巣窟日誌

お仕事と研究と私的出来事

バンクー、あるいはキャラクター商法

2004-12-21 22:37:11 | 異文化コミュニケーション
bankoo

合併前の住友銀行のキャラクター「バンクー」の貯金箱。佐藤雅彦氏デザインのこのクマのキャラクターは、1995年に誕生し住友銀行の合併とともに消えてしまったが、今でもバンクー・グッズのコレクターがいるらしい。

1997年のことだった。帰宅途中で財布の入ったバッグをなくしてしまった。財布の中には住友銀行のキャッシュカードも入っていた。翌日、就業時間中に時間をもらって、銀行にカード再発行の手続きにいったのだが、写真の貯金箱はそのときにもらったものだ。当時、会社では英国本社からのお客様が滞在中で、わたしがオフィスにもって帰ったバンクーの貯金箱が彼女の興味をひいた。

「このキャラクターは何なの? 架空の動物なの?」

クマのキャラクターだと答えると、

「どうしてこれがクマだとわかるの? 日本人はクマをこのように描くのが普通なの?」
「クマと銀行とどのような関係があるの? 日本ではクマと銀行が関連づけられるの?」
「どうして銀行がこのようなものを配るの?」

と、矢継ぎ早に質問された。

銀行とクマは関係ないのかもしれないが、日本の銀行はしばしばこういうキャラクターグッズをつくり、日本人の中にはこうしたキャラクターのグッズやキャラクターの絵のついた通帳やキャッシュカードがほしいがためだけに、その銀行に口座を作る人もいるのだ、と説明した。

しかしこの説明がよけいに彼女を混乱させたようだった。なかば納得のいかない顔で、体勢を立て直そうとしてか彼女はわたしに違う質問した。

「これはどういう種類のクマなの?」

日本にいるクマはbrown bear(ヒグマ)とAsiatic black bear(ツキノワグマ)の2種類であり、ヒグマは北海道にしかいないし身体も大きく性格も荒いので、キャラクターとして使ったのはおそらく後者であろう。日本ではAsiatic black bearはmoon bearとも呼ばれている。その理由は胸のところに白い三日月形に毛が生えているからで…

あまり深く考えずにそんな説明をしながら、バンクーの腹をもう一度みて「しまった」と思った。バンクーの白い部分は三日月形ではないぞ!

「でもこれ、三日月形ではないわよ。」
「(うろたえて)…そうですね。」
「やっぱりこれはクマではなくて、空想上の動物ではないの?」
「(きっぱり)いいえクマです。」
「どうしてクマだとわかるの?」
「(きっぱり)銀行がそう主張していますから。」
「なぜ銀行がわざわざそう主張しているの?」
「(自信なく)…たぶん、誤解を招きたくなかったからでしょうか…」
「誤解を招くかもしれないキャラクターを、なぜ銀行は使ったの?」
「(少しばかりムキになって)日本ではキャラクターとそれを使う会社の業務内容には、それほど関連がなくてもいいんです。それに、かわいくて親しみがもてさえすれば、実際の動物とその動物を元にデフォルメしたキャラクターの外見が大きく違っていてもいいんです。」

彼女はいよいよ混乱してしまい、分けがわからないというジェスチャーをしながら彼女がこういって話は終わった。

「やっぱりわたしには、銀行とクマの関係がわからないわ…」

日本ではポピュラーなキャラクター商法を、外国人にうまく説明するのは非常に難しいということを実感した瞬間だった。そしてわたしは今でも、日本ではなぜキャラクター商法が有効なのかを外国人が納得するように説明することができないでいる。