シネマ日記

超映画オタクによるオタク的になり過ぎないシネマ日記。基本的にネタバレありですのでご注意ください。

ブラックスワン

2011-05-13 | シネマ は行

もうやたらめったら映画館で予告をやってたので、こんなに見せちゃって大丈夫?と思っていたんです。予告編でいいところを見せすぎると、“予告編で見た良いシーンをたいしたことないシーンでつないだ”みたいな本編を見せられるハメになることがあるので、それがイヤだったんです。それですごく見たい映画のときはわざと予告編を見ないように目をつぶったりすることもあるんですけど、この作品に関してはあまりにもたくさん流されていて、最近テレビでもやりはじめたので、もう結構見ちゃってました。

が、しかし、それでも、十分に面白い作品でしたー。

新しく「白鳥の湖」のプリマに指名されたニナセイヤーズナタリーポートマンがそのプレッシャーの中で物語の中の白鳥と黒鳥のような純真無垢な自分と邪悪な自分に真っ二つに引き裂かれていく様をじっくりと見せつける作品であり、その他にサブストーリー的なものは一切ない。

もともと繊細でもろいところがあるニナが母親バーバラハーシーやバレエ団のディレクター・トマルロイヴァンサンカッセル、新しく入ってきた自由奔放なダンサー・リリーミラクニスの中で翻弄され、年老いてバレエ団を去った元プリマのベスウィノナライダーの影に自分の将来を投影し、怯えながらこの舞台を成功させようと身を粉にして踊り続ける。そして壊れていく。

この作品、R15指定です。確かに、トマが純真すぎるニナを立派な黒鳥に仕上げようと挑発するシーン、女の悦びを知らしめるために自慰行為を薦めそれをニナが実行するシーン、ドラッグに溺れリリーとのセックスを妄想するシーンと、かなりセクシュアルなシーンが多い。「抱きたいカンケイ」の記事ではまるでセックスアピールがないと書いたナタリーポートマンだが、この作品では周囲に翻弄され、自分の中にある「悪」的な意味での性を解放していくニナにはとても合っていた。純粋なニナが邪悪な黒鳥を演じるために一途に自分自身を追い込んでいく中にあるセックスシーンということで物語上も必要以上に性描写があるとは感じない。

性描写とともに多いのが、痛いシーン。ニナの妄想なのか現実なのか観客もよく分からない中で、ニナは体を掻きむしらないように爪を深爪にし、指のささくれをきれいにしようと深くまでめくったり、背中の傷から黒鳥の羽根が出てきたり、とにかく目をそむけたくなるような痛いシーンが結構あるので、こういうのが苦手な人は非常に辛い作品です。

精神のもろさゆえに壊れていくニナを演じるナタリーポートマンが数々の賞を総ナメにした。それにはもちろん、バレエダンサーという難しい役どころを体つきも変えて演じたナタリーのすごさというものがあるのだろうけど、それだけでこの賞を取ったとはまったく思わない演技のうまさだった。彼女はダンサーを演じ、自分でもダンスをしたから賞を取ったのではない。この作品を見るまで、彼女は演技が非常にうまい女優さんだということをしばらく忘れていたような気がする。それは彼女が演技がうまくてそれがもう当たり前として見ていたからだ。それぞれの役のちょっとした違いをきちんと演じ分けてきた彼女が、まさにニナセイヤーズになってスクリーンの中にいた。繊細な役は彼女の十八番と言ってもいいだろうけど、ニナはそれゆえにボロボロになり、それゆえに「邪悪な黒鳥」にもなれてしまう。まさに白鳥が黒鳥に堕ちていくさまを演じたナタリーポートマンが素晴らしかった。

そんなニナとは正反対のイメージのダンサーを演じたのがミラクニス。天性のセクシーさと自由奔放さでニナにはないダンスを披露し、ニナを追い詰めるリリー。リリー自身は明るくフレンドリーな性格なんだけど、ダンサー全員がライバルという中で彼女の存在はどうしてもニナにプレッシャーを与える。受け止め方によって良い子にも悪い子にも見えるというある意味でとても難しい役をまだ新人に近いミラクニスが堂々と演じていて、彼女がいたからこそのナタリーの演技とも思える部分がある。この先大大注目の女優さん。

もう一人忘れてならないのが、第一線を退かなければならない元プリマのベスを演じたウィノナライダー。まるで地を行くようなこの役をよく引き受けたなぁと感心します。彼女の存在によってニナの恐怖が増す部分もあるので、出番は少ないけれどとても重要な役どころでした。

ほんであとは、母親役のバーバラハーシーも怖くてピッタリでしたなぁ。この人なんか普通のたたずまいが怖いし。なんか急に一人で泣きながら絵を描いていたりとか謎な行動のあるお母さんでしたが、彼女がニナのもろさの土台となっていたことは間違いありませんね。

すごくエロくてグロいお話なのに、「白鳥の湖」という美しいバレエの楽曲とダンスに全編が包まれていて、その美しさがまた狂気を増しているような気がします。水の中で必死にもがき、水の上では非常に美しく見える水鳥。それが、ニナの葛藤のシーンとダンスのシーンに表されていました。

非常に怖くてエロくて痛いので、見ている最中体がこわばって見終わってからめちゃくちゃ疲れること請け合いです。

オマケ1ワタクシとしては純真な白鳥より邪悪な黒鳥に魅かれるんですが、みなさんはどうですか?

オマケ2ナタリーポートマンばかりが賞賛されていることに腹を立てたのか、彼女のボディダブルを演じたダンサーが「映画の中で踊っているのは8割は私よ」なんて暴露してましたけど、映画を見てみたら踊っているシーンのほとんどは腰から上しか映っていませんでしたがな。そんなつまらんこと暴露して映画のファンタジーを壊そうとしても、ナタリーが素晴らしかったことには何の変わりもありまへんで。


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