団塊的“It's me”

喜寿老(きじゅろう77歳)の道草随筆 月・水・金の週と火・木の週交互に投稿。土日祭日休み

カヤバ工業と面倒な検査後のやり直し

2018年10月19日 | Weblog

  もう何十年も前のことである。カナダのプラスチック部品成型会社でのことだった。注文先の会社から大量に不良品として返品されてきた。その工場の従業員は歓声をあげて喜んだ。なぜならこのことによって製造工程が止まるからだった。しばらくの間不良品の手直しに全員で取り組むからだ。製造より手直しの方が楽だった。カナダのその工場も労使の別がはっきりしていた。経営陣と労働者の間には、常に賃金や労働時間や諸条件での闘争があった。製品の誇りとか、自分の仕事への愛着とかとは無縁であった。

 今回、旧カヤバ工業(現KYBだが何でも英文字を使うのは嫌いなので、あえて旧社名で書く)が製造して納品設置した免振、耐震装置であるダンパーは、性能検査で適正なデータが出なかった際に、検査員がデータに不正な係数を加えて適切な数値になるように操作していたことが発覚した。製品を分解して調整し、組み立て直して再検査するなどの手順が必要になり、一連の作業は「平均5時間前後かかる」ため、納期に間に合わせようとして不正を行ったとみられている。

 テレビのニュースでカヤバ工業の社員が5時間の作業やり直しを面倒くさがって検査数値を操作したと知って、カナダの会社での出来事を思い出した。日本人はモノづくりに誇りを持つと信じていた。私の父も職人だった。父が職人であることで高校の同級会でバカにされたことがある。多くの日本人の頭の中は未だに江戸時代にとどまり“士農工商”の階級がこびりついている。ちなみに私をバカにした者の家は商家だった。職人だった父親の口癖は、「職人は段取りだ」と「自分が納得しない物は客に渡さない」そして「損して得取れ」だった。その頑固さで損を繰り返す父は、父の頑固さにあきれ果てた母親とよく喧嘩になった。少しの客ではあったが、父の職人気質を認めてくれた客もいた。

 カヤバ工業には、もう職人気質の労働者はいないのだろうか。ましてや免振、耐震装置は、命に係わる製品である。日本のような地震の多い国では、これらの装置がますます多く設置されるに違いない。カヤバ工業は、5時間のやり直しを面倒くさがって、長年にわたって築いてきた会社の信頼と評判を失った。不正検査で出荷設置した装置は、現時点で1000件を超している。すべての装置のダンバーを交換できるのは、2021年になるという。これから3年以上かかる。5時間を惜しんで3,4年を苦しむ。会社の存亡に関わる。

 カヤバ工業だけではない。他にも東洋ゴム、スバル、スズキ、日産などの大企業が検査で不正を犯した。日本企業だけでなく、ドイツのフォルクスワーゲンやアウディでも同じことが起こった。

 カナダのプラスチック部品製造会社と同じように労使の間に連携も相互理解もなく水と油のように分離してしまったのだろうか。日本の物づくりが危うい。今、大量生産、利益最優先の大企業より、昔ながらの職人気質の三鷹光学のような小さな日本の会社の製品が、世界の見る目がある会社や人々に支持称賛されている。テレビドラマ『下町ロケット』の気質が日本を復活させると私は思い、また願う。

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