シネマ日記

超映画オタクによるオタク的になり過ぎないシネマ日記。基本的にネタバレありですのでご注意ください。

戦場のメリークリスマス

2007-09-20 | シネマ さ行
「戦場のメリークリスマス」と言えば、やっぱりあの音楽ですよね。あの曲は知っていても映画は見たことないって人も多いんじゃないかな。あの曲だけを聴くととても美しく印象に残るメロディーなんですが、映画を見ながらあの曲を聴いていると、もちろん美しさは色あせず、そこになんとも言えない謎めいた狂気を感じます。

第二次世界大戦下のジャワ、日本軍捕虜収容所が舞台。そこにいる捕虜たちと日本軍の軍人たちの様子が描かれる。映画としてはちょっと分かりにくい部分も多いのだが、極限の状態にある人間たちの狂気とヒューマニティといったところか。そして、大島渚監督なわけだから、そこにはもちろん男色系の性愛も見え隠れする。

英国人捕虜で、日本語が話せるローレンストムコンティのセリフが印象的だった。「個人で何もできない日本人は、集団になって発狂した」このセリフは原作にもあるものなのだろうか?ワタクシはこの映画の原作の存在を知らなかったので、映画を見たときは、これはまさにのちの日本人が自分たちのことを言ったセリフだろうと思い、大島監督がローレンスを通して言わせたセリフだと思った。でも、調べて見ると原作はローレンスヴァンデルポストというイギリス人が書いたものだった。もし、このセリフが原作にもあるものだったとしたら、彼が日本人をこのように理解していたことに驚きを感じる。

坂本龍一が演じるヨノイ大尉がセリアズ少佐デビッドボウイに肩入れし、反発し、最後に敬意を表するという理屈では説明できない行動は性愛的なもので片付けてしまっていいのかどうかワタクシには分からない。もっと、深く理解しなければならないのかもしれないけど、ヨノイ大尉の狂気が何から湧いてくるものなのかはっきりと理解することはできなかった。

日本の軍国主義に陶酔し、上官の命令を絶対としながらも、時折人間的な面を見せるハラという複雑な役を北野武が演じている。彼の演技を初めて見たのは「その男、凶暴につき」だったと思うが、「なんてヒドい演技だろう」と思って、その後も別にうまくはなっていないけど、現在はもう彼の存在感だけでヘタウマなんてのも越えるものになっていると思っていた。それが、映画初主演のこの作品ではどうだろう。いままで見た中で一番うまいんじゃないかと思える演技をしている。「うまい」という言い方はちょっと違うのかもしれない。それだけ、この役にピッタリだっということなのかな。この映画の名シーンとしてあまりにも有名だが、彼の最後のドアップでの「メリークリスマスミスターローレンス」というセリフと表情に、わけの分からないところがあった話なのに、なぜか泣かされてしまう。戦争という狂気の中の捕虜収容所というもっと小さな世界の閉ざされた狂気に迷い込んだ一人の男が国の言うとおりにした自分がなぜ死刑に処されるのか、理解できないまま明日処刑される。その最後に見せる「友」と思える相手への思いの託されたラストシーン。そこに胸打たれるのだと思う。