シネマ日記

超映画オタクによるオタク的になり過ぎないシネマ日記。基本的にネタバレありですのでご注意ください。

恋におちたシェイクスピア

2006-10-05 | シネマ か行
シェイクスピアの作品の映画化というのはそれこそ数え切れないほどあるものですが、シェイクスピアという人自体を主人公にした映画というのはかなり少ないと思う。この作品は別に実話でもなんでもないのだけど、シェイクスピア以外にも実在した人物を登場させ、時代背景ともシェイクスピアの作品ともうまく絡ませて作ったアカデミー賞の作品賞、脚本賞、主演女優賞、助演女優賞、作曲賞、美術賞、衣装デザイン賞の7部門にふさわしい作品。

この7部門の中でも、衣装デザイン賞、美術賞の2部門に関しては本当に「なるほど」と感じる。舞台上での衣装、彼らの生活の中での衣装、セット、どれを取ってみても素晴らしい。「時代考証」なんて偉そうな言葉を使ってもワタクシは実際にシェイクスピアの時代にどんな服を着ていたかなんて知らないけど、そんなことよりもひとつひとつのセットや衣装のリアルさや美しさに目を奪われる。

そして、7部門のうちでもっとも「そりゃそうさ」と納得なのが、脚本賞である。上にも“シェイクスピア以外にも実在した人物を登場させ、時代背景ともシェイクスピアの作品ともうまく絡ませて作った”と書いたけど、この脚本が本当に素晴らしい出来ばえなのだ。

それは、シェイクスピアジョセフファインズとヴァイオラグィネスパルトローとの恋愛物語が素晴らしいとかそういうことではなく、当時男性しか舞台に立てなかったという文化的な背景、「ロミオとジュリエット」、「十二夜」、ライバル作家クリストファーマーロールパートエヴェレット、エリザベス女王ジュディディンチというたくさんのスパイスをすべて加えて絶妙の味に仕上げている。となると、残念ながらシェイクスピアのことをまったく知らない人はちょっと楽しむ部分が少ない、これって何が面白いの?ってことになりかねないのだけど…

まず、男性しか舞台に立てなかったことから役者志望のお嬢様ヴァイオラが男装してオーディションを受けるという設定が生まれるということは最低限分かっておかないとワケが分からんということになる。

そして、舞台独特の言葉として使われる言葉が本来使うべき場面ではないところでセリフの中に出てくる。
シェイクスピアが追いかけられていると役者が「がんばれ」の代わりに「Brake a leg.」
劇場主のヘンズローが「Show must....」と言いよどんでいるところにすかさず、「言いたいことを続けろよ」という意味でシェイクスピアが「Go on !」
舞台に出る人に「グッドラック」のために言う「Brake a leg.」と舞台上では何が起こっても続けなければならないという意味の「Show must go on.」を非常にうまくセリフに取り入れていておしゃれなのだ。

シェイクスピア自身とヴァイオラの恋物語が進行していく中で、「ロミオとジュリエット」の有名なシーンが次々にこの二人によって生み出されていくところも「ロミオとジュリエット」を知らない人には特にプラスアルファな面白味はないってことになってしまうのだけど、知っているともの凄くワクワクするのだ。そして、この二人の別れのシーンからシェイクスピアの次回作「十二夜」に通じるところは、これも「十二夜」を知らないとたいした印象はないのだけど、“ヴァイオラ”という名前、彼女の男装、ヴァイオラが言う“オーシーノ”という主人公の名前、シェイクスピアが思いつく物語の構想、すべてが「十二夜」につながっていて、この脚本の展開には天才的と舌を巻く。

主演、助演両方の女優賞をとっているだけあって、グィネスのイギリス英語は完璧。エリザベス女王が本当にあんなにウィットに富んだ人だったのかどうかは分からないが、ジュディディンチの女王には威厳とチャーミングさが絶妙の分量で掛け合わされて、彼女の女優としての懐の限りない深さを思わせた。

少しシェイクスピアについて予習をしてから見られるとより一層楽しめるでしょう。

オマケ1ヘレンボナムカーター主演の「十二夜」もいい作品なのでいつか取り上げますね。

オマケ2コリンファースが最近ではめずらしくイジワルな役で登場します。ここでは、本当にイヤな奴に思えるんだから、ほんとにウマイんですよね。そして、以外なことにベンアフレックも一座の座長で登場します。なかなかいい味出してますよ。