団塊的“It's me”

喜寿老(きじゅろう77歳)の道草随筆 月・水・金の週と火・木の週交互に投稿。土日祭日休み

慰安婦像

2013年08月22日 | Weblog

 アメリカのニューヨーク マンハッタン島に大西洋に向かって松明を高く掲げた自由の女神像があった。10代後半だった私は台座に彫られていた詩を読んで震えるほど感動した。

『汝の疲れたる貧しき

自由の空気を吸わんものと

身をよせあう人々を、

汝の豊かな海辺に集まる

うちひしがれた人々を、

我に与えよ。

かかる家なき嵐に弄(もてあそ)ばれたる人々を、

我に送り届けよ。

我は黄金の門戸のかたわらに

ともしびを高くかかげん。』

エマ=ラザルス 1881年

 この詩を私のブログの最初に掲げたのは、アメリカへ移民し建国を命がけで果たした人々に想いを寄せるからである。アメリカに移民した人々は、国を何らかの理由で捨て、新天地でのやり直しを求めた。貧困、宗教弾圧、思想闘争、犯罪、差別、戦争難民理由はそれぞれであったが、アメリカに移民した目的はひとつであった。過去の束縛から逃れて自由を求めたのである。

 アメリカ建国の礎を宣言する自由の女神が大西洋に向かっているのが腑に落ちない。太平洋側からアメリカに到着した移民の人々、特に韓国からの移民に、このエマ・ラザルスの詩は適用されないのだろうか。アメリカはアフリカからの黒人奴隷を南北戦争を経て解放したのち、深刻な労働力不足におちいった。アジア特にインドや中国から苦力(クーリー)を輸入して、低賃金で過酷な労働を強いて鉄道や道路の工事に当たらせた。呼び方は奴隷ではなかったが、扱いは奴隷の代わりの奴隷と同等であった。現在封切り中のジョニー・ディップ主演の映画『ローンレンジャー』にも鉄道建設で働く大勢の中国人苦力が登場する。私は多くの日本からの出稼ぎや移民が鉄道工事に従事した日系人の話を直接聞いた。太平洋からアメリカに渡った人々も大西洋から渡った人々にもアメリカに渡った理由は皆同じであったはずである。

 第2次世界大戦が始まるとアメリカ市民権を持つ日系移民から財産土地仕事すべてを取り上げられて強制収容所に収容した。この時点で日系移民は日本帰国組とアメリカ残留組とに分けられた。帰国組はかつて日本を捨て、またアメリカを捨て日本へ戻った。アメリカ残留組は強制収容所に収容されながらも日系部隊を編成して戦争にアメリカ人として参戦した。

 アメリカで市民権をとると宣誓をする。「I pledge allegiance to the Flag of the United States of America, and to the Republic for which it stands, one Nation under God, indivisible, with liberty and justice for all.」
(私はアメリカ合衆国国旗と、それが象徴する、万民のための自由と正義を備えた、神の下の分割すべからざる一国家である共和国に、忠誠を誓います) 移民は自分の国を捨て、万民のための自由と正義を備えた、神の下の分割すべからざる国アメリカに誓わなければ、アメリカの市民権は与えられない。これは儀式であり理想であり机上のきれいごとと言われるかもしれない。アメリカの存在理由のすべてはここに集約されているのも事実である。残念なことだが、新天地へ自由と正義を求めて移民できる国は、現在の地球上にアメリカ以外にない。ロシアや中国にアメリカの代替を到底期待できない。理想と現実が噛み合っていなくても進む方向は定まっている。

  第2次世界大戦中、敵であるドイツ、イタリア、日本に対して日系人だけを強制収容所に追い込んだ。日本にだけ2種類の原子爆弾を実験するかのように広島と長崎に投下した。人種差別であったことは歴然である。戦争責任は日本にある。敗戦国日本に弁解は許されない。それを承知で押し黙って日本の再興を日本人は果たそうとしてきた。終戦後アメリカでも収容所から開放された日系アメリカ人は最初からやり直してアメリカ社会に溶け込む努力を重ねた。日系アメリカ人がワシントンDCの大統領官邸や国会議事堂の前に強制収容所での怨みをこめた銅像や碑を建立した話は聞かない。

  韓国からの移民団体がアメリカの数都市に慰安婦像を建立した。これからも増やそうとしている。これはアメリカの建国意義と市民としての忠誠に抗う行動である。韓国のどこに慰安婦像を建てても構わない。韓国国民がどれほど日本を日本人を怨み憎んでも構わない。しかし移民の国アメリカに怨念を持ち込むのは御門違いである。そもそも韓国からアメリカへの移民が増加したのは、第2次世界大戦、朝鮮戦争、ベトナム戦争以後である。ベトナム戦争に参戦した韓国軍兵士に特別な移民枠を設けられたのである。以後急速に韓国からの移民が増加した。すでに日系移民の人口を追い抜いた。アメリカで市民権を取ると2親等までの親族をアメリカへ呼び寄せることができる。韓国からの移民は、過去の移民と趣きが異なるようだ。すでに建国、開墾、インフラ整備、戦争と先人たちが築き上げたアメリカに韓国をそのまま持ち込んでいるとしか思えない。自分の生まれ過ごしてきた国はキレイさっぱり捨てて、新天地でアメリカという人類の夢の希望の地で、捨てた国では実現不可能であった自分の夢と希望を叶えようとする人々が参集する国が本来のアメリカである。

  これからいくつの慰安婦像がアメリカに建立されるのかはしらない。アメリカにこの先長く残される慰安婦像が、後世に於いてアメリカの建国と国家への忠誠という気品と勇気を損なう象徴となるやも知れない。日系アメリカ人が強制収容所に入れられた歴史的事実は忘れられても、なお慰安婦像は残る可能性はある。アメリカの存在価値は、世界中の己の国を捨ててまで自由と勇気を求めて移り住む人々を受け入れることにある。それぞれの当事出身国が抱える恨みツラミ反目憎しみを晴らす復讐の地では絶対にない。

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