1週間ほど前になりますが、TVの「とくダネ!」という番組で、女優の菊川怜ちゃんが、アフリカのチャドにレポートに行ったルポルタージュ報告のコーナーがありました。
チャド共和国という国は、日本にとってはあまりなじみのない国かもしれませんが、スーダン、中央アフリカ、カメルーン、ナイジェリア、ニジェール、リビアと国境を接する内陸国です。
南部には肥沃な低地が広がりますが、中央部は乾燥したステップ気候で、北部の大半は砂漠です。
首都のンジェメナは、その砂漠化してしまった北部とまだ肥沃な土地が残る南部のちょうど境目くらいに位置しています。
しかし、実際に菊川怜がリポートに行ってみると、その首都でさえ、深刻な砂漠化がどんどん進んでいました。
日本大使館もないので、日本人が訪れることもほとんどありません。
だから、この国の生の情報を伝える人もいなかった、ということですね。
その砂漠化は恐ろしいほどでした。
なにせ、普通に歩いている足元の下に家が砂嵐によって埋もれてしまっている、というのですから!
私は世界のあちこちで砂漠化が進んでいるとは耳にしたことがありますが、それは人が住めるような場所ではない熱帯雨林から始まっているのだとばかり思っていました。
こんな国の首都がある場所でこんなにも刻々と砂漠化が進行しているのを見るとその恐ろしさが伝わってきました。
なにせチャドという国は国境に位置しているチャド湖の恵みだけで成り立っているような国ですから、そのチャド湖が干ばつで干上がって極端に水位が低下してしまうと大きな船が運航できなくなり、小さな船を使って何回にもわたって物資を輸送するしかなくなるので、そのコスト高がさらに国民の生活を脅かします。
国民の多くは貧困にあえいでいますが、穀物そのものは穀物商のところにはあるのです。
お金さえ出せば・・
1960年にフランスから独立して以来、内戦が続いてただでさえ国力が疲弊しているのに、この干ばつによる砂漠化でさらに国情は悪化しているようです。
さて、私が今日書きたいのは、チャドの内情のことではなくて、そういう自分の暮らしぶりからは想像もつかないようなところへ行って、レポートをしている菊川怜ちゃんについて、です。
彼女自身が言っていましたが、「開き直って言っているつもりではないが、私はこの国の何をレポートしたかったんだろう? これまで仕事は与えられるものだと思ってきてすべてお膳立てされていたところに自分が行けばよかったから、自分で考えたことがない・・」と、彼女は初めての体験にかなり戸惑い、まいっていたようでした。
こんなシーンがありました。
村の副村長さんにその村の暮らしぶりを案内してもらっていたときです。
気温50℃。
なんとかその日のスケジュールは終わったようです。
粗末なテントが張られた場所で、村の人がお茶(? らしきもの)を菊川怜ちゃんに出してくれました。
無表情のまま、そのお茶に手をつける彼女。
そして副村長さんは、突然「我々を助けてもらいたい。」と菊川怜に申し出ました。
彼女は戸惑います。
「え~、私にそんなこと言ってもらっても・・ 私には何もできないし・・」
まぁ、それが本音かもしれませんが、小学生や中学生じゃないんだし、私はせめて彼女には、
「はい、私に出来ることは小さなことかもしれませんが、せめてあまり知られていなかったこの国の実情を懸命にレポートさせてもらうことによって、日本に帰ったらオンエアし、広く実態を訴えることをさせてもらいたいと思います。」ぐらいは言ってほしかったな、と思いながら聞いていました。
すると、そこへ、コーディネイターの女性が(たぶん、ただの通訳さんではこんなふうに彼女に言うことはなかっただろうから、そう思うんですが。)、
「こうして貴重な水を使った飲み物を振舞ってくれたことに対して、どう思いますか?」と菊川怜ちゃんに尋ねました。
するとそこでようやく彼女はそのことにハタと気付いたようでした。
「あぁ・・」と言って考え込み、画面には映らなかったですが、それから彼女は自身の無力さを思ってか、泣き出したそうです。
でも、その飲み物に対する感謝の言葉は最後まで、なかった。
この様子を見ていて私は、“気付けない”ことに“気づいて”あげることの大切さを思いました。
私たちは彼女が東大出の女優さんであることを知っています。
だから、頭がいい人というのは、人並み以上に気付ける力もあるはずだ、なんてふうに思ってしまいがちです。
ついこんなことぐらいもう彼女は気付いてるんだろう?と思ってしまうわけです。
気付いているくせに言葉が出ないんだな、とか気付いているくせになんとも思わないんだな、というように。
でもそれは勝手な先回りにすぎませんでした。
彼女は本当にこのとき、そのお茶の貴重さに気付けなかったのでしょう。
それは50℃という想像を絶する気温のせいだったかもしれません。
それともチャドという国を実際に目の当たりにした衝撃からだったかもしれません。
それとも特に理由なんてなく、本当にただ気付けなかっただけかもしれません。
どうしてか、なんてことはどうだっていいんです。
ただ、彼女が気付けなかった、という事実だけを認めれば。
けれど、そういうことに対して、つい私たちは気を回しすぎてかえって声がかけられなくなる、ということがあります。
(彼女ほどの人が気付いていないわけがない。そこには何かしらの意図があるに違いないから、黙っていよう・・)
でもそれはさっきも言いましたが、勝手な先回りの予測を立てているに過ぎないんですよね。
そして、(どうして気付いているに違いない彼女が?)と思っているとだんだんそこにイラ立ちを感じ始め、ついには、
「ねぇ、どうして貴重な飲み物を振舞ってくれていることに対して、何にも言わないわけぇ?」とイヤらしい糾弾するような言い回しを突きつけてしまったりします。
そんなことになる前に、素直に、このときのコーディネイターの女性のように、
「貴重な飲み物を振舞ってくれたことに対して、どう思いますか?」とストレートに、素直に聞けばいいだけのことなんですよね。
誰にだって、当たり前のことに気付けないときだってある。
100人のうち99人までが気付くようなことに、自分が気付けないときだってあるだろう。
だから、気付けない人を糾弾するようなことはやめて、気付けていないんだ、ということをわかってあげよう。
そしてそこに変に気を回すようなこともやめよう。
(あんなに頭のいい彼女が気付けないはずがない。)なんて勝手な予測を立てて、それが思いやりやら好意から来ているだけにタチが悪い、という事態になることは避けよう。
コミュニケーションにおけるちょっとしたボタンの掛け違いは、後々大きな人間関係の亀裂につながることもある。
色めがねで見ないで、ストレートに素直に「どう思いますか?」「何を感じますか?」って聞いてみればいいんだ。
そうすれば何も思わない、何も感じない、という人はいないはずだから。
菊川怜さんのレポートでこんなことを思いました。
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