数日前に世界中を駆け巡った、SFや幻想文学のジャンルで活躍した米国の作家レイ・ブラッドベリ(1920-2012)の訃報。ああ、わたしの脳内ファンリストからは、吉田秀和氏やら新藤兼人氏やら、そして今回のブラッドベリ氏やらと、次々に「物故者」サブフォルダに名前が移動していく。
アイザック・アシモフ(1920-1992)もアーサー・C・クラーク(1917-2008)もすでに天国にいる今(ところで天国でも「パークアベニューのクラーク‐アシモフ条約」は有効なのだろうか)、ブラッドベリもかなり高齢なので心配していたのだが、やっぱりというところか。
昨年の8月の "How old were you fifty years ago?" "Seventy-two." のところにも書いたが、ブラッドベリが生きている間に、映画『たんぽぽのお酒』(The Dandelion Wine, 1957)を完成させてほしかった。そしてTVミニシリーズになった(あるいは、TVミニシリーズにしかなっていない)『火星年代記』(The Martian Chronicles, 1950)を、是非映画化してほしい。パラマウント・ピクチャーズさん、お願いしますよ。
それ以外は、いまのところ言葉が出ない。10代の前半にどっぷりと浸かった作家なので、思い入れがありすぎるのだ。そこで言葉は出ないが、ここでは『火星年代記』のお勧めをしておこう。
◆◆◆
『火星年代記』は、短編をつなぐ形で一つの大きな流れが進行する物語である。
少数の地球人が火星に探検にいく。火星にはすでにテレパシーを持つ火星人が住んでおり、初期の探検隊は火星人のテレパシーを使った戦術により殺される。
それでも地球人はやって来る。火星人は、地球人が火星に移住することに抵抗するも、突如としてほぼ壊滅状態になる。地球人が持ち込んだ水疱瘡に罹って次々と死んでいったのだ。(伝染病のせいで先住民が大打撃を受けるのは、『銃・病原菌・鉄』にも書かれている通りだ。)
そして、火星には次々と地球人が移住し、火星を植民地化し、火星人の文明を破壊する。一方、地球では全面核戦争が勃発する…
◆◆◆
物語は、初期の版では1991年1月に始まり、2026年10月に終わる。何度か改訂があったのち、1997年の改訂では、全ての物語が31年繰り下げられ、2030年1月から2057年のものとされている。結局、実際の時の流れが1999年を超えた時点で「近過去もの」ないしは「パラレルワールドもの」になってしまったがゆえの、措置だろう。
だが個人的には、1991年1月始まりのほうが、全体がしっくりくる。先に1991年始まりを読んだせいもあるのだろうが、話の全体が、1950年前後のもののとらえ方を反映しているためだ。
今なら、「ロケットの発射に伴う熱で、町の雪が解ける」なんてなったら、「地球環境への影響は…」と大騒ぎだろう。そして先住民族(ここでは火星人)が住んでいた土地に、植民者たちがまるで自分たちが宇宙で最初に発見したがごとく、先住民族による名前を無視して、新しい地球風の名をつけるなんてナイーブな(注:「ナイーブ」を英語の意味に近いニュアンスで使用)行為をしたら、世界中から非難ごうごうで、国連で討議になるかと思われる。いや、国連がそのときにもあったらの話だが。
さて、叙情性あふれるブラッドベリの文体は、できれば原文で読んでほしい。できれば原文を音読して、その文体の美しさを味わってほしい。その美しい文体の一端を、ここに引用しておこう。訳本は家のどこかにあるはずなのだが、見つからなかったので、とりあえずは私の仮訳で。(改行やタブ挿入は、ネット用に変えてあります。)
まずは、物語の最初である、1999(2030)年1月のエピソードから。
(上記につき、同名のアダルト向けゲームは無視すること。)
そして、最後の2026(2057)年10月のエピソードの最終部分。
↓ 1999年1月が始まりのバージョン
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↓ 2030年1月が始まりのバージョン
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↓ 音で聴くならオーディオCD。これは2030年1月始まり。
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CDはなんと8枚セットで、そのうち7枚の収録時間が1時間を超える。ということは、
それだけ長い時間楽しめる
ということだ。録音はプロの俳優が行ったために、非常に聴き取りやすい。かつてはブラッドベリ本人が録音していたものが存在しており、わたしも持っていたのだが、いくらブラッドベリのファンとはいえ、やはり長時間録音はプロがやったほうがよいと感じた。いや、ブラッドベリ本人が目の前で読んでくれる…ってんだら、話は別だけど。
