団塊的“It's me”

喜寿老(きじゅろう77歳)の道草随筆 月・水・金の週と火・木の週交互に投稿。土日祭日休み

土手と堤防

2019年10月16日 | Weblog

  台風19号は16日午前4時NHK発表で死者74名行方不明12名52河川の73個所が決壊して大きな被害をもたらせた。私の生まれ故郷の長野県でも、長野市で千曲川の堤防が決壊して大きな被害が出ている。私は千曲川の支流の一つ矢出沢川のほとりで育った。

 私にはYという保育園から高校まで一緒だった友達がいた。Yと私の父親同士の仲が良く、私たちも気が合って小学校中学校とクラスは違ったが多くの時間を一緒に過ごした。Yの夢は東大で土木工学を学び日本中にトンネルや鉄橋をつくることだった。私の夢は、未来列車の運転手になることだった。伊勢湾台風で長野県も大きな被害を受けたことがあった。ちょうどその頃、教科書にオランダの少年ハンスが堤防の決壊を見つけ、自分の腕を一晩中差し込んで防いだという話が載っていた。(注:メアリー・メイプスドッジ著『銀のスケート』から抜粋)Yと私二人で、どうしたら堤防の決壊を防げるか紙に絵を描いて考えた。

 その後、私はカナダに渡った。残念ながらYは、目標の東大に入学しながら中退してしまった。心の病気になった。そして亡くなった。

 今回の多くの堤防の決壊をテレビが映した。私はYを思い出した。そしてYと一緒に考えた決壊しない堤防の記憶をたどって描いてみた。(写真参照)堤防は土手とも呼ばれる。土手は石と土で人によって築かれた。現在でも工法は、あまり変わっていない。ただ重機などの普及で人力が軽減された。セメントや鉄筋を使うが、土が主な資材である。

 今回堤防などの土木工学の専門家が長野市の千曲川の決壊に関する見解を次のように述べていた。『国土交通省、長野県、長野市は、堤防決壊した地帯の堤防護岸工事を完成させていたが、千曲川の川床の掘削事業に着手していなかった。もし川床を掘削してあったら、あの堤防の決壊はなかった。』 私たち小学生二人が考えた川床に太いパイプを通しておくというアイデアは悪くない。日本での公共工事は、道路のように用地買収に費用がかかる。その費用が工事費そのものよりずっと高額になると聞いている。河川の場合、国有地なので立ち退きなどの用地買収に費用がかからない。川床の掘削をしても、川は上流からどんどん土砂を運ぶ。パイプを通せば、何十年間掘削の必要はない。土手や堤防が決壊するのは、水が土手や堤防を越えて、外側から下部を削りとり、川側とつながり、そこから決壊が始まる。頑丈そうに見える堤も大部分が土である。土は水に弱い。堤の中に大口径のパイプを埋め立てあればどうか。私たち二人が小学生の時描いた図をもう一度見て欲しい。堤の中にパイプが通っている。普段その中に水は流れていない。川の水嵩が増えてきたら、パイプの取水口を開けて水をパイプに流す。パイプは中に水が流れることで重くなり堤を超えようとする水力と抗う。ここまで私たちは子供の頃考えてはいなかった。ただハンス少年の話に心打たれ、自分たちも人の役に立つ大人になりたいと知恵を絞った。

 長野の堤防決壊で水に覆われた道路の溜まったゴミの中にリンゴが1個泥だらけになって映っていた。リンゴ農家の無念が伝わった。

 Yが生きていたら、彼は、堤と川床にパイプを通す夢を実現させて、あの堤防の決壊で流されたリンゴを農家が収穫できるまで枝についたまま守ってくれただろうか。

 


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