団塊的“It's me”

喜寿老(きじゅろう77歳)の道草随筆 月・水・金の週と火・木の週交互に投稿。土日祭日休み

公務員宿舎と覗き穴

2011年10月04日 | Weblog

 ある地方都市に住む男性の家に東京から孫が遊びに来た。男性は、健康維持のため柴犬竹次郎と散歩するのを日課にしている。孫は今年5歳になった。一年に2回、孫は家族と実家に来る。ある朝、男性はいつもの時間、いつもの散歩コースを孫の手を握って歩いていた。ぐっと高い金属製の塀に囲まれた工事現場のところにやってきた。そこは県庁庁舎の建て替え現場だった。面積は広大である。中が見えないと人間でも動物でも覗いてみたくなるものだ。「おじいちゃん、この中に何があるの?」と孫が聞いた。「県庁という役所の建物を建てているんだ」「僕、中みたいな」竹次郎、塀の前にあった電柱に気持良さそうにマーキングの放尿をする。しばらく歩くと、孫が男性の手を振りほどいて塀に突進した。男性は竹次郎と孫を追う。孫が嬉しそうに塀に開けられた3つの段違いの真ん中の穴の強化プラスチックに顔を押し当てた。男性は一番上の穴から、竹次郎は一番下のペット用の穴から中を覗き込んだ。まだ工事は始まっていなかったが、たくさんの建設機械や積み上げられた建築資材を見て、3者は3様に満足した。

上の文章は、実際にある県の県庁庁舎が建て替えられた時、塀に囲まれた工事現場に中を覗けるように専用の穴が開けられたことを土台に私が作った話である。野田首相が10月3日、埼玉県朝霞市の公務員宿舎の工事現場をたった15分訪れて、建設凍結を決めたと聞いたからである。朝霞市に国家公務員の宿舎が105億円かけて建設中だ。この宿舎は去年、事業仕分けで仰々しく「事業凍結」を言い渡されたが、野田首相が財務大臣だったとき、事業凍結を解除して事業執行を決めた。すくなくとも時期をもっと考えるべきである。東北の大震災の復興と公務員宿舎の建設を同時に論じる感性を疑う。

 テレビのニュース番組やワイドショー番組では、建設費が巨額だとか事業仕分けで「凍結」されていると批判的だった。私は、違った視点からこの問題をながめた。テレビに映し出された朝霞市の公務員宿舎の建設現場に目が釘付けになった。工事現場は、白くペンキで塗られた高い塀に囲まれていて、中の様子は一切外部からみることができない。建設現場は3000坪の広大な敷地だ。それをすべて覆い隠す周到さである。テレビ局のカメラが、ぐるっと一周する。人の出入り、車両の出入り、厳重で中を見られないようにしている。この事実こそ日本の役人仕事を象徴する。

 私は公務員宿舎問題を学校給食とよく似た次元の問題だと捉えている。すでに公務員宿舎を建てなければならない時代ではないのに、戦後の貧しかった時に成立した条例を利権として手放せないでいる。建てる建てないの問題より、日本の役所の相も変らぬ隠蔽体質に関心を持つ。「隣の芝生はよく見える」のである。公務員宿舎と聞くと多くの国民は、「公僕が納税者よりいい生活」と妬む。私は南青山の高官公務員用宿舎と呼ばれる官舎に住む知人を訪ねたことがある。立地環境は一等地だが、建物や間取りは三流だと感じ、羨ましいと思わなかった。だが嫉妬という感情はいかんともしがたいものである。朝霞の米軍基地だった広大な緑地帯に公務員宿舎ができる、と聞けば多くの市民は感情を逆撫でされる。「私たちが納めた税金で」と立腹する。その上建設現場に出向けば、高い金属製の塀が一切中の様子をうかがい知ることが出来ない。どんな人間でも「見るな」と言われれば見たくなるのが本心である。大人用子ども用ペット用の覗き穴を開けるくらいの情報開示精神をもてないものだろうか。建設中の建物を折に触れて公開する度量がほしい。日本の役所の隠蔽体質は、すでに時代遅れである。役所が正しいと思う事業であれば、堂々と実行すればいい。工事の進捗状況も公開すればいい。できあがった公務員宿舎も見学公開すればいい。“凍結”と決め、2年も経たないうちに“解除”して、再び“凍結”とした。野田首相のひとり言葉遊びのように受け取れる。隠すことは何もない。もっと国民にいろいろお国のやっていることを覗かせて欲しい。そのための覗き穴をあちこちに設けて欲しい。

 9月に訪れたハワイの動物園でも工事中の場所があった。故意か観客が勝手に覗くためにあけたのか、大きな穴があった。中が見えるって、気持のいいことだと真っ青な空の下で思った。(写真:ホノルル動物園ののぞき穴)

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