シネマ日記

超映画オタクによるオタク的になり過ぎないシネマ日記。基本的にネタバレありですのでご注意ください。

トガニ~幼き瞳の告発

2012-08-24 | シネマ た行

聴覚障害者学校の校長始め教師たちが児童を肉体的、性的に何年にもわたり虐待し、それを隠ぺいしようとしたという実話を基にした作品。

大学時代の恩師の紹介で聴覚障害者学校に赴任してきたカンイノコンユは、赴任早々校長の双子の弟で行政室長(チャングワン二役)から口利きの見返りとして大金を要求される。ここですでにちょっとおかしな雰囲気を察していたカンイノだったが、離れて暮らす娘と母に送金をせねばならないこともあり、この職を手放すわけにはいかずその要求に応じる。

ある晩帰宅しようとしたときに女子トイレから悲鳴が聞こえ行ってみるカンイノだったが、悲鳴は消え校務員から「この学校の子は退屈すると叫ぶんですよ。自分たちはうるさいのが分からないから」と言われ半信半疑ながらその日は放置をして帰った。

職員室ではある男子生徒ミンスペクスンファンがパク先生から執拗に暴力を受けていたが、他の教師は見て見ぬふりをしていた。

ある日ユリチョンインソという女子生徒が寮の窓枠に座っていたので、危険だと感じたカンイノが助けに行くとユリは顔に傷があり、怯えきっていたが、カンイノをとある部屋の前へと連れて行く。その中は洗濯室になっていて、寮長のユンジャエがヨンドゥキムヒョンスという女子生徒を回る洗濯機の中に首を無理矢理突っ込ませるという虐待をしていた。カンイノが問い詰めるとしつけのためという寮長だったが、すぐさまカンイノはぐったりしているヨンドゥを入院させ、人権センターのソユジンチョンユニにも付き添ってもらう。病院でソユジンがヨンドゥから筆談で話を聞いたところ、寮長の虐待の他に校長に性的虐待を受けているという衝撃の告白を聞くことになる。

ヨンドゥの告発を基にカンイノとソユジンが調べるとユリもミンスもそして、自殺したミンスの弟も校長や教師パクから性的虐待を受けていると言う。しかも、カンイノたちが調べたところによると、この3人は孤児であったり、両親も知的障害を抱えているなどする非常に弱い立場の児童たちで、校長らはそれを知った上で彼らを選んで虐待を重ねていたと考えられた。他の教師や職員たちも何らかの事情を抱える者が多く、校長らの秘密を知りながら告発できない者をわざわざ集めていたのだった。

校長たちは警察も買収しているので当初彼らの訴えは取り上げらなかったがマスコミを通じてこの事件を明るみにしたことにより、警察も校長らを逮捕しないわけにはいかなくなった。しかし、裁判では相手の弁護士が有力なこともあり苦戦を強いられることになる。

子供たちの告発のシーンがものすごく痛々しくて見ているのが辛い。たとえ、演技で役者としてやっていることとは言ってもまだ幼い子役たちが性的虐待のシーンを演じたり、それを告発するために何をされたかを話すシーンを見るのは非常に辛かった。子役たちのことは詳しく知らないんだけど、フィルモグラフィーを見る限り他にもたくさんの作品に出演しているということは本当の聾唖者というわけではなさそうだが、非常にリアルだったので聾唖者の中から選んだのかとさえ思った。

映画としては内容は衝撃的だし、不謹慎かもしれないけど主人公の男女は美男美女だし、(韓流に詳しくないので知らなかったけど、コンユは本当に男前だねぇ)125分間スクリーンに釘付けになったと言っていいと思う。精神的にエグい作品なので見ているのは辛いのだけど、やっぱり目は離せない。ただ、一連の事件に関しては実際の事件を基にしているということは分かるのだけど、校長らの罪がものすごく軽いもので終わり事実上負けてしまったあと、ミンスが教師パクを刺殺してしまう部分に関しては、おそらくフィクションだよね?もちろん、カンイノの設定とかそういうものは全部フィクションだし、ドキュメンタリー映画じゃないのだからそれはいいんだけど、ミンスがパクを殺すというのはちょっと映画としてショッキングにしたいという意図が見え透いてイヤな感じがした。あの場面も本当だったとしたら、それはそれでいいんだけど、あまりにもいたたまれないな。

事件そのものはどこの国でも起こり得ることであり、日本でも今までにもあったし、おそらく明るみには出ていないが今現在もこれに類似したことは起こり得ると考えられる。韓国ではこの映画をきっかけに障害者への性的暴力の重罰化ができる法律ができたようだが、どこの国でもそもそもこういうことが起こらないようにするための体制づくりというものをしないといけないと感じた。それには閉ざされた空間の中に弱者と強者が揃うとこういう恐ろしいことが起こることがあるという前提が悲しいかな必要なんじゃないかと思う。