シネマ日記

超映画オタクによるオタク的になり過ぎないシネマ日記。基本的にネタバレありですのでご注意ください。

思秋期

2012-11-07 | シネマ さ行

サンダンス映画祭監督賞他、数々の映画賞に輝いたというのを聞いていっちょ見に行くかと思ったんですが、内心気が滅入りそうな映画だからイヤだなぁとも思いつつ。

実際確かに気の滅入る映画でした。失業中のジョセフピーターミュランは酒浸りで暴力的。自分の犬の腹を蹴って死なせてしまうようなどうしようもない男だ。今日も彼はバーで若い連中とケンカして逃げ込んだ先がハンナオリビアコールマンのチャリティーショップだった。どう見てもお友達にはなりたくないタイプのジョセフに対してハンナは店を追い出そうともせず、事情を聞こうとする。そんなハンナの優しさに却って反発を覚えたジョセフはお金持ちのハンナに俺の気持ちなど分かるかとハンナに悪態をつき傷つけて去っていく。

最悪な出会いだった二人だが、ジョセフはなぜかハンナが気にかかり、その後もハンナの店に顔を出すようになる。裕福な地域に夫ジェームズエディマーサンと暮らしているハンナにも実は他人には言えない秘密があり、その現実から逃げるようにジョセフと親しくなっていく。

このハンナの秘密というのが、夫ジェームズにDVを受けていることなんだけど、そのDVのシーンもとても痛々しいし、ジョセフが近所のガラの悪い男たちとモメている姿もとても痛々しい。こういう映画だろうと想像していたのでまぁ良かったけれど、日本語題が「思秋期」という情緒のある雰囲気なので、もっとハートウォーミングな物語を想像して見に行った方にはもうご愁傷様ですと言うしかない。

ハンナがDVに遭っているというのは観客には早々に分かるんだけど、ジョセフに分かってからもすぐに何かが起こるわけではなく、クライマックスですごく暴力的なことが待っているのだろうとドキドキしながら待っていたら、なんとハンナ自身が夫を殺してしまってた。あ、これが本当の「秘密」だったのか。ジョセフもびっくりしていたけど、ワタクシもすごくびっくりした。まぁ、あの夫はハンナが殺さなければジョセフが殺していただろうし、殺されてもワタクシは特に同情はしないのだけど、それがきっかけでジョセフも近所の子どもを噛んだ犬にキレちゃって犬を撲殺しちゃうんだよね・・・犬が凶暴になったのはバカな近所の飼い主の男のせいだって、ジョセフ自身も言っていたのに、どうして犬を殺しちゃったんだろう?それならいっそ飼い主のほうに殴りかかって行ったほうが良かったんじゃないの?と思った。

結局ねー、まぁこういう地域に生まれ育って、ロクでもない男に育つのが決定づけられたような運命のジョセフにどれだけ感情移入したり、同情したりできるかというのがこの映画の評価の分かれるところかなぁ。こういう男の悲哀みたいなものは分かる気はするんだけど、やっぱちょっと暴力的過ぎるというか、実際にこんなヤツがいたら絶対に自分の人生に入り込んで来てほしくないと思うタイプのヤツだもんなぁ。亡くなった奥さんに対してもね、多分生きてたときは大事にしてなかったんだろうなぁというのが分かりましたしね。こんな男と結婚しちゃったんだから仕方ない部分もあると思うけど。これもハンナに出会ってやっと大切さに気付いたということなのかな。いまではお墓詣りにもまめに行っているということだったし。

ハンナにしても我慢を重ねたあげく夫を殺してしまったけど、そういう勇気を持ったのは(人を殺したことを勇気と呼ぶのは語弊があると思うけど、夫に立ち向かったという意味で)ジョセフに出会ったからだったのかもしれない。寂しい大人二人の再生の物語といったところかな。二人とも特に目覚ましい進歩を遂げるわけではないけど、これからは心静かに生きていってほしいなと思いました。