灰色の虹 |
とてつもないぐらいに重い、そして考えさせられる作品です。
平凡な日々を送っていた男性が殺人事件の容疑者となり、そして無実のままに有罪判決を受けます。
これは作者が登場人物に語らせたように典型的な冤罪なのですが、しかしそこに明確な悪意は存在しません。
刑事、検察官、裁判官、目撃者が自らの信ずる、自らの信念に基づいた行動によって一人の人間の人生が崩壊する、その不幸の連鎖に背筋が凍ります。
そういった立場となった人間にできることは何なのか、声にならない叫びが聞こえてくるかのようです。
ミステリー、という点では、さして秀でたところはありません。
おそらくは意図的なのでしょうが分かりやすい撒き餌がありますし、謎解きという楽しみはあまり無いです。
それよりも各々がなぜそういった行動を取ったのか、その描写に重きが置かれています。
しかし登場人物を際立たせている一連のエピソードがその死とともに最後まで語られないままに幕を降ろす中途半端さが印象的で、思いもよらぬ、本人からすれば天災でしかない突然の退場が人生に何をもたらすのか、それをそういった形で語りたかったのでしょう。
エピローグもあまりに息苦しく、物悲しく、誰が悪いわけでもない、しかし誰もが救われない虹の彼方には何も見えてきません。
2015年1月27日 読破 ★★★★☆(4点)