巣窟日誌

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救急車を呼ばなくて、多分正解

2012-07-16 12:54:29 | 日記・エッセイ・コラム
もう1ヶ月も前の話だが、母の体調がにわかに悪くなった。

激しいめまいと吐き気と嘔吐。体を起こすのも大変そうで、体を起こした途端に吐き気が強くなり嘔吐する。脱水症状が怖いので、水分を取ろうとするが、少しでも水を飲むとそれをすぐに吐いてしまう。さらに吐き続けて胃液を吐いている。

実は数年前に救急車を呼んだときは、結果的には母の状態はそれほど悪くなかった。近くのT病院に救急搬送され内科の医師に診てもらったのだが、点滴を受けるとふらふらと立ち上がることができるぐらいにはなり、その日のうちに帰ってくることができた。

が、今回は、症状そのものは数年前の状態に似ているが、その時よりも悪そうだ。


迷った末に、東京民間救急コールセンターへ電話して相談し、サポートCab(タクシー)を回してもらうことにした。行先は数年前と同じT病院。わたしはビニール袋と紙袋で即席エチケット袋を作り母に渡した。母は玄関から距離にして10メートル以上ある門扉まで歩くのも一仕事。距離にして約2キロのタクシーの中でもエチケット袋の出番は多かった。

症状がどうであれ、タクシーで病院に行ったからには、あくまでも扱いは一般外来。受付では「めまい」という症状と最近の通院履歴から耳鼻科へ回され、混雑する外来の中、かなり間待たされた。

座るところがなかったため、待ち時間の間、病院は車いすを貸してくれたのだが、母にとっては座っているのも大変だった。そして肉親としては、その状態を見ているのはつらい。「母の診察を優先してほしい」と言おうか? そんなことをしたらモンスターペイシェントになってしまうだろうか。そんなことが頭の中でぐるぐるとまわり、結局は1時間以上おとなしく待っていることになった。

今回は、前回とは異なり、点滴などしてもらっても、やはり駄目だった。点滴のあと数歩ふらふらと歩いた母は、すぐにしゃがみ込み、手製エチケット袋に顔を突っ込んだ。吐き気止めだという飲み薬も効かない。なにしろ、薬を飲んでも、薬のために飲んだ水と一緒にすぐ吐いてしまうからだ。

これでは帰れないと思ったが、病院は「耳鼻科には患者を入院させる権限がないから、帰ってくれ」という。そこで仕方なくタクシーを呼びどうにかこうにか帰ったのだが、これもまた大仕事。翌日も病院に連れて行ったが、前日と全く同じことが起こり、再びタクシー、検査、点滴、タクシーのフルコース。母にはすべての作業に吐き気と嘔吐が伴っていたようだ。

結局、母の状態はそれほど深刻なものではなく、それから2週間かけてゆっくりと回復に向かっていった。しかし付き添う家族にとって結構大変なことだったらしく、スケジュールを全てキャンセルしなければならなかったうえに、母が良くなったのを待っていたかのように、今度はわたしが熱を出してダウンしてしまった。

「こんなに大変なのなら、あの時は救急車を呼んですぐに内科の医師に見てもらい、入院させたほうが良かったのでは」と思いながら歩いていたある日、タクシーと自転車に乗った子供がぶつかった現場に出くわした。

子供は5 mほど跳ね飛ばされ、頭を打って頭から血を流していた。すでに救急車を呼んだとのことだが、それから10分近くたっても救急車はこない。子供の意識はあり、泣き叫んでいたが、道路には子供の頭から流れたちがべったりとついていて、軽傷ではない。見物人が徐々に増え、誰もが救急車がなかなか来ないことにイライラしている。

消防署からそれほど離れていない場所なので、おそらく救急車のやりくりに手間取っているのだろう。救急車が来るまでの時間が、本当に長く感じられた。

救急車は、この子のような本当に急を要する人のためにある。母は結果的には、救急車を呼ばずとも回復に向かった。だから、救急車を呼ばないというわたしの選択は正しかった。ただしそのことで、母の負担もわたしの負担も、相当なものになったのだが。