シネマ日記

超映画オタクによるオタク的になり過ぎないシネマ日記。基本的にネタバレありですのでご注意ください。

ヒバクシャ~世界の終わりに

2011-01-18 | シネマ は行
ワタクシは「被爆者」と聞けば、当然のように広島・長崎の原爆被害者を思い浮かべる。このドキュメンタリーも広島・長崎の話なのだろうと思って見始めた。

すると、鎌仲ひとみ監督はイラクにいる。イラクの病院。多くの子供たちが入院している。イラクでは米軍が使用した劣化ウラン弾の影響でガンや白血病で亡くなる子どもが急増。14歳の少女ラシャは「私を忘れないで」というメモを鎌仲監督に残して死んで行ってしまう。アメリカは当然「劣化ウランとそれらの病気の関連性には科学的根拠がない」としている。「科学的根拠がない」どこの政府もお得意のセリフのようだ。

監督は広島で被爆した85才の医師、肥田舜太郎氏に会い、被爆者の抱える様々な病気についてのお話を聞く。先日見た「二重被爆」というドキュメンタリー映画の中で、その二重被爆者の証言VTRを見たフランス人の女性が「彼らは被爆しているのに随分長生きなのね。そこに矛盾を感じるわ」と言っていた。確かに被爆者の中には高齢まで生き続けている方も多い。フランス人の女性がこのようなセリフを言ったということは、彼らが抱える病気に関してきちんと説明がされなかったされなかったのだろう。被爆して何の健康被害もなく高齢まで元気に過ごしている方などいないのではないだろうか。でも、とにかく彼らの病状は一定ではなく、若い者・次世代に被害が出るため、長生きしているからといって、原爆の被害が出ていないというのではまったくない。しかし、肥田舜太郎先生がおっしゃるようにどの病気の原因が被爆であると限定できないために、国などは補償から逃れやすいのだろう。

その後、肥田舜太郎先生と監督はアメリカのワシントン州にあるハンフォード核施設の周辺に住むトムベイリー氏に会いに行く。ハンフォード核施設では、広島・長崎に落とされた原爆も製造され、現在では米国最大級の核廃棄物問題の場所となっている。ハンフォード核施設の周辺に住む住民たちは、長年健康被害に悩まされ、ガンや白血病による死者も多く、流産も多く、この土地を去る者もあるが、トムベイリーのように政府に対して被爆の被害を訴えている住民は少ないようだ。アメリカという国で政府に対してそのような発言をすることは「非国民」というレッテルを貼られる原因となる。日本人も政府に対してアクションをすることがヨーロッパに比べて少ない国民性を持っていると思うが、アメリカでは少し原因が違うようだ。「愛国者」とされることが誇り高いと考えられる国で政府を相手に被害を訴え出るというのは困難なことらしい。

しかし、このハンフォード核施設の話を聞いていると、まったくもっておっとろしい話がバンバン飛び出してくる。こんなことを聞かされて、それでもトムのことを「非国民」と言えるメンタリティは一体どこから来るのかと不思議に思ってしまう。人間は信じたくないことをなかなか信じようとはしない生き物なのか、信じたくないことにフタをして生きていく者なのか。

もちろん、このハンフォード核施設の話というのはアメリカのことだけではない。日本でも周辺国から流れてくる放射能の影響など、肥田先生が個人的に調べているグラフに現れているのだが、これが「科学的根拠」として取り上げられることはまずないだろう。「因果関係」というものはものすごくトリッキーなものだけに、自分の側に都合の良いようにいくらでも解釈されるからだ。

このドキュメンタリーを見たあと、ワタクシの中の「被爆者」の定義というものが、大きく変化した。恥ずかしながら知らないことがたくさんある。これからもこのことについて調べていきたいと思った。