アイザック・アシモフ(1920-1992)もアーサー・C・クラーク(1917-2008)もすでに天国にいる今(ところで天国でも「パークアベニューのクラーク‐アシモフ条約」は有効なのだろうか)、ブラッドベリもかなり高齢なので心配していたのだが、やっぱりというところか。
昨年の8月の "How old were you fifty years ago?" "Seventy-two." のところにも書いたが、ブラッドベリが生きている間に、映画『たんぽぽのお酒』(The Dandelion Wine, 1957)を完成させてほしかった。そしてTVミニシリーズになった(あるいは、TVミニシリーズにしかなっていない)『火星年代記』(The Martian Chronicles, 1950)を、是非映画化してほしい。パラマウント・ピクチャーズさん、お願いしますよ。
それ以外は、いまのところ言葉が出ない。10代の前半にどっぷりと浸かった作家なので、思い入れがありすぎるのだ。そこで言葉は出ないが、ここでは『火星年代記』のお勧めをしておこう。
◆◆◆
『火星年代記』は、短編をつなぐ形で一つの大きな流れが進行する物語である。
少数の地球人が火星に探検にいく。火星にはすでにテレパシーを持つ火星人が住んでおり、初期の探検隊は火星人のテレパシーを使った戦術により殺される。
それでも地球人はやって来る。火星人は、地球人が火星に移住することに抵抗するも、突如としてほぼ壊滅状態になる。地球人が持ち込んだ水疱瘡に罹って次々と死んでいったのだ。(伝染病のせいで先住民が大打撃を受けるのは、『銃・病原菌・鉄』にも書かれている通りだ。)
そして、火星には次々と地球人が移住し、火星を植民地化し、火星人の文明を破壊する。一方、地球では全面核戦争が勃発する…
◆◆◆
物語は、初期の版では1991年1月に始まり、2026年10月に終わる。何度か改訂があったのち、1997年の改訂では、全ての物語が31年繰り下げられ、2030年1月から2057年のものとされている。結局、実際の時の流れが1999年を超えた時点で「近過去もの」ないしは「パラレルワールドもの」になってしまったがゆえの、措置だろう。
だが個人的には、1991年1月始まりのほうが、全体がしっくりくる。先に1991年始まりを読んだせいもあるのだろうが、話の全体が、1950年前後のもののとらえ方を反映しているためだ。
今なら、「ロケットの発射に伴う熱で、町の雪が解ける」なんてなったら、「地球環境への影響は…」と大騒ぎだろう。そして先住民族(ここでは火星人)が住んでいた土地に、植民者たちがまるで自分たちが宇宙で最初に発見したがごとく、先住民族による名前を無視して、新しい地球風の名をつけるなんてナイーブな(注:「ナイーブ」を英語の意味に近いニュアンスで使用)行為をしたら、世界中から非難ごうごうで、国連で討議になるかと思われる。いや、国連がそのときにもあったらの話だが。
さて、叙情性あふれるブラッドベリの文体は、できれば原文で読んでほしい。できれば原文を音読して、その文体の美しさを味わってほしい。その美しい文体の一端を、ここに引用しておこう。訳本は家のどこかにあるはずなのだが、見つからなかったので、とりあえずは私の仮訳で。(改行やタブ挿入は、ネット用に変えてあります。)
まずは、物語の最初である、1999(2030)年1月のエピソードから。
One minute it was Ohio winter, with doors closed, windows locked, the panes blind with frost, icicles fringing every roof, children skiing on slopes, housewives lumbering like great black bears in their furs along the icy streets.
And then a long wave of warmth crossed the small town. A flooding sea of hot air; it seemed as if someone had left a bakery door open. The heat pulsed among the cottages and bushes and children. The icicles dropped, shattering, to melt. The doors flew open. The windows flew up. The children worked off their wool clothes. The housewives shed their bear disguises. The snow dissolved and showed last summer's ancient green lawns.
