シネマ日記

超映画オタクによるオタク的になり過ぎないシネマ日記。基本的にネタバレありですのでご注意ください。

アレクサンドリア

2011-03-09 | シネマ あ行

紀元4世紀エジプトのアレクサンドリア。女性哲学者のヒュパティアレイチェルワイズは、教壇に立ちたくさんの弟子たちに慕われていた。文学の都と呼ばれたアレクサンドリアにも急速にキリスト教が力を持ち始め、次第に古代の神々を信仰してきた人々と対立を深めることになる。

古代の神々を侮辱されたとして、アレクサンドリア図書館で教え学ぶ科学者や弟子たちが、手に手に剣を取りキリスト教徒を殺害しに町へ繰り出す。しかし彼らはキリスト教徒の返り討ちに遭い、ローマ皇帝からは図書館を明け渡すよう命令を下され、彼らの叡智の詰まった図書館はキリスト教徒によって破壊される。

この作品は、アレクサンドリアでの歴史とヒュパティアの人生を絡めて、非常に劇的に展開する。ワタクシはレイチェルワイズのファンなので、ひいき目に見てしまうところがありますが、ヒュパティアほどの美貌と知性を持っていた女性であれば、あんなふうに慕う男性の2人や3人いてもおかしくはないと思われ、この歴史を元にしたフィクションには全然無理を感じなかった。レイチェルワイズはこういう知性と美貌にあふれた役が本当によく似合う。

ヒュパティアの弟子であり、彼女への恋心を率直に語っていたオレステスオスカーアイザックは、のちにアレクサンドリアの長官に就任し、政治のためにキリスト教に改宗する。便宜上改宗したオレステスをヒュパティアは決して責めはしなかったが、彼女自身は決して改宗することはなく、そのために虐殺されてしまう。自らの信念を貫き通した彼女を救うことができなかったオレステスの気持ちを考えると非常に辛かったな。彼は政治的権力を握る長官でありながら、教会の権力には勝つことはできなかった。ヒュパティアに対して、改宗の説得をしていたとき、「私たちはすでに負けているのよ」と言われてしまう。その言葉で自らの信念を曲げた時点で負けだったということにオレステスは気付いただろうけど、すでにキリスト教の権力は強大になりすぎていた。

オスカーアイザックは最近見た「ロビンフッド」でイヤな役だったので、またイヤな奴の役かよー、と思っていたら純粋にヒュパティアを慕い、お互いに心の支えとなる存在になっていた。

ヒュパティアの家の奴隷であったダオスマックスミンゲラも奴隷の身でありながら秘かにヒュパティアに恋心を抱いていたが、普段から優しく接してくれていたヒュパティアもキリスト教徒との戦いの混乱の中でやはり自分のことを“奴隷”としか見ていなかったことに気付き、キリスト教に救いを求めて彼女の元を去る。しかし、キリスト教にも本当に救いは見出せず、修道兵士たちが異教徒を次々に殺していく姿に疑問を抱き始めたダオスは、ヒュパティアがキリスト教徒たちに虐殺されると知って、彼女を救いに走る。結局は間に合わなかったが、ヒュパティアが無残な拷問を受けて殺される前に自らの手で彼女を楽にしてあげる。おそらくあの瞬間ヒュパティアはすべてを悟り、ダオスに感謝したことだろうと思われる。ダオスの複雑な愛の感情がほとばしるシーンだった。

このマックスミンゲラという人は映画監督だった故・アンソニーミンゲラの息子さんらしい。写真で見比べると確かに似ているなぁ。お父さんはだいたいがツルツル頭だったから分かりにくいけど。このマックスミンゲラは、見てる間中小嶋よしおに見えて仕方なかったんだよなー。あと、もう一人の弟子を演じたルパートエヴァンスは若いときのブラピに似てたな。彼もヒュパティアやオレステスを救おうとはするけど、キリスト教に改宗させて救うという発想しか持てず、結果的に彼らを裏切ることになってしまうという難しい役を演じていたけど、ブラピに似てるというのが気になって彼の演技に集中できなかった。

ヒュパティアが発見したはずだった宇宙の法則もキリスト教によって葬り去られ、この歴史はこの先も繰り返される。宗教に争いはつきものだが、キリスト教ほどその手を血で汚しながら広がっていった宗教は他にないかもしれない。まぁ、この世に「宗教」という概念が存在しなかったとしても人間というものは、何か争いの種を見つけて争いを繰り返していくものなのかもしれないと、なんだか厭世的な気分になってしまう映画だった。

それでも、アレハンドロアメナーバル監督の丁寧なストーリーテリングや、登場人物の繊細な心の機微を表現する演出は非常にワタクシ好みの作品でした。

オマケ実際にはヒュパティアはカキの貝殻で生きたまま骨から肉を削られて虐殺されたという記述がウィキに載っていた。うえーーーっっっ。辛すぎる。アメナーバル監督はせめてフィクションの中だけでは、彼女を救ってあげたかったのかもしれないな。



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