団塊的“It's me”

喜寿老(きじゅろう77歳)の道草随筆 月・水・金の週と火・木の週交互に投稿。土日祭日休み

どこに住めばいい

2019年10月22日 | Weblog

 10月12日朝6:59発信の東京に住む娘からのメールが入った。「パパ、無事ですか?」台風19号が私の住む地域を直撃すると気象庁で予測されていた。無事だと返信した。

 高校生の時、東京に住む華僑一家と軽井沢の教会で知り合った。父親は東京の新橋で大きな中華料理店を経営していた。子供が3人いた。何回か東京の田園調布にある自宅に招かれた。そこで父親から華僑の子供の育て方の話を聞いた。彼の長男は、小学生の時から華僑仲間の中華料理店で修業をしてすでに横浜中華街の大きな店で働いている。長女は中学を出てすぐ日本にあるフランス大使館の外交官一家のメイドとして働き、フランス語と生活様式、マナーを学んだという。次男は国際基督教大学の2年生でカナダの大学への留学が決まっていた。父親が言うには、彼ら華僑は、自分たちの経験から、いつどこで何が起こっても一家の誰かが生き残ることを考えて、子供を違う職業言葉住む場所にすると言った。この話が私の脳裏に焼き付いた。そのすぐ後、私はカナダへ留学のために旅立った。

 私はカナダから帰国して最初の結婚で二人の子供を授かった。しかし30歳になる前に離婚して二人の子供を引き取った。長男は日本の大学を卒業させようと思った。長女はアメリカの友人に預けた。華僑の知人が言った。言葉は12歳までに覚えた言葉が一生使える言葉になる。長女は10歳だった。間に合うと思った。アメリカの友人も快く長女を受け入れ、我が子のように5人の自分たちの子と一緒に育ててくれた。私は毎日手紙を書いて送った。やがてシアトルからカルフォルニアの大学に進学した。卒業間近になって、長女が手紙をくれた。日本に帰って就職したいと言った。寝耳に水。私は長女がアメリカで職を見つけ、これから先もずっとアメリカで暮らすと思っていた。長男が大学を卒業する時、日本はバブル真っただ中で挽く手もあまたの求人があった。しかしその5年後長女が帰国すると言った時は、就職氷河期で、ましてや外国の大学を卒業した女子の就職は皆無に等しかった。

 私は長女にアメリカに残って市民権を持って欲しかった。何故なら日本は災害の多い国なので、華僑の知人のように何かあったら互いに助け合えるように子供を分散させておきたかった。しかし結局長女は帰国した。最初の職場で英語が話せるというだけで壮絶な社内いじめに遭い、顔一面に精神的ストレスが原因の湿疹ができるほどだった。私は娘を帰国させたことを後悔した。それでも職を変えると嘘のように湿疹が消えた。やがて結婚して東日本大震災のすぐあと男の子を出産した。今はアメリカの会社の日本支社で水を得た魚のように働いている。

 どんなに親が子を思って子の人生に介入しても、思い通りにはいかない。それは自分の人生を振り返ればすぐにわかること。ある時、長女に尋ねた。「なぜ日本に戻ったの?」「納豆が食べたかったから」「アメリカでも納豆買えるでしょう」「日本ならだれにも気兼ねせずに堂々と食べられるでしょ」 私は“納豆かい”と言いかけたがやめた。親の思惑なんて納豆より弱いと痛感した。

 テニス選手の大坂なおみさんが国籍を日本に決め手続したとニュースが伝えた。理由はわからない。誰もが想像もつかない理由かもしれない。カツ丼が好きだからとか。ラグビーのワールドカップで見事ベスト8になった日本チームの31名のうち15名は外国人選手だそうだ。8名は帰化して日本国籍を取っている。彼らに日本は災害が多くて危険な国の認識はない。危険があっても、それでも日本に住みたい、ラグビーがしたい。その気持ちを試合で嫌という程見せてくれ、台風19号で打ちのめされた日本全体に感動と勇気を与えてくれた。

 確かに日本は災害が多い国だ。いつどこで災害に巻き込まれるかわからない。だからといって、よその国に行けば安全に暮らせるかと言えば、No、ノーである。世界で絶対安全に暮らせる理想の地があるはずもない。分かっていても災害が続くと不安になる。私はすでにコキニ(72歳)だから、何かあっても諦めがつく。子供達孫達には、生き延びて欲しいと願う。災害が多い日本で暮らすと決めたら、それなりに住む場所の危険度を調べて、災害に備えて暮らさなければならない。日本には過去から学んだ教訓がたくさんある。語り継がなければならない。被害から逃げる方法、逃げたら生き延びる方法。学校では教えてくれない。政府にも地方行政にも頼れない。日本に住む普通の人たちは、一人一人の力は小さいけれど、スクラム組んで災害と闘う。災害の強烈なタックルを何度喰らっても、起き上がりトライ(復興再起)を狙う。日本には災害が多い、でも実は、日本人は災害に強いのだ

 


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