Rocket summer. The words passed among the people in the open, airing houses. Rocket summer. The warm desert air changing the frost patterns on the windows, erasing the art work. The skis and sleds suddenly useless. The snow, falling from the cold sky upon the town, turned to a hot rain before it touched the ground.
Rocket summer. People leaned from their dripping porches and watched the reddening sky.
The rocket lay on the launching field, blowing out pink clouds of fire and oven heat. The rocket stood in the cold winter morning, making summer with every breath of its mighty exhausts. The rocket made climates, and summer lay for a brief moment upon the land.... (The Martian Chronicles, 1950)
(一時はオハイオの冬だった。ドアは閉じられ、窓には錠がおり、窓枠は霜で覆われ、どの屋根にもつららがぶら下がり、子どもたちは斜面でスキーをし、主婦たちは毛皮を着て、大きなクロクマのように凍った通り沿いをのっしのっしと歩いていた。
そして、長い暖波が小さな町を通り抜けた。熱い空気の洪水。それは誰かが製パン所のドアを開けっ放しにしたような感じだった。コテージと茂みと子どもたちの間に、熱が脈打った。つららは落ち、砕け、溶けた。ドアはぱっと開いた。窓はぱっと上がった。子どもたちは毛糸の服を脱いだ。主婦たちはクロクマの扮装から脱皮した。雪が解け、昨夏の古い緑の芝生が現れた。
「ロケットの夏」。この言葉が、開け放して空気を入れ換えている家々の、人々の間に伝わった。「ロケットの夏」。暖かい砂漠の空気は窓の霜の模様を変え、自然の芸術を消した。スキーとそりは突如として用なしとなった。冷たい空から町に落ちてくる雪は、地面に届く前に熱い雨と化した。
「ロケットの夏」。人々は水滴がポタポタと落ちるベランダから身を乗り出して、赤らんでゆく空を見守った。
ピンク色の炎の雲と炉熱を噴きだしながら、ロケットは発射エリアに横たわっていた。寒い冬の朝、その巨大な排気で夏を作りつつ、ロケットは直立した。ロケットが天気を作り、ほんのつかの間だが、この土地は夏になった…)
(上記につき、同名のアダルト向けゲームは無視すること。)
そして、最後の2026(2057)年10月のエピソードの最終部分。
They reached the canal. It was long and straight and cool and wet and reflective in the night.
"I've always wanted to see a Martian," said Michael. "Where are they, Dad? You promised."
"There they are," said Dad, and he shifted Michael on his shoulder and pointed straight down.
The Martians were there. Timothy began to shiver.
The Martians were there--in the canal--reflected in the water. Timothy and Michael and Robert and Mom and Dad.
The Martians stared back up at them for a long, long silent time from the rippling water...
(The Martian Chronicles, 1950)
(運河に着いた。夜で、運河は長くてまっすぐで冷たくて濡れていて、光を反射していた。
「ずーっと火星人が見たかったんだ」とマイケルは言った。
「火星人はどこ?パパ、約束だよね?」
「ほら、あそこだ」パパはそう言うと、マイケルを肩に乗せ、真下を指さした。
火星人たちは、そこにいた。ティモシーが震えだした。
火星人たちはそこに ― 運河の中に―いた。水に映って。ティモシーにマイケルにロバートにママにパパ。
波打つ水面から、ずっとずっと長い間無言のまま、火星人たちが彼らを見つめ返していた。)
↓ 1999年1月が始まりのバージョン
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↓ 2030年1月が始まりのバージョン
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↓ 音で聴くならオーディオCD。これは2030年1月始まり。
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CDはなんと8枚セットで、そのうち7枚の収録時間が1時間を超える。ということは、
それだけ長い時間楽しめる
ということだ。録音はプロの俳優が行ったために、非常に聴き取りやすい。かつてはブラッドベリ本人が録音していたものが存在しており、わたしも持っていたのだが、いくらブラッドベリのファンとはいえ、やはり長時間録音はプロがやったほうがよいと感じた。いや、ブラッドベリ本人が目の前で読んでくれる…ってんだら、話は別だけど。