台風10号は結局私の住む場所を通過しなかった。今回初めて遠隔豪雨という言葉を聞いた。台風と言えば個体の厄介者だと思っていた。自然のことである。私ごときに自然現象の解析などできるはずもない。しかし以前と比較して明らかに多くの点で変わってきている。猛暑しかり。台風の進路しかり。線状降水帯しかり。今年喜寿を迎えた。77年生きてきて、今までに経験したことのない恐ろしいことを、今更経験してもいい迷惑だ。
怖いものと言えば、昔から地震・雷・火事・オヤジとなる。地震は恐い。でも地震そのものの形態は変わっていない。私が子供の頃から地震は突然起こるモノと認識している。雷にも変化はない。火事は相変わらず多いが、火事の形態に変化はない。オヤジが恐いのは、キレて暴言を吐いたり高速道路を逆走したりブレーキとアクセルを踏み間違えて事故を起こすオヤジたちであるが、地震・雷・火事・オヤジの頑固オヤジとは違う部類である。
今回の台風10号の影響で私が住む町でも遠隔豪雨にみまわれ、被害が出た。鉄道が運転見合わせになり、道路が閉鎖されて数日間陸の孤島となった。妻も通勤の足を奪われ、欠勤することになった。家の前に川が流れていて、数年前の台風通過時に堤防が決壊した。今回も川の水位が上がって、上流から流されてくる大きな岩がぶつかり合う音がいやがうえにも恐怖心を募らせた。
そんな中、雨が小降りになる間隙をぬって散歩を続けている。いつも渡っている橋のたもとに大きな水たまりがあった。(写真の水たまりは小さくなってからのもの)どんなに雨が降っても今までは何とか靴を濡らさずに渡ることができた。今回は水たまりがあまりに大きくかった。仕方なく水たまりに入って渡った。靴の中に水がしみわたった。靴下がビショビショになった。一気に半世紀以上前の子供の頃に戻ったように愉快になった。そう、子供の頃、私は水たまりが大好きだった。雨が上がると長靴を履いて外へ出かけた。道路に水が溢れると側溝も道路も見えなくなって、一面水の世界だ。カンだけを頼りに、水の中を進む。そして必ず側溝にはまる。落ちるかな、大丈夫かな、が冒険心をくすぐった。終いには深みにはまってしまうことを知っていて、それでも水の中を歩き回った。全身ビショ濡れ、長靴の中はビチョビチョ。歩くたびにピチョンビチョンと長靴の中の水が音を立てた。それがまた楽しかった。
喜寿老は長靴を持っていない。ウォーキングシューズを履いている。水たまりの深さは、足のくるぶしまであった。ウォーキングシューズは、まんべんなく水に浸かった。水たまりを出ると、靴の中の水がグジュグジュした。あの長靴の中の水とは違う。でも感覚はまごうことなくあの時のものだった。
遠隔豪雨もあがり、また猛暑が戻ってきそうだ。それでも今朝の散歩で少し気温が涼しく感じた。川を見ると、川の堰の魚道に詰まっていた岩が今回の増水で押し流されていた。(写真向かって左側の岩が上の堰の魚道から流された岩)喉元に刺さっていた魚の骨が取れたように嬉しく感じた。これで魚は以前より楽に上流へ上がって行けるだろう。
台風10号は、全国に大きな被害をもたらした。今日は何もなかったように青い空にギラギラ太陽が輝いている。橋のたもとの水たまりも小さくなっていた。