在る１日

仕事で久しぶりに電車に乗って名古屋に出ました。
この日はあいにくの雨でした。
車窓から外の景色を眺めていると、雨のうえに霧まで出ていて、ほとんど家並みが見えないくらい。
かなり霧は濃く深かった。
それを眺めているうちに、ふと（人間って自分の半径何十メートルくらいしか視界が開けていない、って世界に生きていたらどういう行動をとるだろうなぁ。）と思いました。



ひたすら前に進もうとする人もいるかもしれない。
前進すればどこかで霧は晴れているところへ出るだろう、と。
仲間を求めて移動しようとする人もいるかもしれない。
例えばそんな人は、今、ここでこの電車がとまっちゃったようなとき、あぁ、電車のなかでよかったなぁ、大勢で一緒だから安心だ、って思うんだろうなぁ。
でも、私は逆だなぁ。
もうこんな中でずっと過ごしたら、ひたすら意識が閉じていくっていうか、内側へ内側へと向かい、食糧と寝る場所さえ確保されていたら、もう放っておいて、私を１人にここへ置いておいて、っていう方だろうなぁ、なんて思う。
見知らぬある程度の人数と一緒にこういう霧の中に置き去りになったりしたら、けっ、うっとおしいなぁ、いろんなこと考えてる人がいるんだろうなぁってそれをわずらわしく思っちゃうだろうなぁ。
そういえば、スティーブン・キング原作の映画「ＭＩＳＴ」でも霧は効果的に使われていたっけなぁ。
あ、「ＭＩＳＴ」に限らず、ホラー映画とかサスペンス映画には霧は多用されるなぁ、やっぱり霧は不安をあおるんだろうか、不安の象徴なんだろうか・・なんてことを考えていたら名古屋に着きました。



仕事のある栄のスタジオへ向かう。（ちなみに仕事とはラジオＣＭの録音立ち合いでした。）
おかしいな、駅から１０分もかからないはずなのに、栄に２０分前に着いているのにふと時計をみるともうとっくにスタジオ入りしていなくてはいけない時間じゃないの！
まだ着かない、ってどういうこと？　・・・と思っていると電話がかかってきました。
「ひょっとしてまた迷ってるのか？」
「・・・かもしれません。」
「周りにある建物、なんか言ってみ。」
「えーと、○○。」
「あ、それ行き過ぎ。かなり通り越しちゃってるわ。」
「はーい、戻ります。」



いったいここに何回来てるんだろうか。
それなのに１回もまともに着けたためしがない。
それほどややこしい立地だ、というわけでもない。
なのに、確実に毎回間違える。
確かに方向音痴だし、トロイところはあるが、そこまで馬鹿でもないだろう、と自覚している。
なのにこのザマはなんだ。
戻ってみて、そうそう、ここ、ここ、と思いビルに入って行く。
どうしてこの看板を見落とすのかわからない。
何か思い込みか思考をブロックされているものでもあるんだろうか。
仕事場に入る。
謝るどころか、
「もー、ここに私は縁がないとしか思えません。これだけ何回も通ってもこうなんだから。ビルごと神隠しにあっているようなものですもん。」
などとのたまい、遅刻をケムに巻く。



仕事はいつものように何の問題もなく、よどみなくすんなりと終わり、帰りに名駅の東急ハンズにちょいと寄り、またまたアロマオイルを少々仕込み、ノートを買って帰る。
名鉄電車ではやたらアナウンスが入る。
どうやら午前中に岡崎で人身事故があったとかで、
「そのため電車が遅れて申し訳ありませんでした。」というアナウンス。
名古屋～岐阜間だけでいったいこれを何回アナウンスするんだろう。
あんまり言われると、名鉄側が「うん、うちが遅れたのはうちのせいじゃなくて、人身事故をおかした人のせいだからね。」とエクスキューズを言いたいのだ、というように聞こえる。
そりゃあ１区間しか乗らない人のために１区間ごとにアナウンスしているのかもしれないが、いいかげんにしろ、と言いたい。
エクスキューズも過ぎると逆に反発に聞こえるのだ、ということを知る。



岐阜に降り立ったときが、１２時を少し回った頃でした。
お、そうそう。
以前に食べておいしいと思ったラーメン食べて帰ろう、っとと思い、のれんをくぐる。
さすがに昼時なので混んでいる。
カウンターに１つだけ私のために残されたような席がある。
「お１人様ですか？　そちらへどうぞ。」と言われる。
廻りを見まわしてみると、見事に野郎ばかり。
女性はわたし１人だけ。
そんなことなぞ知ったことか。
もう少し若い頃ならそういうことをちょっと恥じらいをもって受け容れたりしたが、もう今では何とも思わない。
ちょっとそっち寄れよ、と隣の野郎をじろりと睨む。



ただ、ラーメン屋さんて基本的にバッグとか持ち物を置くようなところがありませんから、それだけは不便ですね。
私は自分のバッグと買い物袋を抱え込んでラーメンをすする。
ここのラーメンは、野菜をどっさりポタージュにしたスープなので一見濃厚な感じでどろりとしているけれど、味は濃くなくて、後味はすっきりしている。
通称ベジポタ系ってやつね。
けど・・
前に食べたときはもっと衝撃的においしい！って思ったんだけどなぁ。
やっぱり最初の感動って美化して自分のなかに焼き付けちゃうのかなぁ。
ま、それでもすごくおいしいんだけれどね。
だいたい私は映画にしても本にしてもすごくいい、と思ったものを２度目観たり、読んだりするとあれ？それほどでも・・って思うことが多いもんなぁ、なんて考えながらもくもくと口に運ぶ。
なんと、先に出てきた隣の男より早く食べ終わり、さっさと店を後にする。
男らしいわ～　私って。
女性グループのように手が遅かったり、話しこんで混んでいるのにちっとも席をあけようとしないなんて人とは違いますのよ、てな感じでさっそうと後にする。
ラーメンやそばなんてもんはよ、ちゃちゃっとすすってすっと出んだよ、てな感じで。




はぁ～　ひと仕事片づけて、ランチ食べてまだお昼少し過ぎなんて、良い日よのぉ、なんて家路につくためバスに乗ると、このバスの運転手さんのアナウンスが何を言っているのかさっぱりわからない。
「はい～、発車っしゃしゃしゃしゃ・・」と、やたら「しゃあしゃあ」言っているだけに聞こえる。
「次は～　○○（聞き取れない。）でしゃしゃしゃ・・」
だんだんおかしくなってきた。
名鉄電車の車内アナウンスではちょっとムッとしかけたけれど、ここではもう笑うしかない、って感じ。
そうこうするうちに家に着きました。
あ～、ちょっと出かけるだけでいろんな思考を使うことよのぉ、と、あとはひたすらこたつにこもって本を読んで過ごしたのでした。
たまにはいいよね、こんな日も。






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