巣窟日誌

お仕事と研究と私的出来事

ニヒヒヒヒヒヒィ

2006-04-19 22:26:49 | ノラネコ
40年近く住んだ家の解体が昨日終わった。

「モノには皆それぞれに魂が宿っている」という古来の考え方を尊重するわたしである。解体の前日には旧家屋の四隅に盛り塩をし、柱に酒をふりかけ、感謝の意を込めて手を合わせて家に祈った。

しかし目の前で徐々に家が壊されていっても、感傷よりは「へぇー、こうやって壊すんだ」と感心するほうが多かったし、旧家屋のちぐはぐな造り(立派なものと安普請が1軒の家の中に同時に存在する)に、あらためて笑ってしまったものだ。

とはいうものの、やはり解体は精神的に応えたらしい。解体が始まるタイミングで、わたしは大きく体調を崩してしまい、解体が始まって3日目に変な夢をみた。

さて家の解体は人間ばかりでなく、家を自分のテリトリーと考えるノラネコの心にも多大なる影響を及ぼしたようである。考えてみれば人間の側は、お願いしてお金を払って解体してもらうのだが、ネコにとっては自分のテリトリーに知らない人間が入り込み、その場所を完全に破壊されてしまう行為に他ならない。

解体の初日の朝、解体業者が足場を組んでもなお、ノラネコのゴキリョウはいつものように、旧家屋の2階のベランダに陣取っていた。ところが、業者が玄関や窓を全開にして入っていったとたん、他のノラネコ数匹が職人さんの後について家の中に乱入してしまい、おかげでゴキリョウは家を追い出された形になった。しかも、解体の第1日目に、ほぼ全ての部屋のドア、ふすま、窓、畳のほかにゴキリョウの居場所たるベランダを取り外してしまった。

こうなると彼女に帰る場所はなく、彼女はあわててわが家の敷地に隣接する公園に逃げ込んだ。で、ここからゴキリョウは予想外の行動を取り始めた。

ネコ嫌いの母の話によれば、母が庭に出て作業をしているときに、公園側に隠れていたゴキリョウが母を見つけた。何を思ったのかゴキリョウは、公園とわが家を隔てる高さ1.4mのネットフェンスを必死の形相でよじ登り、母の近くに来て何かを訴えるようにニャーニャーと鳴きはじめた。

この近所にノラネコは多いが、このネットフェンスをあえて越えようとするネコはいない。そしてゴキリョウは愛想のないネコで、母やわたしやその他大勢の人間に向かって鳴いたことはない。(ノラネコをかわいがっている一部の人間には、鳴いていたらしいが。)

その話に半信半疑だったわたしが庭に出ると、どこからかゴキリョウが現れて、鳴き出した。近寄ると逃げてしまう。でもまたすぐに近づいてきて鳴く。これの繰り返し。

以来、ゴキリョウはわたしや母が庭に出ると、いつの間にかやってきて、鳴き続ける。実は「ニャーニャー」というよりは息が喉から漏れるような声で、弱弱しく「ニヒヒヒヒヒヒィ」と鳴く。抗議しているようでもあり、嘆き悲しんでいるようでもある。「あたしの家がなくなってしまった。あたしの家が、家がぁ…」と。

あまりにも気の毒で申し訳ないので、母と相談の末、ゴキリョウに「ふくしま家の庭の使用許可」を出しておいた。許可が出ようが出まいが、いずれにせよ今日もまた彼女はやってきて、ニヒヒヒヒィと言っているのだが。