人生に計画があります」とか話しかけてパンフレット渡したり、みんなの前で説教したりその説教を書くときは神が降りてきているとか言うんだよねー。ブリトニースピアースよりこれが好きって福音派ロックを当然選ぶし。いや、ブリちゃんを選ぶのが正しいってわけじゃないけどさ。

ワタクシははっきり言って宗教なんて大嫌いなんだけど、他人が何をどう信じようと自由だと思う。けど、それが政治的に力を持っちゃったりするのはやっぱりダメだね。この福音派っていうのはブッシュを強力に支えていた人たちで、いまでも共和党をバックアップしてるんだけど、このドキュメンタリーが撮られたときはブッシュ政権時代で、キャンプにダンボールのぺらぺらの等身大ブッシュを持ってきて、子どもたちに彼のために祈りましょうって言って、そのぺらぺらの紙を本物のブッシュかのように崇めてるのが、かなり滑稽だった。

彼らが同性愛に反対するのも中絶手術に反対するのも勝手だけど、それを法律化するために政治にはたらきかけるっていうのがワタクシには分からないところ。同性愛や中絶手術に反対なら自分がしなきゃいいだけじゃないって思うんだよね。どうして他人の動向まで気にするんだろ。まぁ、彼らはそれで他人を救ってるつもりなんだろうね。中絶したら地獄に落ちるから、それから救ってやろうってことなんだろうね。

このブログでは何度も書いているけど、日本人の中にはアメリカはリベラルな国だと勘違いしている人が多いけど、実は福音派の人は人口の25~40%と言われています。結構多いよね。地域はバイブルベルトと呼ばれる南西部に偏ってるけど。その全員がこのドキュメンタリーに出てくるほど狂信的な福音派というわけではないんでしょうけどね。

このドキュメンタリーではこのフィッシャーさんのキャンプの様子や子供たちのインタビューの様子などで構成されていて、特にフィッシャーさんに対して鋭い突っ込みを入れるとかそういうのは一切ないんだけど、キリスト教左派の人がやっているラジオでこの福音派がやっていることを批判する様子を映していて、それが暗に製作者側からのメッセージなのかなと思わせる。「政教分離の法則はどうなった?」とかね。最後にフィッシャーさんがそのラジオに電話出演して、パーソナリティが電話を切ったあとに「彼らの主張を聞けば聞くほどイカレてるって思うよ」っていうセリフで終わらせているところもそういう意図なのかなと思われる。

今回の大統領選でオバマ大統領が再選しましたが、その前の共和党の代表者を決めるとき、福音派が推していたリックサントラム元上院議員はロムニー前マサチューセッツ知事に負けました。これは福音派の勢いの陰りなのかな?イラク戦争の長期化でブッシュ離れが起こったとも言われているし、最近では地球温暖化を防ごうという動きに変わってきているらしいので、この作品で語られていることも時代と共に変化しつつあるようです。これからもアメリカ福音派の動きに注目していきたいと思います。